30年越しの夢を追いかけたお父さんのケーキ物語
今回の人生の楽園は、滋賀県野洲市を舞台にした物語です。ケーキ職人になる夢を一度あきらめたお父さんが、50代になってもう一度立ち上がり、家族と一緒に小さなケーキ店を開くまでの道のりが描かれます。
主人公は、野洲市のケーキ店パティスリーエスイチを切り盛りする今村晋一さん。お店の名前はフランス語表記で「la pâtisserie:S-ichi(ラ パティスリー エスイチ)」といい、ショートケーキで一番のお店を目指すという思いが込められています。
物語の舞台となる野洲市は、滋賀県のほぼ中央、琵琶湖の南東側に広がるまちです。JR琵琶湖線の野洲駅を中心に住宅地と田畑が混ざり合い、少し足を伸ばせば琵琶湖や比良・比叡の山並みも望めます。湖と田んぼの風景が身近にある環境は、地元の素材を使ったお菓子づくりとも相性が良く、今回の物語でも「土地の恵み」が大きな役割を果たします。
近江八幡で育った晋一さん 洋菓子職人を目指した若い日々
晋一さんは滋賀県近江八幡市の出身です。高校を卒業すると、大阪市の専門学校で製菓を学び、本格的に洋菓子職人を目指し始めました。
20歳のときには、洋菓子の本場としても知られる兵庫県神戸市の洋菓子店に就職。神戸は洋菓子文化がとても豊かな街で、有名店や老舗も数多くあります。バターや生クリームを使ったケーキが一般に広がったのも、神戸の洋菓子店の存在が大きいと言われるほどです。
そんな環境での修行は、若いパティシエにとって夢のようでもあり、同時に厳しい世界でもあります。晋一さんも、先輩やシェフに囲まれながら毎日必死に技術を覚え、ケーキ作りの基礎を身につけていきました。
挫折から会社員へ 家族に支えられたお父さんのバースデーケーキ
しかし、修行を始めて3年ほどたった頃、プレッシャーや責任の重さから、晋一さんは心身ともに限界を迎えてしまいます。番組では「逃げるようにして地元へ戻った」と表現されていましたが、それだけ追い詰められていたということだと思います。
地元に戻った晋一さんは、洋菓子の世界から離れ、プラスチック部品を作る会社に就職します。いわゆる会社員としての再スタートです。ケーキの世界とはまったく別の仕事ですが、地道に働き続けるうちに、やがて結婚し、子どもも生まれます。
ここで大きな役割を果たすのが、妻の尚美さんです。長男の誕生日、尚美さんは晋一さんに「せっかくなんだからケーキを作ってよ」とお願いしました。元パティシエのお父さんが腕をふるったバースデーケーキは、家族にとって特別なものになります。
それから毎年、息子さんの誕生日には手作りのバースデーケーキを作り続けました。会社員として働きながらも、家族のためだけに続けてきたケーキ作り。その積み重ねが、のちの大きな決断につながっていきます。
緑内障の発症と「もう一度ケーキ職人に」という決意
転機が訪れたのは4年前。晋一さんは緑内障を患ってしまいます。
緑内障は、視神経が障害されて視野が少しずつ欠けていく病気で、日本では中途失明原因の上位に挙げられる病気のひとつです。早期に見つけて治療を続けることで進行をおさえることもできますが、「見えていた景色が少しずつ狭くなる」という不安は、とても大きなストレスになります。
視力の不安をきっかけに、晋一さんは自分の人生をあらためて見つめ直します。
「本当にやりたかったことは何だったのか」
「このまま会社員を続けていいのか」
胸に浮かぶのは、若いころに飛び出してしまった神戸の洋菓子店、そして当時の師匠の顔でした。あのとき逃げ出してしまった後悔と、もう一度ケーキ職人として立ちたいという気持ちが、心の中でだんだん大きくなっていきます。
創業塾で学び直し ケーキ店「パティスリーエスイチ」誕生まで
会社員を続けながらも、「いつかお店を持ちたい」という思いを捨てきれなかった晋一さんは、地元の創業塾に通い始めます。
創業塾では、事業計画の立て方や資金計画、マーケティング、店舗運営の基本など、これからお店を始めたい人に必要な知識を学びます。パティシエとしての技術だけでなく、「経営者」としての視点を身につける大切な時間です。
こうして準備を重ねた晋一さんは、長年勤めた会社を早期退職し、ついにケーキ店を開く決断をします。
2024年9月6日、野洲市小篠原に**「la pâtisserie:S-ichi(ラ パティスリー エスイチ)」**がオープンしました。店名の「エスイチ」は、晋一さんの名前のイニシャル「S」に由来するとともに、「ショートケーキで一番のお店を目指す」という思いが込められています。
さらに、店舗の設計士さん、洋菓子材料会社の担当者さん、そして晋一さん本人の3人の名前が、たまたま全員「S」で始まることから、「3人で一番のケーキ屋を作ろう」という意味も持たせているそうです。
お店はJR野洲駅南口から徒歩約5分、野洲市役所にも近い「ゆめのはうす」1階にあり、通いやすい場所にあります。
いちご園フェリーチェの苺と、看板商品シュークリーム・ショートケーキ
番組では、晋一さん夫妻が、子ども同士が同級生というご縁から親しくなった南出さん夫妻のいちご園「いちご園フェリーチェ」を訪ねる様子も紹介されました。
いちご園フェリーチェは、滋賀県野洲市比江にある、滋賀県最大級のいちご狩り農園です。約1万3500平方メートルの広さに約7万7000株のいちごを育て、45分食べ放題のいちご狩りが楽しめます。
栽培しているいちごの品種は、甘みの強い章姫(あきひめ)、香り豊かなかおり野、甘さと酸味のバランスが良い紅ほっぺなど。これらの苺は、そのまま食べてもおいしいのはもちろん、ケーキの飾りやショートケーキの主役にもぴったりです。
晋一さんは、フェリーチェの苺を仕入れて苺のショートケーキを作ります。いちご園で大切に育てられた苺と、野洲のケーキ屋さんが作る生クリームたっぷりのショートケーキ。地元同士のつながりから生まれたひと皿は、「地域の人と一緒にお店を育てていく」という姿勢を象徴しているように感じます。
そしてもうひとつの大切な商品がシュークリームです。これは30年前、神戸の修行先の師匠が教えてくれた思い出の一品。修行時代の苦い記憶とセットになっていたため、晋一さんにとってシュークリームは「作るたびに胸が締めつけられるような存在」でもありました。
それでも、今は自分の店の看板商品として、ひとつひとつ丁寧に焼き上げています。公式サイトでも、ショーケースにはこだわりのケーキや焼き菓子が並び、中にはクリームたっぷりのシュークリームの写真も掲載されています。
銀婚式の琵琶湖クルーズ「ミシガン号」と家族の時間
番組の中盤では、今年で結婚25年となる晋一さん夫妻の銀婚式の様子も描かれました。ふたりが出かけたのは、滋賀県を代表する観光船、琵琶湖汽船の「ミシガン号」のクルーズです。
ミシガン号は、アメリカの五大湖のひとつ・ミシガン湖をイメージした外輪船風の遊覧船で、琵琶湖の南部エリアをぐるりと巡ります。最上階のスカイデッキからは、びわ湖と比良山系のパノラマが広がり、船内では音楽ライブや観光案内も行われます。
仕事と子育てに追われながら過ごしてきた25年。ようやく叶った夫婦だけのクルーズデートは、「これからはケーキ店と家族の時間を大切にしよう」という、静かな決意を確かめ合う時間にもなったはずです。
なお、琵琶湖クルーズは滋賀県観光の定番スポットで、季節ごとに景色が変わるのも魅力です。春は桜、夏は青い湖面と入道雲、秋は紅葉、冬は雪をかぶった山々と、どの季節に乗っても違う表情を見せてくれます。
シュークリームを手に師匠のもとへ 30年越しの再会
物語のクライマックスは、やはり師匠との再会です。
30年前に修行していた神戸の洋菓子店。その師匠のもとへ、晋一さんは自分の店で焼いたシュークリームを持って訪ねます。
シュークリームは、当時師匠から教わった思い出の味。作るたびに「途中で逃げ出してしまった自分」を思い出してしまう、苦くて重い存在でした。それでも、あえてそのシュークリームを携えて店を訪れるのは、「あのときの自分」と正面から向き合う覚悟ができたからこそだと思います。
店を訪ねた晋一さんは、長年心の奥にしまっていた後悔の気持ちを、師匠に素直に打ち明けます。そして、自分が作ったシュークリームを食べてもらうことに。
シュークリームを味わった師匠は、「ブランクがある割には上手にできている」「頑張ってずっと続けてほしい」と声をかけました。
30年間抱え続けてきた重い荷物が、ふっと軽くなるような一言です。技術を褒められたという以上に、「逃げ出した弟子」を受け入れ、前を向いて進むことを許してくれた言葉でもあります。
このシーンを通して、「夢をあきらめたことがある人でも、もう一度やり直していいんだ」と、画面のこちら側の私たちも励まされるような気がします。
いちご狩りとエスイチのケーキ情報まとめ 野洲で味わう小さな楽園
番組の最後には、「楽園通信」としてお店やいちご園の情報も紹介されました。
まず、いちご園フェリーチェでは、毎年1月ごろから5月ごろまでいちご狩りが楽しめます。所在地は滋賀県野洲市比江2269周辺で、JR琵琶湖線・野洲駅から近江鉄道バスで「里の内」下車すぐとアクセスも良好です。45分間食べ放題スタイルで、紅ほっぺ・章姫・かおり野などの品種を味わうことができます(料金や営業日程はシーズンによって変わるため、公式サイトでの最新情報確認がおすすめです)。
そして、パティスリーエスイチでは、ショートケーキを中心に約10種類のケーキがショーケースに並びます。生クリームは「あっさり食べやすい」味わいを目指し、素材や製法にこだわっているのが特徴です。
お店の基本情報は、次のようになります。
・店名:la pâtisserie:S-ichi(ラ パティスリー エスイチ)
・所在地:滋賀県野洲市小篠原1991-2 ゆめのはうす1階(野洲駅南口から徒歩約5分)
・営業時間:11:00〜19:00(ケーキがなくなり次第終了、日曜は18:00まで)
・定休日:火曜・水曜(不定休あり)
ショートケーキ、シュークリームのほか、焼き菓子のギフトも用意されているので、誕生日や記念日のケーキだけでなく、ちょっとした手土産にもぴったりです。
30年越しにかなえた夢のケーキ店。
神戸での修行、挫折、会社員としての日々、家族にだけ作り続けたケーキ、緑内障の発症、創業塾での学び、そして師匠との再会。
そのすべてを胸に、晋一さんは今日も野洲の小さな店で、ひとつひとつのケーキに思いを込めています。
画面の向こうの「楽園」は、遠いどこかにある特別な場所ではなく、自分の暮らす町で、自分の手で少しずつつくっていけるものなのかもしれません。
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