年間300冊を読む池澤春菜さん、本が人生を支えてきた理由
声優として数多くの作品に出演する一方、作家・エッセイストとしても活動する池澤春菜さん。幼い頃から本に囲まれ、現在まで年間300冊ほどを読むという筋金入りの読書家です。『心おどる あの人の本棚(2)池澤春菜(声優・作家)(2026年8月11日)』では、あふれるほどの蔵書とともに、SFとの出会いや、苦しい時期を支えてくれた本が紹介されます。本好きとして気になるのは、何を読んでいるかだけではなく、なぜそれほど本が必要なのかというところです。今回は、その背景まで掘り下げます。
この記事でわかること
- 池澤春菜さんが年間300冊を読む理由
- 池澤春菜さんとSFとの深い関係
- 声優から作家へ活動が広がった背景
- 読みたい本を見つけるときの考え方
池澤春菜さんは幼い頃から年間300冊ペースで本を読む読書家
まず一番気になる「本当に年間300冊も読むの?」という点ですが、これは池澤春菜さん自身について繰り返し紹介されている読書量です。
NHK出版のプロフィールでも、池澤さんは小説家の父・池澤夏樹さんの影響で本に囲まれて育ち、年間300冊の本を読む人物として紹介されています。幼少期から長い間、年間300冊ほどのペースで読み続けているとする紹介もあります。
年間300冊というと、単純計算では約1.2日に1冊です。
「仕事をしながらそんなに読めるの?」と驚きますが、池澤さんの場合、本を読むことが特別な趣味というより、生活そのものの一部になっていると考えたほうが近そうです。
しかも、読書のジャンルは1つではありません。特にSFやファンタジーを深く愛する読書家として知られる一方、海外文学などにも幅広く目を向けています。
年間300冊という数字だけを見ると「速読の達人」のように感じますが、個人的には、冊数そのものよりも、何十年も読み続けていることのほうが印象的です。
本をたくさん読む人になろうとして急に300冊を目標にするというより、読みたい本を途切れさせない生活が結果として300冊になっている。そんな読み方なのかもしれません。
池澤春菜さんの本棚が玄関まで広がるほど増えた理由
池澤さんの本好きが分かりやすく表れているのが、自宅の本棚です。
2025年のインタビューでは、膨大な蔵書を抱え、書斎には「今読んでいる本」や、これから文章を書く際に引用・参照する可能性がある本などを置いていることを明かしています。さらに本棚では、視覚的な情報量を抑えるため、本を色別に分けて並べる工夫もしていました。
今回紹介されている本棚も、本が棚だけに収まらず玄関まで占領しているほど。
本好きなら「分かる」と感じる部分ではないでしょうか。
本は1冊なら小さくても、年間300冊ペースで増えていけば、1年で300冊、10年なら単純計算で3000冊です。すべてを手元に残すわけではないとしても、収納が大きな問題になるのは自然です。
ただ、池澤さんの場合は単に本を集めているわけではありません。
読む本だけではなく、文章を書くために参照する本もあるため、本棚そのものが資料庫や仕事場としての役割も持っていることが分かります。
ここは、一般的な「本好きの部屋」と少し違うところです。
一度読んで終わりではなく、「また必要になるかもしれない」「別の作品を読んだあとで読み返したい」という本が増えるほど、本を簡単に手放せなくなるのも納得できます。
池澤春菜さんがSFを愛するのは「違う世界」を見せてくれるから
池澤春菜さんを語るうえで外せないのがSFです。
池澤さんは2013年から日本SF作家クラブの会員となり、2020年から2022年には第20代会長を務めました。単にSFを読むファンというだけではなく、書き手としてもSFの世界に深く関わっています。
著書『SFのSは、ステキのS』では、長年読み続けてきたSFへの思いを文章にしています。
同作は第48回星雲賞ノンフィクション部門を受賞しました。また、堺三保さん原作の『オービタル・クリスマス』では第52回星雲賞日本短編部門を受賞しています。
つまり池澤さんにとってSFは、「好きなジャンル」というだけではなく、読むこと、考えること、書くことがつながっている大きな柱です。
SFというと宇宙船や未来技術を思い浮かべる人もいるかもしれません。
しかしSFのおもしろさは、「今とは違う社会だったら?」「人間とは違う存在と暮らしたら?」「科学技術がさらに進んだら?」と、現実から少し距離を置くことで、逆に現在の社会や人間について考えられることにもあります。
池澤さんの初の小説集『わたしは孤独な星のように』も、SF作品を収めた一冊です。2024年5月に刊行され、読者として長年親しんできたSFが、やがて自ら物語を書くところまでつながっています。
読んできたものが、その人自身の表現につながる。
個人的には、池澤さんの本棚を見るうえで、ここがいちばんおもしろいところだと感じます。
声優なのに作家としても活動しているのはなぜ?
池澤春菜さんを声優として知った人にとっては、「いつから作家になったの?」という疑問も出てきます。
池澤さんは高校生の頃に声優としてデビューしました。
一方で、声の仕事と並行して週刊誌で書評の連載を始めるなど、かなり早い段階から「本について書く仕事」にも携わっています。
代表的な著書には、
- 『乙女の読書道』
- 『SFのSは、ステキのS』
- 『ぜんぶ本の話』
- 『わたしは孤独な星のように』
などがあります。『ぜんぶ本の話』は父の池澤夏樹さんとの共著です。
さらに翻訳にも関わっており、池澤夏樹さんとの共訳でウィリアム・ブレイク『無垢の歌』も手がけています。
「声優から突然小説家になった」というより、もともと声の仕事と並行して読書・書評・エッセイ・SFに長く関わり、その延長線上に創作がある、と見るほうが実態に近いでしょう。
声優は用意された文章を読み取り、人物の感情や状況を解釈して声で表現する仕事です。
一方、作家は自分で言葉を組み立てて世界を作ります。
一見違う仕事ですが、どちらにも言葉を深く読む力が関係しています。
年間300冊という読書量を知ると、この2つの仕事を同時に続けてきたことにも、少し納得できる気がします。
「生きるのがつらいときに支えてくれた本」が持つ意味
今回特に気になるのが、池澤さんが生きるのがつらい時期に支えられた本について語る点です。
本は問題を直接解決してくれるわけではありません。
それでも、苦しいときに読んだ言葉が長く残ることがあります。
自分と同じような人物が物語の中にいるだけで、「こう感じるのは自分だけではない」と思えることがありますし、自分とはまったく違う時代や国の物語を読むことで、いったん現実から距離を取れることもあります。
池澤さんの場合、幼い頃から特にSFやファンタジーを愛してきたことが紹介されています。
現実とは違う世界を描く作品は、ときに「現実逃避」と言われることもあります。
でも、個人的には必ずしも悪いことではないと思います。
つらい現実から一時的に離れ、別の世界で呼吸してから戻ってくる。それで気持ちを立て直せるなら、本はかなり実用的な存在でもあります。
「人生を変えた本」というと大げさに聞こえますが、実際にはその日をなんとか乗り越えるための1冊が、何年も心に残ることもあります。
池澤さんの本棚が興味深いのは、有名作品のランキングではなく、そうした本人の人生と本との結びつきが見えてくるところでしょう。
文学一家で育ったことは池澤春菜さんの読書にどう影響した?
池澤さんは1975年、ギリシャのアテネ生まれ。
父は小説家・詩人として知られる池澤夏樹さんです。NHK出版では、父の影響もあり、本に囲まれて育ったことが紹介されています。
「親が作家なら自然に本好きになるのでは」と思ってしまいますが、家に本が大量にあることと、自分自身が年間300冊読むほど好きになることは別の話です。
重要なのは、幼い頃から本が「特別なもの」ではなく、いつでも手を伸ばせる身近な存在だったことでしょう。
本屋や図書館で1冊ずつ選ぶのとは違い、家の中に知らない世界への入り口が大量にある。
これは読書環境としてかなり大きな違いです。
さらに池澤さんには、イギリス、タイ、中国、アメリカ、チリなどへの留学経験があります。
さまざまな文化や言語に触れてきた経験も、海外文学やSFなど幅広い本への関心と無関係ではなさそうです。
ただし、「文学一家だから作家になった」と単純に結びつけるのは避けたいところです。
読書を続け、書評を書き、エッセイを書き、SFコミュニティーで活動し、小説を書くまでには、本人自身の長い積み重ねがあります。
池澤春菜さんの本選びから真似できること
年間300冊は、なかなか真似できません。
でも、池澤さんの読書との付き合い方から取り入れられる部分はあります。
まず、「名作だから読む」「仕事に役立つから読む」といった目的だけに縛られず、自分が本当におもしろいと思えるジャンルを持つことです。
池澤さんの場合、それがSFやファンタジーです。
年間300冊読む人でも、すべてのジャンルを均等に読んでいるわけではなく、「これが好き」という軸があります。
そして、今すぐ必要な本と、あとで必要になるかもしれない本を分けて考えているところも参考になります。
実際に本を選ぶなら、
「今の自分が読みたいのか」
「知りたいことがあるのか」
「気持ちを切り替えたいのか」
「純粋に物語を楽しみたいのか」
このあたりを考えるだけでも選びやすくなります。
話題の本を無理に読む必要はありません。
本棚は、他人に評価してもらうためのコレクションではなく、自分が何に興味を持ってきたのかが残る場所でもあります。
たしかに「年間300冊」と聞くと冊数に目が向きます。
でも池澤春菜さんの読書歴を知るほど、大事なのは数ではなく、「必要なときに本がそばにある状態を何十年も続けていること」なのだと感じます。
池澤春菜さんの本を初めて読むならどれ?
本人の読書観を知りたい人なら、まず候補になるのが**『SFのSは、ステキのS』**です。
SFをどのように楽しんでいるのかを知る入口になります。
父・池澤夏樹さんとの本をめぐる話に興味があるなら**『ぜんぶ本の話』、作家としての池澤春菜さんを知りたいなら、初の小説集『わたしは孤独な星のように』**という選び方ができます。
どれが一番いいかは、読み手が何を知りたいかで変わります。
読書家としての考え方を知りたいならエッセイ、物語を楽しみたいなら小説。
実際に選ぶなら、ここは確認したいところです。
年間300冊読む人の推薦本を全部追いかけるのは現実的ではありません。それよりも、池澤さんが本を選ぶように、自分の興味から次の1冊へつなげていくほうが、長く読書を楽しめるでしょう。
本棚は、持ち主がこれまで何を考え、何に救われ、どんな世界に憧れてきたのかを静かに残しています。
池澤春菜さんの本棚がおもしろいのも、冊数が多いからだけではありません。
声優、読書家、書評家、エッセイスト、そしてSF作家へと広がってきた人生の途中に、いつも本があったことが見えてくるからです。
出典・参考資料


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