森山知己さんが受け継ぎ、現代につなぐ日本画の世界
尾形光琳の名作に憧れ、日本までやって来た外国人に日本画の技法を伝える人物として登場するのが、岡山を拠点に活動する日本画家の森山知己(もりやま ともき)さんです。『世界!ニッポン行きたい人応援団(尾形光琳に魅了され屏風作り)(2026年8月10日放送)』でも取り上げられ注目されています。森山さんは単に日本画を描くだけでなく、古典作品の材料や描法を研究し、国宝「紅白梅図屏風」の描法再現にも取り組んできました。作品、経歴、銀箔を使った流水表現まで詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- 森山知己さんの経歴と現在の活動
- 「紅白梅図屏風」の再現に関わった経緯
- 銀箔やたらしこみを使った日本画の技法
- 森山さんの作品を見る方法・購入時の確認点
森山知己さんは何者なのか
森山知己さんは、1958年に岡山県倉敷市で生まれた日本画家です。
1981年に東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻を卒業し、1983年には同大学大学院美術研究科絵画専攻修士課程を修了しています。
その後は東京を中心に制作活動を続けていましたが、1996年に東京都中野区から岡山県吉備中央町へ移り、吉備高原に制作拠点を構えました。
森山さんを知るうえで特に重要なのは、単に風景や花を描く日本画家ではなく、昔の日本画で使われてきた材料・道具・描法そのものを研究している画家だという点です。
紙や絹、墨、岩絵具、金属箔、水など、それぞれの素材がどう変化し、どんな表情を生み出すのかを実際の制作を通じて探ってきました。
だからこそ、尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」の描法を再現するという、かなり特殊な仕事にもつながっています。
「昔の名画をそっくりにコピーした人」という理解だけでは少し違います。
なぜこの色になったのか、どんな材料を使ったのか、どんな手順なら同じ現象が起きるのかまで考えて制作する画家と捉えると、森山さんの特徴が分かりやすいと思います。
個人的には、この「描く人」と「研究する人」の両方の顔を持っているところが、森山さんを知るうえでいちばん面白い部分だと感じます。
尾形光琳に憧れるドイツ人へ日本画を教えた理由
2026年8月10日の放送では、尾形光琳に長年魅了されてきた外国人が日本を訪れます。
熱海のMOA美術館で、憧れ続けてきた国宝「紅白梅図屏風」の実物を鑑賞。その後、岡山県で日本画家と対面し、化学反応を利用した銀の流水模様や、墨と岩絵具を使った「たらしこみ」を学ぶ流れになっています。
ここで森山さんが先生役になるのは偶然ではありません。
森山さん自身が長年、尾形光琳の「紅白梅図屏風」の流水部分をどのように描いたのか研究してきた人物だからです。
特に大きな転機となったのが2011年でした。
森山さんは、日本画研究会で交流していた文化財保存修復の研究者による硫黄を使って銀箔を変化させる研究に刺激を受け、「紅白梅図屏風」の流水描法を実際に描いて試す研究を始めています。
つまり今回教える技法も、その場限りで覚えたものではありません。
十数年以上にわたって実験、制作、再現を重ねてきたテーマです。
たしかに、尾形光琳が好きな人が日本まで来て「本物の技法を知りたい」となれば、単なる日本画教室ではなく、実際に「紅白梅図屏風」の描法を研究してきた画家から教わりたいと思うのは自然です。
森山知己さんが研究する「紅白梅図屏風」の流水表現
「紅白梅図屏風」は尾形光琳を代表する作品のひとつで、左右に紅梅と白梅、その中央を大きな水流が走る大胆な構図が特徴です。
ここで目を引くのが、中央に描かれた黒い川と、その上を流れるような模様です。
森山さんが特に研究してきたのも、この流水部分でした。
2011年、森山さんは銀箔を硫化させる実験を行い、その表現を使った作品を個展で発表しました。
ちょうどその頃、「紅白梅図屏風」をめぐる科学的な調査が進み、流水部分から硫化銀や硫黄が確認されたことを受け、森山さんは原寸大で描法を再現する画家として制作に参加することになります。
再現は紅梅側だけで終わりませんでした。
森山さんはその後、白梅側も自ら制作し、一双の「紅白梅図屏風」として仕上げています。
完成した再現作品は、所蔵先であるMOA美術館で本物の国宝とともに展示されたこともあります。
ここまで知ると、今回の外国人が森山さんを訪ねる意味もかなり違って見えてきます。
単に「昔の描き方に詳しい先生」ではなく、科学的な調査結果と実際の絵画制作を結びつけてきた画家なのです。
美術というと感性だけの世界に思えますが、材料の化学変化まで関係しているというのは、初めて知ると少し驚きます。
銀箔を変化させて水を描く独自の技法
森山さんの「紅白梅図屏風」研究でキーワードになるのが、銀箔の硫化です。
銀はそのままなら明るく輝きますが、硫黄と反応すると表面に硫化銀が生じ、色が暗く変化していきます。
森山さんは、この性質を利用して流水表現を試しました。
つまり黒い絵具を塗って川を黒くするのではなく、金属そのものを化学的に変化させて色を生み出すという方法です。
森山さんが2026年6月に開いた個展でも、尾形光琳の流水文を銀箔の硫化によって再現した経験が、その後の制作へつながっていることが紹介されています。
この技法のおもしろさは、「銀=銀色」のまま使うとは限らないところです。
日本画では、材料が持つ性質や時間による変化まで表現に取り込むことがあります。
絵具で色を塗るという感覚だけで作品を見るより、
「これは何を塗った色なのか」
「素材そのものが変化しているのか」
という視点で見ると、日本画の楽しみ方が一段深くなります。
個人的にも、完成した絵を見るだけでなく「どうやってこの色を作ったのか」を知ってから見る方が、作品の印象はかなり変わると思います。
「たらしこみ」と森山知己さんの日本画研究
もうひとつ重要なのが「たらしこみ」です。
簡単にいえば、最初に置いた墨や絵具が乾き切らないうちに、別の墨や絵具を加え、にじみや濃淡、偶然生まれる模様を生かして描く方法です。
筆できっちり線を描き込む方法とは違い、水や絵具の動きを完全には固定できません。
そのため、同じように作業しても毎回まったく同じ模様になるとは限りません。
森山さんは、このたらしこみについても制作だけでなくワークショップなどを通じて伝えてきました。
過去のワークショップでは、水の使い方によって絵具の発色が変化することなどを実際に体験してもらいながら、日本画の伝統的な描き方を紹介しています。
また、2025年の「森山知己展 水の記憶」に関連した日本画体験でも、たらしこみを使った制作企画が行われました。
森山さんの作品を理解するとき、この「水」はかなり重要な存在です。
代表的なシリーズのひとつも「水の記憶」。
紙や絹、墨、絵具、水それぞれの特徴を生かしながら、水が見せるさまざまな表情を作品にしています。
すべてを筆でコントロールするのではなく、水や素材が生み出す偶然性も作品の一部として受け入れる。
この考え方を知ってから見ると、にじみや濃淡も単なる模様ではなくなってきます。
森山知己さんの経歴と現在の活動
森山さんの主な経歴を整理すると、次のようになります。
| 年 | 主な経歴 |
|---|---|
| 1958年 | 岡山県倉敷市生まれ |
| 1981年 | 東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業 |
| 1983年 | 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修士課程修了 |
| 1996年 | 東京から岡山県吉備中央町へ移住 |
| 1999年 | 山陽新聞「吉備悠久」の挿絵を担当 |
| 2007年 | くらしき不洗観音寺の客殿板戸・襖絵を奉納 |
| 2011年 | 「紅白梅図屏風」の流水描法再現に取り組む |
| 2025年 | 「水の記憶」「和様に倣う」などの展覧会を開催 |
| 2026年 | 天満屋岡山店で「reboot 森山知己 展」を開催 |
特に現在の活動を知るうえで興味深いのが、1996年に岡山県吉備中央町へ移ってから2026年で30年を迎えたことです。
2026年6月には、その節目に合わせて天満屋岡山店で「reboot 森山知己 展」を開催しました。
森山さん自身、東京で制作していた時代から、自分の描きたい絵には自然とともに暮らす生活が必要だと考え、吉備高原にアトリエを構えたことを明かしています。
岡山で暮らすことで光の違いを感じ、それが自身の使う色にも変化を与えたとしています。
これは経歴を見るときにかなり大事な部分だと思います。
単に「東京から地元へ戻った」という話ではなく、制作する環境そのものを作品づくりの一部として選んだからです。
また、古典絵画を研究する一方で、若い世代へ日本画を伝える教育や普及にも携わってきました。
古い技法を保存するだけでなく、それを実際に使いながら次の世代へ渡していく活動も、森山さんの現在につながっています。
森山知己さんの作品・個展・展覧会情報
森山さんは1985年から長期間にわたり個展を続けています。
東京、大阪、岡山、広島、愛媛など各地で発表しており、日本橋高島屋、天満屋、三越、美術館などで作品が展示されてきました。
代表的なテーマのひとつが、繰り返し登場する「水の記憶」です。
1998年には日本橋高島屋、なんば高島屋、岡山高島屋を巡回し、その後も各地で同名の展覧会が行われています。
さらに近年は、古典技法や琳派の表現を現代の作品へつなげる活動も目立ちます。
2025年には、
- 今治市大三島美術館「森山知己 和様に倣う」
- きび美ミュージアム「森山知己展 水の記憶」
が開催されました。
そして2026年6月には、天満屋岡山店で「reboot 森山知己 展」を開催。
新作38点が並び、吉備高原に制作拠点を置いて30年という節目の展覧会になりました。
さらに2026年8月には、天満屋岡山店で開かれている工芸・美術関係者による合同展にも日本画家として参加しています。
森山さんについて知ったあとに作品を見たいなら、過去作品だけを探すのではなく、今後の個展やグループ展の開催情報を確認するのがいちばん現実的です。
作品は写真でも確認できますが、銀箔や墨、絹、岩絵具といった素材を使った日本画は、見る角度や光によって印象が変わることがあります。
可能であれば実物を見る価値は大きいでしょう。
森山知己さんの作品を見る・購入する方法
森山さんの作品は、美術館の収蔵作品、個展、百貨店の美術画廊などで見ることができます。
これまでの作品は、佐藤美術館、成川美術館、今治市大三島美術館、岡山県立美術館、倉敷市立美術館、新見美術館、笠岡市立竹喬美術館など複数の施設に収蔵されています。
一方、作品を購入したい場合は注意が必要です。
一般の商品通販のように、森山さんの全作品を常時購入できる公式オンラインショップは今回確認できませんでした。
これまで天満屋岡山店の美術画廊などで販売を伴う展覧会が行われているほか、美術商で森山さんの作品が取り扱われた例があります。作品によってはすでに売却済みとなっています。
そのため購入を考える場合は、
- 現在開催中・開催予定の個展を確認する
- 取り扱い美術画廊へ在庫を確認する
- サイズ・技法・制作年を確認する
- 原画なのか版画など別形態なのか確認する
- 額装の有無や価格を確認する
といった順番で探すのが安心です。
特に日本画は、作品の大きさだけで価格を単純比較できません。
使用する支持体、絵具、箔、制作方法、制作年なども作品ごとに違います。
実際に選ぶなら、「森山知己さんの作品なら何でも同じ」と考えず、作品そのものの技法や来歴まで確認したいところです。
そして森山さんの場合、購入するかどうかとは別に、まず「紅白梅図屏風」の再現研究と「水の記憶」を知ってから作品を見ると印象が変わります。
古典をそのまま残すのではなく、昔の画家が何を考え、どんな材料をどう使ったのかを自分の手で確かめ、それを現代の作品へつなげる。そこに森山知己さんという日本画家の大きな特徴があります。

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