凪良ゆうが描き続ける「わかりあえない人と生きる」という物語
『あさイチ 愛(め)でたいnippon 能登(作家・凪良ゆうさんインタビュー)(2026年8月27日)』には、2度の本屋大賞受賞で知られる作家・凪良ゆうさんが登場します。2026年は新作『多類婚姻譚』が直木賞候補となり、『汝、星のごとく』の映画公開も目前。BL作品から出発した作家が、なぜこれほど幅広い読者に届くようになったのか。作品の転機と現在をたどります。
この記事でわかること
- 凪良ゆうさんの2026年の新作『多類婚姻譚』とはどんな作品か
- BL作家から2度の本屋大賞受賞作家になるまでの転機
- 『流浪の月』『汝、星のごとく』に共通する作品の特徴
- 2026年10月公開の映画『汝、星のごとく』最新情報
凪良ゆうの現在を知るなら『多類婚姻譚』
2026年の凪良ゆうさんを語るうえで外せない作品が、5月に刊行された『多類婚姻譚(たるいこんいんたん)』です。
発売後すぐに重版され、12万部を突破。第175回直木三十五賞の候補にも選ばれました。受賞作は朝倉かすみさんの『けんぐゎい』となりましたが、凪良さんにとっては『汝、星のごとく』に続く2度目の直木賞候補入りとなりました。
作品の中心にあるのは、恋愛の華やかな部分ではありません。
好きな相手であっても、価値観まですべて同じにはならない。むしろ、一緒に生きようとするほど、それまで見えなかった違いが浮かび上がってきます。
『多類婚姻譚』は、そんな「わかりあえない相手と、それでもどう生きていくのか」を描いた連作短編集です。
『多類婚姻譚』は結婚を5つの物語から描く
『多類婚姻譚』には5編が収録されています。
扱われるのは、セクシュアリティやジェンダーだけではありません。金銭感覚、世代による価値観の違い、育ってきた環境など、ごく身近な問題が恋人や夫婦の関係に入り込んできます。
「好きなら分かり合える」という単純な答えに向かわないのがポイントです。
誰かと長く暮らしていれば、相手の考えに納得できない瞬間があります。自分では常識だと思っていたことが、相手にとってはまったく違うこともあります。
そのズレをきれいに解消するのではなく、ズレたまま一緒に生きることは可能なのかを物語として描いています。
収録されているのは次の5編です。
- Thank you for your understanding
- Beautiful Dreamer
- 小鳥たち
- Position Talk
- C’est la vie
単行本は320ページ、価格は2,090円です。
BL作品から始まった作家人生
凪良ゆうさんは滋賀県生まれ。
2006年にBL作品でデビューし、2007年に初著書が刊行され、本格的に作家として活動を始めました。代表的なBL作品には「美しい彼」シリーズがあります。
「美しい彼」は後にテレビドラマや映画にもなり、凪良さんを知る入口になった人も多い作品です。
ただ、現在の凪良さんを「一般文芸へ転向した作家」とだけ捉えると少し違います。
大きな転機となったのが2017年刊行の『神さまのビオトープ』でした。
BL以外の作品として支持を集め、その後2019年に『流浪の月』『わたしの美しい庭』を発表。ここから一般文芸の読者にも名前が広く知られていきます。
BLで培ってきた「人と人との関係を丁寧に描く」という強みがなくなったのではなく、その対象や物語の幅がさらに広がったと考えると、作品の変化が分かりやすくなります。
『流浪の月』で初めて本屋大賞を受賞
大きな転機となったのが『流浪の月』です。
2019年に刊行され、2020年の本屋大賞を受賞。さらに2022年には実写映画化されました。
この作品でも描かれているのは、外側から見た「正しさ」と当事者が感じている現実とのズレです。
世間から見れば簡単に説明できそうな関係でも、本人たちにしか分からない事情があります。
凪良作品では、誰かを善人か悪人かに簡単に分けるよりも、「その人にはその人の事情がある」というところまで人物を掘り下げます。
この描き方は、その後の作品にもつながっています。
『汝、星のごとく』で2度目の本屋大賞
2022年に刊行された『汝、星のごとく』は、瀬戸内の島で出会った高校生の暁海と櫂を中心に、約15年にわたる人生と愛を描いた長編小説です。
第168回直木賞候補、第10回高校生直木賞などに選ばれ、2023年には本屋大賞を受賞しました。
凪良さんにとって『流浪の月』に続く2度目の本屋大賞受賞です。
単純な恋愛成就の物語ではなく、仕事、家族、経済的な問題、地方で暮らすことなど、人生のさまざまな選択が2人の関係に影響します。
「好きだから一緒にいれば幸せ」という答えだけで終わらないところが、『多類婚姻譚』にもつながる凪良作品の特徴です。
登場人物ごとにプレイリストを作って執筆する
作品だけでなく、凪良さんの執筆方法も興味深いところです。
夜中に書き続けるタイプではなく、朝から書き始め、会社員のような生活リズムで仕事をしていると過去のインタビューで語っています。
さらに特徴的なのが音楽です。
物語を書く際には登場人物ごとにプレイリストを作り、その人物を書くときに対応する音楽を流すという方法を取っています。
人物の性格を設定表だけで作るのではなく、音楽によって感情へ入り込む。
凪良作品で登場人物それぞれの考え方や感情が細かく描き分けられている背景を知ると、作品を読み返す楽しみも増えます。
「恋愛小説」というジャンルを狭く考えていない
凪良さんは、人が誰かを大切に思い、心が交わっていく過程そのものを書きたいという考えを語っています。
男女だけではなく、男性同士、女性同士、そのほかさまざまな関係を含め、「恋愛」という名前が付くかどうかだけで人と人との結びつきを分ける必要はないという姿勢です。
だからこそ作品には、恋人、夫婦、家族、友人などさまざまな関係が登場します。
「恋愛小説を書く人」というより、人間同士が分かり合おうとしたときに生じるものを書く作家と捉えると、『美しい彼』から『多類婚姻譚』までの流れが自然につながります。
『星を編む』も2026年7月に文庫化
2026年7月15日には『星を編む』の文庫版も発売されています。
『汝、星のごとく』で描き切れなかった人物たちに光を当てた3つの物語を収録した作品です。
『汝、星のごとく』を読み終えたあと、
「北原先生についてもっと知りたい」
「暁海のその後が気になる」
「櫂の作品を世に送り出した編集者たちはどんな人物なのか」
と感じた人が、その先を読める構成になっています。
文庫版は368ページ、価格は935円です。
映画を見る前に『汝、星のごとく』と合わせて読んでおくのも楽しみ方の1つです。
映画『汝、星のごとく』は2026年10月9日公開
そして2026年秋、凪良作品への関心がさらに高まりそうなのが実写映画『汝、星のごとく』です。
公開日は2026年10月9日。
櫂を横浜流星さん、暁海を広瀬すずさんが演じるW主演作品で、監督は藤井道人さん。脚本は安達奈緒子さんが担当します。原作シリーズは累計170万部を突破しています。
共演には松村北斗さん、中村アンさん、濱田岳さん、尾野真千子さん、木村佳乃さん、石田ゆり子さん、長谷川博己さんらが名を連ねています。
原作では高校生から大人になるまで長い年月が描かれます。
その15年間を映画でどう構成するのか、島の風景や2人の距離の変化をどう映像化するのかは、原作読者にとって大きな見どころです。
2026年は凪良ゆう作品を読み始める絶好のタイミング
2026年は、新作『多類婚姻譚』の刊行、『星を編む』の文庫化、そして『汝、星のごとく』の映画公開が続きます。
初めて読むなら、作品の雰囲気に合わせて選ぶのもおすすめです。
恋愛と人生を長い時間軸で読みたいなら**『汝、星のごとく』**。
その後の人物たちまで知りたいなら**『星を編む』**。
結婚や現代の価値観のズレについて考えたいなら**『多類婚姻譚』**。
凪良さんの大きな転機となった作品から入りたいなら**『流浪の月』**です。
ジャンルは違っても、「他人を完全には理解できない。それでも一緒に生きようとする」という問いは、多くの作品につながっています。
新作や映画から凪良ゆうさんを知った人が過去作品へ戻っていけることも、長く読み続けられている理由の1つです。


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