親子が歩んだ28年、初めて迎える別れの瞬間
このページでは『ドキュメンタリー「解放区」 ともに生きる 〜強度行動障害と家族〜(2026年2月2日)』の内容を分かりやすくまとめています。
長野の静かな町で、母と息子は28年間ずっと寄り添って生きてきました。
突然のパニック、自傷行為、終わりの見えない日々。それでも母は一度も息子の手を離さず、未来を探し続けてきました。
そして訪れた、初めての「別々に暮らす」という決断。
涙と覚悟が交差するその瞬間に、家族の強さと優しさが浮かび上がります。
強度行動障害の息子と生きる28年のリアル
番組の主人公は、長野県で暮らす母の蒲和美さん(52)と、息子の涼太さん(28)です。涼太さんには重度の知的障害があり、さらに強度行動障害という特性をあわせ持っています。普段の涼太さんは穏やかで優しく、母のそばで笑顔を見せる青年です。しかし、ひとたびパニックになると、頭を壁や床に激しく打ちつけ、自分の体を傷つけてしまいます。その動きを必死に止めようとする和美さんの腕や体にも、たくさんの傷あとが残ります。
28年間、和美さんの生活は「涼太さんに合わせること」がすべての基準になってきました。外出の予定も、仕事も、家事も、パニックが起きそうな時間帯やきっかけを常に計算しながら組み立てていきます。夜間に興奮が続く時期には、十分に眠れない日が続き、親自身の健康もギリギリの状態になることがあります。強いこだわりや予定の変更の苦手さから、家族は日常のちょっとした変化にも細心の注意を払いながら暮らしてきました。
番組では、こうした「1日のうちのほとんど」を息子の状態に合わせて費やしてきた年月が、具体的な日常のシーンとして描かれます。買い物に行くにも、病院に行くにも、常に「パニックになった時どう動けるか」を考え続ける暮らし。母子の距離はとても近い一方で、和美さんの心の中には、「自分が年老いた後、この子はどうなるのか」という、消えることのない不安が積み重なっていきます。
強度行動障害とは何か 〜全国12万人の現実〜
番組で取り上げられる強度行動障害とは、医学的な診断名というより、行政や福祉の現場で用いられる「支援の必要度」を示す言葉です。自分を傷つける自傷行為、周囲の人や物に向かう他害行為、ものを壊す行為、睡眠リズムの大きな乱れ、異食行動など、本人と周囲の生活に重大な影響が出る行動が高い頻度で起きる状態を指します。
こうした行動は、本人が「わざと迷惑をかけよう」としているのではなく、感覚の過敏さや認知の特性、言葉でうまく伝えられないストレス、環境の変化への強い不安など、さまざまな要因が積み重なって生じるものだと考えられています。そのため、単に「やめさせる」ことではなく、本人の特性を理解し、刺激の少ない環境づくりや、安心できる見通しのある生活、コミュニケーション方法の工夫などが、支援の鍵になります。
厚生労働省などの推計では、強度行動障害のある人は全国におよそ12万人規模にのぼるとされています。多くは知的障害や自閉スペクトラム症などを併せ持ち、幼少期から支援を受けてきたケースが少なくありません。近年の調査では、在宅で家族がほぼ24時間支援を続けている世帯も多く、家族の心身の負担は非常に大きいことが明らかになっています。その一方で、専門的な支援体制や受け皿となる施設の整備は、需要に追いついていないのが現状です。
入所先が6年間見つからない理由と人手不足の壁
和美さんは、息子が成人期を迎えた頃から、「自分が元気なうちに、涼太さんが安心して暮らせる場所を探さなければ」と考え、施設探しを始めました。しかし、障害者支援施設やグループホームに相談を重ねても、「強いパニックがある」「自傷行為への対応が難しい」といった理由から、受け入れを断られ続けます。この「断られる日々」は、なんと6年にも及びました。
番組が映し出すのは、単なる1組の親子の問題ではなく、全国で起きている構造的な課題です。強度行動障害のある人を積極的に受け入れている施設でさえ、待機者が130人以上というケースがあり、「待っていても順番がまわってこない」現実があります。背景には、支援にあたる職員の慢性的な人手不足、専門的な研修機会の不足、過重労働になりがちな現場の状況などがあり、受け入れを増やしたくても増やせない施設が多いのです。
国の資料でも、強度行動障害のある人への支援体制の整備は「重点課題」と位置づけられ、職員が専門的な助言を受けられる相談窓口や、モデル事業によるノウハウ共有、地域全体で支える仕組みづくりが進められています。ただし、これらの取り組みはまだ道半ばで、実際に家族が「明日から預けられる場所がある」と感じられる状態には至っていません。番組は、まさにこの「制度と現実のギャップ」を、和美さんの6年間の歩みを通して浮かび上がらせます。
グループホームとの出会いと「初めての別れ」
転機となったのは、2024年11月。長年続いてきた和美さんの苦悩を知った、あるグループホームが、涼太さんの受け入れを申し出ます。強度行動障害のある人の受け入れに積極的な長野県内の事業所ですが、番組公式サイトなどでは施設の個別名称までは公表されていません。
それでも、支援者側にとっては、日中・夜間のパニックへの備えや、職員の配置体制、近隣との関係づくりなど、多くの準備と覚悟が必要です。事前の短期入所や見学、医師・相談支援専門員との連携を重ねながら、「ここなら一緒にやっていける」という手応えを探っていく様子が描かれます。涼太さん自身も、新しい環境に慣れるまで時間がかかる可能性が高く、グループホーム側は、少人数の環境で一人ひとりの行動特性に合わせた支援を行うための工夫を積み重ねていきます。
一方で、和美さんにとってこれは、「ともに生きてきた28年で、初めて息子と離れて暮らす」という、人生最大の決断です。これまで「自分がそばにいなければ守れない」と信じてきたからこそ、離れることは「手放すこと」のように感じられてしまいます。それでも、「自分が倒れた後に、この子が宙ぶらりんになってしまうことだけは避けたい」という思いから、和美さんは前に進もうとします。番組は、引っ越しの前後の日々、荷造りの小さな場面、初めてグループホームに泊まる夜など、親子の表情のゆらぎをていねいに追いかけます。
YouTube発信に寄せられた賛否と揺れる母の心
和美さんは、日々の暮らしや強度行動障害の現実を世の中に知ってほしいと考え、YouTubeで情報発信を始めました。動画では、涼太さんの日常の様子や、パニック時の対処、家族の思いをありのままに伝えています。これに対して、「知らなかった現実を知った」「同じ立場として励まされる」といった共感や感謝の声も多く寄せられました。
しかし同時に、「息子を見捨てるのか」「親の責任を果たせ」といった厳しいコメントも少なくありませんでした。施設に預ける決断を、「親が楽をするため」と捉えるような意見や、強度行動障害への理解不足からくる偏見の言葉は、和美さんの心を深く傷つけます。それでも彼女は、「この現実を知らない人が多いからこそ発信しなければ変わらない」と、自分の迷いや弱さも含めて語り続けています。
番組は、SNS時代ならではの「見えない他人の声」と、当事者家族の生の声とのギャップを浮き彫りにします。画面の向こう側から簡単に投げかけられる一言が、当事者にとってどれほど重く、時に残酷であるか。そして、それでもなお発信を続けるのは、「同じように苦しんでいる誰かが、自分一人ではないと知ってほしい」という、切実な願いからだと伝えてくれます。
強度行動障害のある人と家族を支えるために必要なこと
このドキュメンタリーが問いかけているのは、「1組の親子の物語」にとどまりません。強度行動障害のある人と家族が、地域で安心して暮らしていくために、社会は何を変えなければならないのかという問いです。
まず必要なのは、専門的な知識を持った支援者と、十分な人員配置が可能なグループホームや障害者施設の拡充です。国や自治体は、強度行動障害を重点施策として位置づけ、相談窓口の設置やモデル事業、職員研修などに力を入れ始めていますが、現場の感覚からするとまだ足りません。「受け入れたいのに、人が足りない」「1人受け入れると他の利用者にしわ寄せが出る」という、施設側の苦悩も同時に解消していく必要があります。
次に重要なのは、幼少期から切れ目なく続く支援体制です。早い段階から子どもの特性を理解し、学校・福祉・医療が連携して支援を積み重ねることで、強度行動障害の状態がより重くなる前に、環境調整やコミュニケーションの方法を整えることができます。当事者本人の「生きやすさ」を高めることは、家族の負担を軽くすることにも直結します。
そして何より、私たち一人ひとりの意識の変化も欠かせません。街中で見かけるパニックの場面、スーパーでの大きな声、突然の行動。そこに「しつけの問題」「親の甘え」といったイメージを重ねるのではなく、見えない特性と、その背景にある長い支援の歴史に思いを巡らせること。安易な批判ではなく、「何かできることはあるか」と考える視線が増えるだけでも、家族にとっては大きな支えになります。
ドキュメンタリー「解放区 ともに生きる 〜強度行動障害と家族〜」は、28年をともに歩んできた親子の姿を通して、「ともに生きる」という言葉の重さと優しさを、視聴者に強く問いかける作品になっています。
まとめ
ここまでの内容は事前情報をもとにまとめているため、実際の放送内容と異なる場合があります。
長年寄り添ってきた親子が新しい一歩を踏み出す姿は、強度行動障害という見えにくい現実と向き合う家族の強さを感じさせます。施設探しの苦悩や、別々に暮らす決断に揺れる思いは、多くの人に深い気づきを与えてくれるはずです。
放送後に、実際の番組内容を踏まえて追記します。


コメント