子ども7人と暮らす一級建築士・井野優一さんの家づくり
『見取り図の間取り図ミステリー!(大家族&激安移住スペシャル)(2026年8月27日)』で登場するのは、2歳から15歳までの子ども7人を育てる9人家族の家です。設計した父は一級建築士の井野優一さん。子ども部屋は4室だけという不思議な間取りの背景には、大家族での暮らしと建築のプロとしての経験から生まれた考え方があります。井野さんの経歴から自邸「峻嶺の家」、受賞歴、現在の仕事まで詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- 子ども7人と両親が暮らす9人家族の家の特徴
- 井野優一さんが群栄美装で住宅事業を始めた経緯
- 自邸「峻嶺の家」の中庭・性能・設計の工夫
- 日本エコハウス大賞の受賞歴と現在の仕事
子ども7人でも子ども部屋を4室にした9人家族の暮らし
(出典:群栄建築舎|IECOCORO「峻嶺の家」)
群馬県で暮らす井野優一さん夫妻には子どもが7人います。家族は両親を合わせて9人。住宅業界の専門媒体が2025年に自邸を取材した際には、子どもたちは生後半年から中学2年生までと紹介されていました。2026年の番組情報にある「2歳から15歳までの子ども7人」という家族構成とも重なります。
その9人が暮らすのが、群馬県前橋市に建つ「峻嶺の家(しゅんれいのいえ)」です。
特に目を引くのが、子どもが7人いるのに子ども部屋が4室しかないことです。家族が多ければ、人数分の個室をつくりたくなりそうですが、この家は「部屋の数」だけで居場所を確保する考え方ではありません。
日本エコハウス大賞でも、多人数の家族がそれぞれストレスなく過ごせるよう、家の内外に数多くの「居場所」が設けられている点が紹介されています。
例えば、
- 小下がりになったテレビスペース
- 赤城山を眺められるダイニング
- 中庭
- 庭につながる屋根付き空間
- ゆとりを持たせた通路
など、寝室や子ども部屋以外にも腰を落ち着けられる場所があります。
9人全員がリビングに集まるか、それぞれ個室に入るかという2択にしないのがポイントです。
家族と一緒にいたいとき、少し離れたいとき、テレビを見たいとき、静かに過ごしたいとき。その日の気分に合わせて場所を選べるようにすることで、子ども部屋の数とは別の方法で一人ひとりの居場所を確保する設計になっています。
大家族の家というと「収納を増やす」「部屋数を増やす」に目が向きがちですが、家全体を居場所として使う発想が、この住まいの大きな特徴です。
一級建築士として群栄美装の住宅事業を立ち上げた経歴
井野優一さんは1986年、群馬県前橋市生まれ。
前橋商業高校を卒業後、足利工業大学工学部建築学科で建築を学びました。大学卒業後はゼネコンに入り、現場監督として公共施設などの施工管理を経験しています。
現在は株式会社群栄美装の代表取締役・一級建築士です。一級建築施工管理技士、管理建築士の資格も持ち、井野建築設計事務所を運営しています。
興味深いのは、最初から家業で住宅を建てていたわけではないことです。
井野さんが入社した頃の群栄美装は、父親が経営し、ゼネコンの下請工事を主力としていた会社でした。
そこから井野さん自身が住宅事業をゼロから立ち上げています。2021年の時点では、新築住宅を年間7〜8棟手掛け、約1年半先まで着工予定が埋まる工務店へと成長していました。
会社の方向性を変えた背景にあったのが、井野さん自身の「建築を自分でつくりたい」という思いでした。
住宅では、建物だけでなく庭や外構、窓から見える景色、自然素材、断熱や空調まで一体で設計できます。
現在の群栄建築舎が掲げる「性能が良く、デザインにも優れた住まい」という考え方は、井野さんが住宅事業を始めてから積み重ねてきた仕事につながっています。
27歳で父の会社へ入った転機と「住宅をやりたい」という決断
井野さんにとって大きな転機になったのが27歳です。
ゼネコンで現場監督をしていた井野さんは、父親が経営する群栄美装へ入社しました。
そのとき胸にあったのが、「住宅をやりたい」という強い思いでした。
ゼネコンの施工管理では大きな建物に携われますが、住宅なら自分自身が設計やデザイン、施工に直接関わり、住む人の反応まで近い距離で感じられます。
井野さんは住宅を始めた当初から、見た目だけではなく、健康や快適性に関わる温熱環境にも力を入れました。
さらに庭と住宅を一体で考えること、自然素材を使うこと、窓から見える景色まで設計することなど、自分が良いと思う建築を積み重ねていきます。
地域工務店としては珍しいほど設計に力を入れてきたことが、後の群栄美装の特徴になりました。
そして住宅事業を立ち上げて約10年以上がたった後、自分たち家族のためにつくった家が「峻嶺の家」です。
施主が別にいる住宅ではなく、設計者本人が妻と7人の子どもと暮らす家。
これまで顧客に提案してきた設計思想を、自分自身の暮らしで試す場所でもあります。
自邸「峻嶺の家」に取り入れた大家族のための設計
「峻嶺の家」は2025年2月に完成した平屋です。
建物は中庭を囲むコートハウス形式。外側へ大きく開くのではなく、家の中心にある中庭へ向かって各空間が開いています。
この構造には、大家族との相性の良さがあります。
例えば子どもが庭にいて、親が室内にいても、中庭越しに気配を感じられます。一方で、各スペースは適度に離れているので、9人が同じ空間に密集する必要もありません。
さらに面白いのがテレビの位置です。
テレビを大きなリビングの中心に置くのではなく、小下がりの専用スペースを設けています。
テレビを見る人と、食事をする人、読書をする人、庭を眺める人が同じ場所を取り合わずに済みます。
人数が多い家庭ほど、誰かの「したいこと」と別の家族の「したいこと」がぶつかります。
そこで巨大な1室ですべてを解決するのではなく、小さな居場所を家全体に分散させる。
この考え方こそ、7人の子どもを育てる父親と一級建築士という井野さんの2つの立場が重なった設計といえます。
素材にも特徴があります。
内外装には紀州材や自然由来の塗り壁などを採用。木の手触りや香りまで含め、数字では測れない心地よさも重視しています。
約175坪の敷地に建つ平屋と中庭に散りばめた家族それぞれの居場所
「峻嶺の家」の規模はかなり大きく、
- 敷地面積:578.69㎡(175.05坪)
- 延床面積:217.50㎡(65.79坪)
- 構造:平屋
- 家族構成:夫婦+子ども7人
- 完成:2025年2月
となっています。
約175坪というのは建物の広さではなく敷地の広さです。約65.8坪の平屋を建て、その中央付近に中庭を配置しています。
土地選びにも理由があります。
北側に見える赤城山を日常の景色として取り込みたかったためです。
住宅設計では日射を得やすい南面に大きな窓を設けるのが基本ですが、この家では北側にも大きな開口を設けています。
性能上の数字だけを優先すれば避ける選択肢でも、毎日赤城山を眺められることには別の価値があります。
そこで窓を諦めるのではなく、断熱や空調の設計を高めて弱点を補いました。
中庭にも山取りの木々を植え、小川を思わせる循環水流を設けています。
家の中心に人工的な庭を置くだけではなく、四季によって変化する自然を暮らしの中へ取り込む考え方です。
そして中庭、ダイニング、小下がり、屋根付きの外部空間、幅に余裕を持たせた通路などが、それぞれ家族の居場所になります。
9人家族だから1つの巨大空間をつくるのではなく、9人がそれぞれ好きな距離感で過ごせる家にしたところが、この平屋の面白さです。
日本エコハウス大賞最優秀賞につながった住宅性能と設計力
「峻嶺の家」は第9回日本エコハウス大賞のモデルハウス・自邸部門で最優秀賞に選ばれました。
評価されたのは見た目だけではありません。
住宅性能は、
- 断熱等級6
- UA値0.31W/㎡K
- C値0.3㎠/㎡
- 耐震等級3
- 太陽光発電
- 蓄電池
- 第1種換気
という仕様です。
UA値は、家の中の熱が外へどれくらい逃げやすいかを示す数値で、低いほど断熱性能が高くなります。
C値は建物にどれくらい隙間があるかを示す数値です。
9人が暮らす約66坪の大きな平屋では、夏と冬の冷暖房も大きな課題になります。
そこで壁や屋根に厚い断熱材を入れ、高性能な窓を組み合わせ、暖冷房負荷や空調の風量まで計算しています。
耐震性能も許容応力度計算による耐震等級3です。
審査では、住宅としての性能と建築としての美しさの両立が高く評価されました。
高性能住宅というと、断熱・気密の数字ばかりを追いかけるイメージもあります。
しかし「峻嶺の家」は、性能を確保したうえで、
赤城山を眺める窓
家族が散らばれる中庭
木や塗り壁の質感
9人それぞれの居場所
まで一緒に考えています。
「性能のために暮らしを合わせる」のではなく、したい暮らしを実現するために性能で支える住宅になっているところが大きな特徴です。
群栄建築舎のモデルハウスとして続く現在の仕事
「峻嶺の家」は井野さん一家の自宅ですが、それだけではありません。
現在は群栄建築舎の平屋モデルハウスでもあり、実際に家族が暮らしている住まいを見学できる形になっています。見学は事前予約制です。
完成直後から家づくりを検討する一般客だけでなく、全国の工務店関係者も視察に訪れています。
井野さんの仕事も住宅だけにはとどまりません。
群栄美装では注文住宅に加えて、店舗やオフィスなどの木造建築やリノベーションも手掛けています。近年は7000万円を超える住宅を年間2〜3棟手掛けるようになり、井野さんは設計・監理業務を全国へ広げる考えも示しています。
27歳で父の会社へ入り、「住宅をやりたい」と始めた仕事。
そこから住宅事業を立ち上げ、自分自身の7人の子どもとの暮らしを反映した家を設計し、その自邸が建築賞を受賞するまでになりました。
「子ども7人なのに子ども部屋は4室」という間取りだけを見ると不思議ですが、井野さんの仕事をたどると、その考え方が見えてきます。
部屋を人数分並べるのではなく、家の中にも外にも居場所をつくる。
家族全員を常に一緒にするのでも、完全に分けるのでもない。
9人がそれぞれ自分の距離感で暮らせることを、家全体で支える設計が「峻嶺の家」の一番の特徴です。
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