生成AIに日本勢も続々!実力は
2025年7月15日放送の『WBS(ワールドビジネスサテライト)』では、世界で急速に進化する生成AIの最前線に、日本企業や研究者たちがどのように参入しているのかを特集予定です。日本発の技術や支援制度、インフラ整備の現状などを通して、国際的な競争のなかでの日本の立ち位置をわかりやすく紹介する内容になりそうです。
Sakana AI:東京発スタートアップが世界から注目集める
元Google研究者が創業、日本語モデルに特化
Sakana AIは2023年、元Google Brainチームの研究者であるDavid Ha氏とLlion Jones氏によって設立されました。特にLlion氏は、大規模言語モデル「Transformer」の論文に共著者として名を連ねた人物であり、その技術力と発想の柔軟さが話題となっています。日本を拠点に選んだ背景には、研究開発に適した都市環境と、グローバル人材の集まりやすさがあるとされています。
生物進化のアイデアをAIモデルに応用
Sakana AIの開発する生成AIは、生物の進化のように「異なるモデル同士を掛け合わせる」ことで、新しいモデルを生み出すという手法が特徴です。これは従来のモデルの改良とは異なり、まったく新しい構造を設計することなく、既存のモデル同士を“交配”させて性能を向上させるという考え方です。このアプローチにより、多様な特性をもつモデルを効率よく生み出せるとされ、研究者や企業からの注目が集まっています。
日本語モデル3種を開発し、うち2種を無償公開
2024年には日本語に対応した大規模言語モデル(LLM)を3種類公開。そのうち2つのモデルは、誰でも使えるオープンソースとして提供され、国内外の開発者が自由に活用できる環境が整えられています。これにより、自然言語処理や対話AIの開発がさらに活発になり、日本語分野における技術の底上げが期待されています。オープンソース化されたモデルは、学習データやアーキテクチャも明示されており、研究者やスタートアップが独自に応用しやすい設計になっています。
東京から“世界のAIハブ”を目指す拠点へ
Sakana AIは、本社を東京に構えながら、国際的なAI開発ネットワークの中心になることを目指しています。現在も海外からのエンジニアや研究者の採用を積極的に進めており、多言語環境のオフィスで日々研究が行われています。日本語に強いモデルを開発する一方で、英語や他言語への展開も視野に入れており、「東京から世界へ」を掲げた体制が整えられています。スタートアップながらも、すでに累計で3000万ドル(約45億円)以上の資金調達を実現しており、今後の開発スピードにも期待が寄せられています。
日本語に強いLLM(大規模言語モデル)の登場
RakutenAI-7B:日本語で使いやすいオープンモデル
楽天グループは、日本語に特化した大規模言語モデル「RakutenAI-7B」シリーズを開発し、2024年に公開しました。このモデルは、学習データの多くを日本語に特化させて構成しており、日本語の文章理解や生成が得意です。英語ベースの海外モデルと違い、日本語特有の表現や言い回しにも対応しているため、ユーザーとの自然な対話や日本語の文書作成などで高い実用性があります。ライセンスはApache 2.0で提供されており、商用利用も可能です。現在はチャット特化型モデルや多目的モデルなど複数のバリエーションがあり、誰でも無償で使えるAIモデルとして国内外の開発者に活用されています。
PLaMo-100B:GPT-4級の性能を持つ国産モデル
一方、Preferred Networksが開発した「PLaMo-100B」は、およそ1000億パラメータを持つ大規模な日本語対応モデルで、GPT-4クラスの性能を持つと評価されています。PLaMoは「Preferred Large Language Model」の略で、自然言語処理だけでなく、数学的推論や文脈理解にも強く、各種ベンチマークで高得点を記録しています。開発には国内の高性能な計算基盤が使われ、日本語と英語の混在データをバランス良く学習させたことで、多言語環境にも対応できるモデルとなっています。さらにこのモデルは、文献要約や技術文書の生成といった専門的な用途にも使えるよう調整されており、研究や教育の現場でも利用が進められています。
日本語モデルの実用性と広がり
これらの国産モデルは、日本語で自然に使えるだけでなく、ビジネス現場や自治体、教育分野などでも導入が進みつつあります。たとえば、企業のFAQ応答や議事録作成、自治体の問い合わせ対応など、具体的な業務支援ツールとしての応用が期待されています。日本語を母語とする多くのユーザーにとって、誤解の少ない言語処理ができるという点は非常に大きな価値であり、海外モデルとの差別化ポイントにもなっています。今後も日本語に最適化されたモデルの開発は続くとみられ、国産AIの信頼性や使いやすさがさらに向上する可能性があります。
国の支援もスタート:GENIACとABCI
経済産業省が主導するGENIAC支援制度
経済産業省は、2024年度から新たに「GENIAC(次世代AI開発加速チャレンジ)」という制度を立ち上げました。この制度は、生成AIを開発・活用したい企業や研究機関に対して、開発環境や連携機会を提供することを目的としています。支援内容は多岐にわたり、大規模な計算資源の無償提供、学習用データの提供、企業間のマッチング支援、さらにプロトタイプの実証支援などが含まれています。特に、まだ自社だけでは大規模なAI開発が難しい中小企業やスタートアップにとって、この制度は大きな後押しになります。GENIACは公募制で、書類審査や技術評価を経て採択が決まり、採択されたプロジェクトは国から重点支援を受けながら、実用化に向けた開発を加速させています。
AI研究の要「ABCI 3.0」が稼働間近
同時に、AI計算基盤として注目されている「ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)」も、2025年度には「ABCI 3.0」へとバージョンアップされる予定です。このABCIは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所が運営しており、日本国内で最大規模のAI向けスーパーコンピューターのひとつです。最新版のABCI 3.0では、約6000基以上の最新GPUを搭載し、世界有数のエクサフロップス級の計算処理能力を実現することが計画されています。この計算能力は、複雑なAIモデルの訓練や大規模データ処理を行ううえで不可欠な基盤となります。
ABCIの運用は、産業界と研究者の双方に開かれており、生成AIや画像処理、シミュレーションなどの分野で広く活用されています。さらに、カーボンニュートラル対応のエネルギー管理も行われており、環境にも配慮した次世代AI開発拠点として位置づけられています。このように、国の支援は、AI技術の研究開発を促すだけでなく、それを動かすための土台となる計算環境にも力を入れています。
今後、GENIACとABCIを軸に、国内企業や大学、スタートアップがより積極的に生成AIに取り組む環境が整うことで、日本発のAI技術が世界に通用する可能性もますます高まっています。
ソフトバンクやマイクロソフトなど企業の動き
ソフトバンク:堺工場にAIデータセンターを新設へ
ソフトバンクは、大阪府堺市にあるシャープの液晶パネル工場跡地を活用し、国内最大級のAIデータセンターを建設する計画を発表しました。この施設は、2025年度の稼働を目指しており、AI開発に不可欠なGPUサーバーや高性能な冷却システム、電力供給設備などを備える予定です。特に注目されているのは、データセンターの電力を再生可能エネルギーでまかなう計画も含まれており、環境配慮型インフラとしても期待が寄せられています。これにより、日本国内でのAIモデルの学習や推論処理を、海外のサーバーに頼らずに行える体制が整いつつあります。
マイクロソフト:29億ドルを日本に投資、AI人材300万人育成へ
マイクロソフトは、日本国内でのAI戦略を本格化させるため、総額29億ドル(約4,500億円)規模の大規模投資を実施すると発表しました。その柱のひとつが、東京と関西に設置されるAI研究開発拠点(Tokyo AI Co-Innovation Lab)です。ここでは、日本企業や大学、自治体との連携によって、生成AIの実装や応用を具体的に進めていく予定です。
さらに、マイクロソフトは日本国内で300万人を対象としたAIスキル育成プログラムも同時に展開。これは、高校生や大学生から社会人まで幅広い層に対して、ChatGPTなどの生成AIツールの使い方や、ビジネス現場での活用方法を学べるよう支援するもので、デジタル人材不足が課題となる日本にとって重要な取り組みとされています。
日立製作所:Lumada事業でAI活用を本格化
日立製作所は、マイクロソフトとの連携を強化し、自社のデータ活用ソリューション「Lumada(ルマーダ)」のなかに生成AIを組み込む戦略を進めています。Lumadaは、製造業や物流、エネルギー分野などにおける膨大なデータを可視化・最適化するためのプラットフォームであり、AIとの融合により、作業効率の向上や設備異常の早期発見、予測メンテナンスといった高度な課題解決が可能になります。
あわせて、日立は5万人規模のAI人材を育成するプログラムも展開しており、全社的にAIスキルを持つ社員を増やす取り組みを加速中です。これにより、開発部門だけでなく、営業や現場業務に関わる社員もAIを活用できる体制が整いつつあります。
このように、ソフトバンク、マイクロソフト、日立といった大手企業は、インフラ整備・人材育成・産業応用という多方面から、日本国内での生成AI活用を本格的に推進しています。今後は、これらの取り組みがどのように社会実装へつながっていくのかが注目されます。
日本ならではの取り組みと強み
実用領域に絞った「特化型」開発が主流
日本の生成AI開発は、アメリカや中国のように莫大な投資を行う国々と比べると、資金規模では劣る面がありますが、その分、現場に密着した実用重視のアプローチが特徴です。とくに、製造業、医療、インフラ管理など、社会の基盤を支える分野において「精度」と「安全性」を重視したAI開発が進んでいます。たとえば、製造業では熟練作業者の判断をAIが支援したり、医療分野では診断補助や患者対応に使われたりと、現場の負担を軽減し、質を高める方向で活用が進んでいます。こうした特化型の開発は、派手さこそないものの、長期的な安定活用につながる強みといえます。
「裏方」の技術力がインフラを支える
さらに、日本にはNidec(日本電産)やSanyo Denki(山洋電気)といった世界的な部品メーカーが多く存在し、生成AIを支えるインフラの一部を担っています。これらの企業は、AIデータセンターで使われる高性能モーター、電源ユニット、冷却ファンなどの製品を供給しており、システムの安定稼働に不可欠な要素を提供しています。特に冷却装置や電源制御の分野では、日本製品が世界中のデータセンターで使われており、「AIを表ではなく裏から支える存在」として信頼されています。
こうしたハードウェア系の技術は、あまり目立つことはありませんが、生成AIが安定して動作するために必要不可欠な部分であり、日本が得意とするものづくりの延長線上にある分野です。国際競争が激しくなるなかで、日本が独自の立ち位置を築くためには、こうした「現場密着型の実用AI」と「裏方を支えるものづくり」の両輪が今後ますます重要になると考えられます。
今後のポイント
GENIACの成果と民間連携の広がり
経済産業省が進める「GENIAC」支援制度が、どれだけ実用的な成果を生み出せるかは今後の重要な指標になります。特に、採択された企業が開発した生成AIモデルが、実際にビジネスや公共分野でどのように活用されるか、また企業同士の連携によって新たな産業価値が生まれるかどうかが注目されています。国の予算支援が一過性で終わらず、持続可能な仕組みとして根づくかも大きなポイントです。
日本語モデルの国際展開と評価
RakutenAIやPLaMoのような日本語特化型の大規模言語モデルが、海外でもどこまで評価され、実用されるかも見逃せません。現在は日本語圏内での活用が中心ですが、英語や多言語の処理性能が強化されれば、アジア圏や非英語圏市場でのニーズにも応えられる可能性があります。モデルの性能はすでに国際的に注目されており、今後のアップデートとオープン化の進み具合が展開のカギを握ります。
インフラ整備の進捗と安定性の確保
AI開発の土台となるデータセンターやスーパーコンピューターの整備が、予定通り実現できるかどうかも、継続的な技術発展には欠かせません。ソフトバンクの堺AIデータセンターやABCI 3.0といった設備が安定稼働すれば、国内でのモデル訓練や推論が迅速に行える環境が整い、海外依存を減らすことができます。また、再生可能エネルギーとの連動や冷却技術など、運用面の持続可能性にも注目が集まっています。
実社会への導入と浸透度
医療、教育、金融、製造といった実社会の現場で、生成AIがどのように定着していくかは、今後の最大の焦点のひとつです。特に、業務の効率化やサービスの質向上に具体的な効果が出せるかどうかが、導入の進展を左右します。たとえば、医療現場での問診支援や、製造現場での不具合検出、教育現場での個別学習支援など、「AIが実際に役立った」という実感の積み重ねが社会全体の信頼を育てていく鍵になります。生成AIが一時的な流行で終わらず、インフラのような存在として日常に定着するかどうかが、今後を大きく左右します。
【参考・ソース】
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