0℃保存で食の流れを変えようとする楠本修二郎
野菜は採れた瞬間から鮮度が落ちていきます。そのため「豊作なのに売り切れない」「不作になると一気に値段が上がる」という悩みが長くつきまとってきました。そこで注目されているのが、約0℃の低温と高い湿度を組み合わせて食材を長く保つZEROCO(ゼロコ)です。
『ガイアの夜明け(野菜価格を守る0℃保存)(2026年8月14日)』でも、ZEROCOを使って農家の収入や野菜価格を安定させようとする取り組みが取り上げられます。中心人物の楠本修二郎さんが、なぜ飲食店経営から食の保存へと活動を広げていったのかを見ていきます。
この記事でわかること
- 楠本修二郎さんがどんな人物なのか
- ZEROCOが普通の冷蔵庫と何が違うのか
- 熊本に大型設備を設置した目的
- 野菜価格や農家の収入にどう関係するのか
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ZEROCOを進める楠本修二郎は何者なのか

(出典:楠本修二郎・ZEROCO社長 「冷凍でもない冷蔵でもない第三の道で日本の食産業に横串縦串を通したい」 | 財界オンライン)
楠本修二郎さんは、ZEROCO株式会社の代表取締役社長です。
現在はZEROCOだけでなく、カフェ・カンパニー株式会社のファウンダー兼最高顧問、一般社団法人東の食の会の代表理事、農業生産法人JAPAN FARM PARTNERの代表など、食に関係する複数の事業や活動に携わっています。
もともと楠本さんは、飲食店やカフェをつくる側で長く活動してきた人物です。
そのためZEROCOについても、単に「新しい冷蔵庫を販売する」という発想ではなく、
生産する
↓
保存する
↓
運ぶ
↓
販売する
↓
食べる
という食全体の流れを変えようとしている点が特徴です。
個人的には、ここが楠本さんを見るうえでいちばん大事だと感じます。
保存機器を開発・普及する会社の経営者というだけなら、技術の話だけで終わります。しかし楠本さんの場合は、飲食店、生産者、流通、地域づくりまで長く食の現場に関わってきたため、「保存期間が長くなったら、その先の農業や販売をどう変えられるか」まで考えているからです。
ZEROCO株式会社は2020年7月に設立され、事業は2023年4月に本格始動しています。現在は鮮度保持機器の製造・販売・リースだけでなく、ZEROCOを使った食品や流通の仕組みづくりにも取り組んでいます。
野菜を約0℃で長期保存するZEROCOの仕組み
ZEROCOの大きな特徴は、庫内を約0℃の低温と非常に高い湿度に安定して保つことです。
一般的な冷蔵庫も食材を低温で保存しますが、ZEROCOは温度だけでなく湿度まで細かく管理し、食材から水分が失われることを抑えながら品質を保つ仕組みになっています。
イメージとしては、
| 保存方法 | 温度の特徴 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 冷蔵 | 0℃より高い温度帯が中心 | 手軽だが時間とともに鮮度が低下 |
| 冷凍 | 0℃よりかなり低い | 長期保存しやすいが解凍が必要 |
| ZEROCO | 約0℃ | 凍らせず低温・高湿で鮮度を保つ |
という違いがあります。
ZEROCO側では「冷蔵でも冷凍でもない第三の道」と位置づけています。
特に難しいのは、広い庫内全体をほぼ同じ温度と湿度に保つことです。
家庭用冷蔵庫でも、奥と扉付近では温度差があります。まして数十坪、数百坪という倉庫になると、場所によって空気の流れや温度が変わります。
ZEROCOでは冷却、加湿、空気循環などを組み合わせ、低温・高湿の状態を安定させることが技術の核になっています。
番組では、条件が合う野菜について半年から1年ほど、採れたてに近い状態で保存できる可能性が紹介される予定です。
ただし、ここは誤解しない方がいいところです。
すべての野菜を何でも1年間保存できるという意味ではありません。
食材によって適した温度や保存できる期間は異なります。低温が苦手な食材もあります。
実際、ZEROCO側でもイチゴ、桃、メロンなどで保存期間の例を示していますが、品目ごとに期間は違います。
「0℃なら何でも長持ちする」という単純な仕組みではないところは、知っておきたいポイントです。
楠本修二郎が食の保存に取り組むようになった背景
楠本修二郎さんが食の保存へ深く関わるようになった背景をたどると、2011年の東日本大震災につながります。
震災後、楠本さんは髙島宏平さんらとともに「東の食の会」を立ち上げ、東北の農家や漁師など食の生産者を支援する活動に関わってきました。東の食の会は2011年6月に設立されています。
そうした東北での活動を通じて出会ったのが、雪の中で野菜を保管する雪下野菜の知恵でした。
雪の下は0℃前後で温度変化が少なく、湿度も高い状態になりやすいため、野菜の鮮度を保つのに向いています。
ZEROCOは、こうした日本に古くからある保存の知恵から着想を得ています。
この経緯を知ると、ZEROCOの見え方が少し変わります。
一見すると最新のフードテックですが、考え方の出発点には昔から雪国で使われてきた保存方法があるわけです。
個人的には、最先端技術というと何もないところから生まれた発明を想像してしまいますが、昔の知恵を現代の大型設備として再現しようとしているところが面白いと感じます。
そして楠本さんが目を向けているのは、単に「食材を長持ちさせる」ことだけではありません。
収穫された農産物をすぐ売らなければならない状況そのものを変えることです。
生鮮食品は時間がたつほど商品価値が落ちるため、生産者側は「今売るしかない」という立場になりやすくなります。
保存期間を伸ばせれば、
「今すぐ売る」
から、
「いつ売るかを選べる」
へ変わる可能性があります。
ここにZEROCOを農業へ広げようとしている大きな理由があります。
熊本に巨大ZEROCOを設置した理由
ZEROCOの農業での活用を考えるうえで重要なのが、熊本市北区の植木青果市場です。
ここには青果市場としては大規模な、約70坪のZEROCO設備が導入されました。
植木青果市場は、熊本を中心に九州で生産された野菜や果物が集まる場所です。
その市場に保存設備を置くことで、農家から届いた青果物をすぐ出荷するだけではなく、状態を保ちながら一定期間在庫として持ち、販売する時期を調整する実証が進められています。
なぜ生産地ではなく「市場」に大型ZEROCOを置くのか。
ここがポイントです。
農家1軒ごとに大きな保存庫を置くより、多くの農産物が集まる市場に設備を置けば、複数の生産者が使える可能性があります。
さらに、
豊作時に保存
↓
出荷量を調整
↓
必要な時期に販売
という流れを市場単位で試すことができます。
熊本の設備では、在庫管理や賞味期限の延長を通じて、価格の安定化や生産者の収益性向上につなげることが目的として掲げられています。
熊本はスイカ、トマトなど青果物の生産が盛んな地域です。
農産物は豊作なら必ず農家がもうかるとは限りません。
大量に採れれば市場に商品が増え、価格が下がることがあります。それでも鮮度には限界があるので、出荷を長期間待つことは簡単ではありません。
せっかくたくさん採れたのに値段が下がる。
これは消費者からすると少し不思議に感じますが、生鮮食品ならではの難しさです。
ZEROCOのような保存設備が本当に機能すれば、豊作時の一部をすぐ市場へ出さず、後に回すという選択肢が増えます。
その実証場所として、青果物が集まる熊本の市場が選ばれているわけです。
地震でZEROCOと保存中の野菜はどうなったのか
ここは、現時点では結果を断定できません。
2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生しました。
宇城市と氷川町で最大震度7を観測し、その後、この一連の地震は「令和8年熊本地震」と命名されています。
そして熊本には、大型ZEROCOを導入した植木青果市場があります。
8月14日の放送内容では、巨大なZEROCOを設置したばかりの熊本で地震が発生し、保存技術の真価が問われる展開になることが事前に明らかにされています。
ただし、2026年8月13日時点で公開されている情報を確認した限りでは、地震後に植木青果市場のZEROCO設備がどの程度の被害を受けたのか、内部で保存していた青果物が具体的にどうなったのかという最終結果は公表されていません。
そのため、
「設備は無傷だった」
「野菜をすべて守れた」
「地震で壊れた」
などと現段階で書くことはできません。
ここはかなり重要です。
長期保存技術は、平常時に食材を長持ちさせるだけでなく、災害時に食料を確保する仕組みとして使えるのかという別の課題もあります。
一方で、大型設備である以上、停電、設備損傷、物流の寸断などが起きた場合にどこまで機能を維持できるのかも確認しなければなりません。
実際に見るなら、
- 地震後も庫内温度を維持できたのか
- 電源や冷却設備に被害がなかったのか
- 保存中の農産物はどうなったのか
- 地震後に食材を地域へ供給できたのか
という部分を確認したいところです。
個人的には、ZEROCOの技術説明以上に、この実際の災害時の結果が大事だと感じます。
設備の性能は数字だけでも説明できますが、「大きな災害が起きたとき食を守れるのか」は、現場で初めて分かることが多いからです。
ZEROCOが農家の収入と野菜価格を変える可能性
ZEROCOの最終的な狙いは、野菜を長持ちさせることだけではありません。
大きいのは、農産物を出荷するタイミングを変えられる可能性です。
これまで生鮮食品は、収穫後なるべく早く流通させる必要がありました。
豊作で市場に野菜が多くても、保存できなければ出荷せざるを得ません。
逆に猛暑、豪雨、台風などで収穫量が減ると、市場に出る野菜が減って価格が上昇しやすくなります。
そこで考えられているのが、
豊作の年や収穫最盛期
↓
一部をZEROCOで保存
↓
市場への供給量を調整
↓
不作時や災害時にも出荷
という仕組みです。
これがうまく回れば、農家側には「採れたらすぐ安くても売るしかない」という状況を減らせる可能性があります。
消費者側にも、野菜が不足したときの極端な値上がりを抑える方向に働く可能性があります。
ただし、ZEROCOが普及すれば野菜価格が必ず安くなる、という話ではありません。
野菜価格には天候、生産量、燃料費、肥料代、人件費、輸送費、需要など多くの要因があります。
さらに大型保存設備を導入・運用するにはコストもかかります。
だから見るべきなのは、「野菜が安くなる技術」かどうかではなく、
農産物を在庫として持てるようになることで、農業の選択肢が増えるのか
という点です。
これはかなり大きな変化です。
工業製品なら、需要が少ない時期に倉庫へ保管して後で売ることができます。
しかし、生鮮食品では鮮度が落ちるため、同じことが難しかった。
もし農産物でもある程度「在庫を持つ」という考え方が成立すれば、豊作と不作による供給量の波を小さくできる可能性があります。
また、保存期間が延びれば販売先を探す時間にも余裕が生まれます。
国内だけでなく、遠方や海外へ運ぶ選択肢が広がる可能性もあります。
一方で、本当に農家の手取りが増えるかどうかを見るには、
保存コスト
設備費
電気代
保管中の品質
実際に販売できた価格
廃棄量の変化
まで確認する必要があります。
たしかに「半年、1年保存できる」と聞くだけでも驚きます。
ただ、農家や私たち消費者にとって本当に重要なのは保存期間の記録ではありません。
豊作でも農家が困り、不作では消費者が困るという今の仕組みを、保存という時間の余裕によってどこまで変えられるのか。
ZEROCOの価値を判断するなら、これからの実証でそこまで見ていきたいところです。
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