動物園を飛び出した外平友佳理が続ける「さすらい獣医師」の仕事
動物病院を構えて犬や猫を診るだけが、獣医師の働き方ではありません。外平友佳理さんは動物園で20年以上経験を積んだ後に独立し、さまざまな施設や飼い主のもとへ出向くフリーランス獣医師として活動しています。『ニュースブリッジ北九州(2026年8月19日)』でも取り上げられる外平さんは、ハムスターからライオンまで幅広い動物と向き合ってきました。獣医師を志した原点、動物園を離れた転機、SALU設立後の仕事と若い世代への思いをたどります。
この記事でわかること
- 外平友佳理さんが獣医師を目指した高校時代の出来事
- 動物園獣医師として20年以上積み重ねた経験
- フリーランスとして独立しSALUを設立した経緯
- 診療だけでなく若手育成や環境保全にも取り組む現在
外平友佳理は日本でも珍しいフリーランス獣医師
外平友佳理(そとひら ゆかり)さんは、北九州を拠点に活動する獣医師です。
肩書は外平動物総合事務所(SALU)代表、獣医師・学芸員・獣医学博士。動物園で20年以上勤務した経験を生かし、2019年9月からフリーランスとして活動しています。
一般的な動物病院のように決まった場所だけで診療するのではなく、動物園や動物飼育施設、個人の飼い主のもとへ出向いて動物を診ることが大きな特徴です。
外平さん自身の事務所では、飼育下の野生動物だけでなく、ペットや家畜の訪問診療にも対応しています。大牟田市動物園、九十九島動植物園森きらら、和歌山城公園動物園、宇部市ときわ動物園、長崎ペンギン水族館など、さまざまな施設で診療に携わってきました。
その働き方から、メディアでは「さすらい獣医師」とも紹介されています。
特定の動物園だけに所属するのではなく、経験を必要としている場所へ移動しながら診療する。獣医師として長年培った技術を、1つの施設にとどめず広く生かしている人物です。
外平友佳理が獣医師を目指した高校時代の出来事
外平さんが動物に強く興味を持つようになった原点は、幼いころまでさかのぼります。
子どものころに「シートン動物記」を読み、動物を研究する仕事に憧れていました。
小学6年生のころには子犬を拾い、自分で世話をしようとした経験もあります。ところが、成長するにつれて「動物が好き」という気持ちは、より具体的な職業への目標に変わっていきました。
大きな出来事があったのは高校2年生のときです。
羽を折ったツグミが自宅へ迷い込んできました。
助けたいと思っても、自分には治療する知識も技術もありません。ツグミを救うことができなかった経験から、外平さんは獣医師になることを決意しました。
その後、福岡県立戸畑高校を卒業し、宮崎大学農学部獣医学科へ進学。
大学では犬や猫ではなく、日本在来馬である御崎馬や与那国馬の社会行動学を専攻しました。
「動物が好きだから獣医師になった」というだけではなく、目の前の動物を助けられなかった経験を、将来の仕事へ変えたことが外平さんの原点になっています。
外平友佳理が20年以上働いた動物園獣医師の仕事
大学卒業後、外平さんが最初に働いたのは長崎バイオパークでした。
当時は獣医療の体制そのものを整えるところから仕事が始まり、さまざまな専門家から教わりながら野生動物の診療経験を積んでいきました。
その後は麻布大学付属動物病院で1年間、高度医療などを学び、小動物病院でも1年間勤務しています。
そして地元・北九州へ戻り、到津の森公園で18年間働きました。
動物園の獣医師には、犬や猫を中心とする動物病院とは違った難しさがあります。
ライオンやカンガルーなどはもちろん、鳥類や小型動物まで、種類ごとに体の仕組みも病気も異なります。
患者である動物自身が「ここが痛い」と話してくれることもありません。さらに大型動物や野生動物の場合、診察すること自体が人と動物双方の危険につながることがあります。
外平さんは長年の現場経験だけでなく、研究にも取り組んできました。
到津の森公園では野生動物診療、研究、教育活動などを続け、学芸員資格と獣医学博士号を取得。カンガルーの病気やストレス評価、動物園での感染症などに関する研究成果も残しています。
この20年以上の経験が、後にフリーランスとして多種多様な施設から頼られる土台になりました。
外平友佳理が2019年に動物園を離れて独立した転機
外平さんは2019年9月、それまでの勤務先を離れてフリーランス獣医師として独立しました。
設立したのが、外平動物総合事務所です。
長年勤めた動物園を離れたのは、動物園医療そのものから離れるためではありません。
むしろ、そこで蓄積した経験や人とのつながりを1つの施設だけではなく、もっと広い社会や地域で生かすための独立でした。
フリーランスになったことで、依頼のあった動物飼育施設へ足を運べるだけでなく、個人の飼い主からの依頼にも対応できるようになりました。
ここには、外平さんが感じていたもう1つの課題があります。
犬や猫を診る動物病院は多くても、ヤギなど大型のペットや珍しい動物の場合、診療できる場所を見つけにくいケースがあります。
所属という枠を外すことで、「診てもらえる場所がない動物のところへ自分から行く」という働き方が可能になりました。
動物園獣医師からフリーランスへの転身は、これまでの仕事を捨てたのではなく、20年以上の経験をさらに広い場所へ届けるための転機だったのです。
外平友佳理はハムスターからライオンまで診療する
外平さんの仕事を象徴する表現が、「ハムスターからライオンまで」です。
20年以上の動物園勤務で多様な動物を診てきた経験があるため、フリーランスになってからも非常に幅広い動物に対応しています。
動物園や動物飼育施設では、経験の浅い獣医師だけでは判断が難しい症例もあります。
そのような場所で外平さんが診療へ加わり、これまで経験してきた症例や治療方法を生かします。
一方、個人向けの訪問診療も行っています。
SALUではペットや家畜などを対象とした往診を行い、ヤギの手術をはじめ、幅広い動物種の治療実績があります。中医学の考え方を取り入れ、漢方薬なども併用した治療・予防・緩和ケアにも取り組んでいます。
テレビ西日本が3年間にわたって外平さんを追ったドキュメンタリーでは、高齢になったホワイトタイガーの診療や、一般の動物病院では診てもらえなかった大型ペットへの往診なども紹介されました。
「珍しい動物を診られる獣医師」というだけではありません。
診療先が見つからない飼い主や、専門経験を必要としている施設をつなぐ役割まで担っていることが、外平さんのフリーランスという働き方の特徴です。
外平友佳理が設立した外平動物総合事務所SALU
外平さんが代表を務めるのが外平動物総合事務所(SALU)です。
SALUは「Sotohira Animal and human Life support Unit」の略称で、動物だけを見るのではなく、人との暮らしまで含めて考えることが活動の土台になっています。
事業内容は訪問診療だけではありません。
動物飼育施設との委託契約、環境保全、研究開発、動物介在活動、飼育教室、獣医師体験、講演などにも活動を広げています。ツシマヤマネコをはじめとする野生動物の保全活動にも関わっています。
さらに外平さんは、往診だけでは難しかった検査や手術ができる場所を作るため、福岡県糸島市にSALU大入動物診療所を開設しました。
診療所づくりのために実施したクラウドファンディングでは、第1目標の300万円を超える支援が集まり、最終的な支援額は860万円を超えました。
外平さんが作ろうとしているのは、一般的な犬猫専門の動物病院とは少し違います。
往診では対応できない検査や手術を行えるようにしながら、診てもらえる場所を見つけにくい動物にも医療を届ける拠点を目指しています。
フリーランスとして外へ出向く働き方を続けながら、必要なときには戻って治療できる場所も作る。
2019年の独立から、活動の形はさらに広がっています。
外平友佳理が若い獣医師へ経験を伝える理由
外平さんが大切にしている仕事は、自分自身が動物を治療することだけではありません。
若い獣医師へ知識や経験を引き継ぐことにも力を入れています。
動物園や飼育施設には、十分な経験を持つ獣医師が常にいるとは限りません。
特に野生動物の場合、犬や猫とは異なる診療技術が必要です。珍しい症例では、書籍だけでは判断しにくく、実際に多くの動物を診てきた獣医師の経験が重要になる場面があります。
外平さんは複数の施設へ定期的に出向き、経験の浅い獣医師がいる現場でも診療に関わってきました。自身が持つ知識や経験が若手の役に立てばという考えから、技術を伝えています。
自身も長崎バイオパークで働き始めたころ、周囲の専門家から教わりながら野生動物医療を身につけてきました。
教わった経験を次の世代へ返しているともいえます。
さらに獣医師だけではなく、子どもたちにも動物について学べる機会を作っています。
獣医師体験や飼育教室などを行い、「動物をかわいがる」だけではなく、命を預かって一緒に暮らすことの意味を伝えています。
動物医療の技術を次世代へ残すことと、人と動物との付き合い方を子どもたちへ伝えること。
どちらも、外平さんが長い獣医師人生の経験を未来へつなげる活動です。
外平友佳理が目指す人と動物が幸せに暮らせる未来
外平さんの活動をつなぐ言葉が、「どうぶつたちとくらそう!」です。
SALUでは「人を含めたあらゆる生物と地球の健康未来のために」を理念として掲げています。
そこには、ペットだけを幸せにすればよいという考えではなく、人間も地球に暮らす生物の1つとして、野生動物や環境まで一緒に考えていこうという思いがあります。
外平さん自身、長い獣医師生活の中で、捨てられたペットや不適切な飼育、人間の活動によって影響を受ける野生動物など、さまざまな問題を見てきました。
だからこそ、治療によって目の前の1頭を助けるだけではなく、飼育方法を伝えること、環境を守ること、子どもたちへ命について伝えることまで仕事を広げています。
高校時代、傷ついた1羽のツグミを助けられなかったことから始まった獣医師への道。
長崎バイオパーク、動物病院、到津の森公園で経験を積み、2019年にはフリーランスへ転身しました。
現在は自分が動物のもとへ向かうだけでなく、SALU大入動物診療所という新たな拠点も持ち、若い獣医師や子どもたちへ経験を伝える活動も続けています。
外平さんの仕事を「珍しい動物を診る獣医師」だけで説明すると、大切な部分が抜け落ちてしまいます。
動物を治療すること、人を育てること、そして人と動物が無理なく一緒に暮らせる環境を作ること。
そのすべてを獣医師の仕事として広げ続けていることが、外平友佳理さんの活動の大きな特徴です。
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