はらゆうこという“見えない主役”を追う物語
このページでは『情熱大陸 はらゆうこ/フードコーディネーター(2026年2月1日)』の内容を分かりやすくまとめています。
500作以上の映像を支えてきた フードコーディネーター・はらゆうこ。ドラマの一瞬を彩る一皿のために、夜明け前からキッチンに立ち続ける姿は、まさに“カメラの後ろの料理人”。
料理が物語にそっと寄り添うように、人物の人生までも映し出していく——その技と情熱に胸をつかまれる導入回です。
フードコーディネーター・はらゆうこ、日本一多忙と言われる理由
情熱の主人公となったフードコーディネーターはらゆうこは、いま日本の映像業界で最も引っ張りだこの料理人です。ドラマや映画など、これまで彼女が手がけてきた映像作品は500本を軽く超えます。2025年だけでも70作品以上を担当し、1日に5つの現場を掛け持ちすることもあるというから、その忙しさはケタ違いです。
エンドロールにひらがなで並ぶ“はらゆうこ”の文字。視聴者の目に触れるのはほんの一瞬ですが、その名前はヒットドラマのスタッフロールに何度も登場してきました。ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』では主人公の筑前煮、社会現象となった『VIVANT』では豪華な機内食や印象的な“餅”のシーンなど、作品の記憶に残る料理の多くの裏側に、はらの存在があります。
彼女のモットーは、「演技の邪魔をしない料理」。料理そのものが主役として前に出るのではなく、俳優の芝居を支え、キャラクターの人生や生活感をそっと浮かび上がらせることをゴールにしています。台本を徹底的に読み込み、「この人はどんな食器を使い、どのくらいの量をよそうだろう」と人物像から逆算して料理を組み立てる。そのストイックさこそが、番組が掲げた「日本一多忙!カメラの後ろの料理人」というコピーの中身です。
かつて撮影現場の料理は「消え物」と呼ばれ、撮影後に大量廃棄されるのが当たり前でした。はらはこの常識にも真っ向から挑みます。味にも妥協せず、現場スタッフが持ち帰れるオリジナル弁当ボックスを作り、“持ち帰れる消え物”へと発想を転換。俳優やスタッフがその弁当を心待ちにするほど現場の名物となり、同時にフードロス削減にもつながっています。
ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』『VIVANT』…“演技の邪魔をしない料理”の現場
番組の中で大きく取り上げられたのが、ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の筑前煮です。竹内涼真演じる主人公は“料理に慣れていない男性”という設定。そのため、料理は下手ではあるけれど、真剣さと温かさが伝わらなければいけません。はらは、具材の大きさや煮崩れの加減まで計算し、「不器用な人が一生懸命作った筑前煮」を画面の中に再現しました。きれいに整えすぎないことで、キャラクターの等身大の生活感を生み出しているのです。
一方、『VIVANT』の現場ではスケールの大きな料理シーンが続きました。航空機内で提供される機内食のシーンでは、ビジネスクラスさながらの豪華さと、国際線のリアリティの両立が求められます。監督・福澤克雄は料理へのこだわりが非常に強いことで知られ、皿の形や盛り付け、ソースのたれ方に至るまで厳しい指示が飛びます。はらはその要求に真正面から応え、“世界中に配信される大作ドラマの食卓”を作り上げました。
同じく『VIVANT』で話題になったのが、ドラムが餅を食べるシーンです。もちもちとした食感や、口いっぱいにほおばる可愛らしさをどう画面に残すか――そのためには、粘り気や伸び方が一番美しく映る“ゆで時間”や“焼き加減”を何度もテストしなければなりません。SNSで話題になった「おもちビョーン」のようなシーンの裏で、はらのチームは何度も餅をゆで、焼き直し、カメラテストを繰り返していました。
情熱大陸では、最新作となるドラマ『未来のムスコ』や『DREAM STAGE』の撮影現場にもカメラが入りました。タイムスリップしてきた“未来の息子”が暮らす家庭の食卓、若者たちが夢を追うステージ裏の軽食――いずれも作品世界に自然に溶け込む料理ばかりです。台本には「家族の朝食」「打ち上げのテーブル」といったざっくりした指示しか書かれていないことも多く、そこからメニューを構成し、キャラクターに似合う料理を生み出すのが、はらの腕の見せどころです。
TBS緑山スタジオとCM・MV撮影現場――カメラの裏で料理が生まれる場所
番組では、TBSの大型撮影拠点である緑山スタジオ・シティの一角で、はらの1日がスタートする姿も描かれました。神奈川県横浜市青葉区緑山に位置するこのスタジオは、約8万坪という広大な敷地を誇り、日本最大級のコンテンツ制作スタジオとも呼ばれます。人気ドラマやスポーツ番組『SASUKE』など数々の番組が生まれてきた“映像の聖地”で、はらは朝から晩まで鍋とフライパンを振り続けています。
ドラマ用の料理を準備するキッチンには、大量の食材とプロ仕様の調理器具がぎっしり並びます。『未来のムスコ』の撮影日には、登場人物の性格に合わせた家庭料理を何十皿も用意しながら、別スタジオで撮影中の『DREAM STAGE』用のステージごはんを並行して仕込みます。急なシーン変更やメニュー差し替えにも、その場で対応しなければならず、キッチンは常に戦場のような緊張感に包まれています。
ドラマだけでなく、CMやミュージックビデオの現場でも、はらの活躍は目覚ましいものがあります。番組に登場したのが、北海道産牛乳のブランドキャンペーンとして話題になった『ミルクランド北海道』のCM「Milk Magic」篇の撮影現場です。牛乳パック型のキッチンカウンターが並ぶスタジオセットで、アイドルグループA.B.C-Zが牛乳やヨーグルトを使った料理に挑戦するCM。その料理の仕込みと、画面上の見え方の調整を一手に担っているのが、はらのチームです。
さらに、ダンス&ボーカルグループMAZZELのミュージックビデオ現場にも密着。照明が明滅するステージセットのすぐ横で、ミュージシャンたちが食べる“リハ飯”や小道具としてのスイーツを用意し、撮影の流れを止めないよう、瞬時に差し出していきます。MVの世界観を壊さないよう、器や色味までアートディレクションに合わせる。その繊細な調整も、フードコーディネーターの重要な仕事です。
埼玉の公務員から株式会社Vita社長へ 異色のキャリアと仕事の広がり
そんな第一線で活躍するはらの原点は、埼玉県で過ごした子ども時代にあります。料理好きの母の影響で、幼いころから台所に立つのが当たり前。短大卒業後はいったん地元で地方公務員として約8年間勤務し、安定した生活を手に入れますが、“食の仕事をしたい”という思いをどうしても捨てきれませんでした。
29歳のとき、彼女は安定した公務員生活を手放し、老舗の赤堀料理学園に入学します。創立120年を超えるこの料理学校で、6代目校長・赤堀博美のもと、約3年半にわたってアシスタントとして修業。週に1〜2度しか自宅に帰れないほどのハードな日々の中で、基礎的な技術から段取り力、現場感覚まで叩き込まれます。
卒業後、一度は業界を離れますが、34歳でフリーのフードコーディネーターとして再スタート。37歳で株式会社Vitaを設立し、代表取締役となりました。Vitaはドラマや映画の劇中料理だけでなく、食品メーカーのCM、企業のメニュー開発、飲食店のコンサルティング、インフルエンサーのレシピ本制作など、“食に関わること全般”を引き受けるフードスタジオへと成長しています。
Vitaが手がけた仕事には、永谷園のお茶づけや麻婆春雨のCM、キッコーマンの“キッコさん”“キッココちゃん”が登場するシリーズなど、日常生活になじんだ大手企業の広告も含まれます。普段何気なく見ているテレビCMの食卓シーンの多くに、はらの“段取り”と“盛り付け”的センスが隠れているのです。
母であり職人であり社長でもある 48歳・はらゆうこのこれから
番組で印象的だったのが、自宅キッチンで小学生の娘と料理をする場面です。撮影現場では膨大な量の料理をさばく職人でありながら、家庭では時間をやりくりして、娘と一緒に夕食を作る“普通のお母さん”の顔を見せます。忙しいときには夫も含めて家族で家事を分担し、「仕事ができるのに、諦めるのはもったいない」という言葉どおり、家庭と仕事の両立に真正面から向き合っています。
48歳となった今も、はらの挑戦は止まりません。社会現象となったドラマ『VIVANT』の続編プロジェクトが動き始め、再び世界に向けて“日本の食”を映像で届ける大仕事が待っています。日本の視聴者だけでなく、海外プラットフォームで作品を観る観客にも伝わる“おいしそう”を、どう画面の中で表現するか。これは、日本のフードコーディネーターを代表する立場としての新たな使命でもあります。
『情熱大陸』が描いたのは、きらびやかなスターの物語ではなく、光の当たらないキッチンに立ち続ける一人の料理人の姿でした。消えてしまうはずの「消え物」を、俳優の演技と物語に命を吹き込む“一皿”へと変えていくフードコーディネーターという仕事。日本一多忙と言われるはらゆうこは、これからもカメラの後ろから、私たちの記憶に残る名シーンを生み出し続けます。


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