佐々木愛が「2冠作家」として再び名前を広げる
小説『じゃないほうの歌いかた』の作者、佐々木愛さんが2026年8月10日、第2回北上次郎「面白小説」大賞を受賞しました。同作は2025年の第7回島田賞・短編小説部門にも選ばれており、これで2冠です。
この記事でわかること
- 小説家・佐々木愛さんの経歴
- 小説を書くようになった背景
- 『じゃないほうの歌いかた』が2冠となった経緯
- これまでに発表した代表作品
『じゃないほうの歌いかた』作者・佐々木愛は何者なのか
佐々木愛さんは、1986年生まれ、秋田県出身の小説家です。
青山学院大学文学部を卒業し、朝日カルチャーセンターの小説講座で「海燕」元編集長の根本昌夫さんに学びました。
2016年に短編小説「ひどい句点」で第96回オール讀物新人賞を受賞。その後、2019年に『プルースト効果の実験と結果』を刊行し、単行本デビューしています。
現在までの主な単行本として確認できるのは、
- 『プルースト効果の実験と結果』
- 『料理なんて愛なんて』
- 『じゃないほうの歌いかた』
です。
派手な経歴を売りにしてきた作家というより、日常の中で「思うようにいかない人」や「理想の自分になれない人」を描いてきた作家と見ると、作品の特徴が分かりやすくなります。
個人的には、今回の受賞だけを見るより、デビューから約10年かけて作品を積み重ねてきた流れを知った方が、佐々木さんという作家の面白さが伝わると感じます。
佐々木愛が第2回北上次郎「面白小説」大賞を受賞
2026年8月10日、佐々木愛さんの『じゃないほうの歌いかた』が、第2回北上次郎「面白小説」大賞を受賞したことが発表されました。
この賞は、書評家・北上次郎さんの遺志を継ぎ、「新しい才能を世に送り出すこと」や、読み終わったあとに希望を感じられる作品を選ぶ趣旨で設けられています。
『じゃないほうの歌いかた』は今回が初めての受賞ではありません。
2025年12月には、書店員・島田優紀さんによる第7回島田賞の短編小説部門も受賞しています。
そのため今回の受賞で、同作は2冠となりました。
文学賞というと、芥川賞や直木賞のような大きな賞を思い浮かべがちですが、書評家や書店員が選ぶ賞には「まだ広く知られていない面白い作品を見つける」という役割もあります。
本選びで迷う人にとっては、こうした受賞歴もひとつの判断材料になります。
佐々木愛が小説家になるまでの経歴
佐々木愛さんは、学生時代から順調に作家への階段を上ってきたわけではありません。
本人は新人賞受賞後のインタビューで、小説を書こうとした背景について、人と話すことが非常に苦手だったことを明かしています。
話す以外の方法を身につけなければ、という思いも小説を書く動機のひとつだったとしています。
そして、小説家になるための準備として、根本昌夫さんの小説講座に約4か月通いました。
新人賞への応募は約2年間で5回。
つまり、1作書いてすぐデビューしたわけではありません。
特に印象的なのが、佐々木さん自身が「小説を書けるようになりたい」と思っていた期間を15年と振り返っていることです。実際の受賞作のパソコンでの執筆期間は約2週間だった一方、その作品を書くところまで来るのには長い時間がかかっていました。
初めて知ると少し驚きます。
作品が完成するまでの日数だけを見れば短くても、その前には何年もの読書や経験、迷いが積み重なっているわけです。
「ひどい句点」でオール讀物新人賞を受賞した転機
佐々木愛さんにとって大きな転機となったのが、2016年の第96回オール讀物新人賞です。
受賞作品は「ひどい句点」。
大学生の女性と、新聞社に勤める既婚男性との関係を描いた短編です。
作品のアイデアには、当時の芸能人の不倫報道と、佐々木さん自身が参加した句会で作った俳句が関係していたことも本人が明かしています。
ここも面白いところです。
ニュースそのものを書くのではなく、日常で見聞きした出来事や、自分の体験の断片を小説へ変えていく。
作家の仕事というと、完全にゼロから物語を作るように思えますが、実際には身近な違和感や感情が出発点になることもあります。
「ひどい句点」の受賞を経て、佐々木さんは2019年に同作を収録した『プルースト効果の実験と結果』を刊行しました。これが単行本デビュー作となります。
『プルースト効果の実験と結果』で単行本デビュー
『プルースト効果の実験と結果』には、新人賞を受賞した「ひどい句点」を含む複数の短編が収録されています。
佐々木さんの小説では、恋愛を扱っていても、分かりやすい「幸せな恋」だけが中心になるわけではありません。
うまく気持ちを伝えられない。
好きな人とうまくいかない。
理想の人生から少し外れている。
そんな人物たちの気持ちを描いている点が特徴です。
このデビュー作の表題作は、書評家から2018年の恋愛小説短編の中でも高く評価されました。その後の作品でも、いわゆる「主役らしい人」だけでなく、少し不器用な人物へ視線を向ける作風が続いていきます。
個人的には、この方向性を知っておくと、最新作のタイトルにある「じゃないほう」という言葉も理解しやすくなります。
『料理なんて愛なんて』では「料理は愛情」という価値観を描いた
佐々木愛さんの第2作が『料理なんて愛なんて』です。
主人公は料理が苦手な女性・優花。
好きだった男性から振られたことをきっかけに料理へ挑戦しますが、やればやるほど、自分が料理を好きではないことにも向き合うことになります。
作品の背景にあるのは、
「女性なら料理ができた方がいい」
「料理は愛情」
「こういう人になった方が幸せ」
といった価値観です。
主人公は単純に料理が上手になることを目指すだけではなく、「自分は本当にそうなりたいのか」と迷います。
この作品は第1回本屋が選ぶ恋愛小説大賞にもノミネートされました。
たしかにこれは気になるテーマです。
料理に限らず、仕事、結婚、子育て、趣味などでも「普通はこうするもの」と言われることがあります。
佐々木さんの作品では、そこから少し外れてしまった人を否定せずに描いている点が、その後の作品にもつながっています。
『じゃないほうの歌いかた』はどんな小説なのか
2025年8月27日に発売された『じゃないほうの歌いかた』は、落合南長崎にある架空の独立系カラオケ店「BIG NECO」を舞台とした連作小説です。
登場するのは、いわゆる成功者ばかりではありません。
音の鳴らないトランペッター、反抗期の娘と暮らす元俳優、74歳でカラオケ店で働く老人、売れない小説家など、人生が思い通りになっていない人たちが登場します。
タイトルにある「じゃないほう」も重要です。
一番になれなかった。
夢をかなえられなかった。
主役ではなかった。
選ばれなかった。
それでも、その人の人生そのものに意味がないわけではありません。
佐々木さんは、そんな人物たちの日常の中に起きる小さな出来事を描いています。
個人的には、ここが今回の受賞を知って作品を読むか迷っている人にとって、いちばん大事なポイントだと思います。
大きな事件が次々起こる物語というより、普通の人の感情や人生の小さな変化を読む作品が好きかどうかで、相性が分かれそうです。
島田賞に続く2冠となった現在の評価
『じゃないほうの歌いかた』は、2025年の発売後から書店員や書評家などから評価を受けてきました。
そして2025年12月に第7回島田賞・短編小説部門を受賞。
さらに2026年8月10日、第2回北上次郎「面白小説」大賞に選ばれ、2冠となりました。
1つの作品が異なる選者から評価されたことは、作品をこれから読もうとしている人には分かりやすい目安になります。
ただし、文学賞を取ったから誰にでも合うとは限りません。
『じゃないほうの歌いかた』は、成功者のサクセスストーリーやスピード感のある展開より、日常の中にいる少し不器用な人たちを描いた作品です。
実際に選ぶなら、受賞歴だけではなく、自分が普段どんな小説を好んでいるかも確認したいところです。
佐々木愛がこれまでに発表した主な作品
佐々木愛さんを初めて知った場合、どこから読めばいいのか迷うかもしれません。
大きく分けると、次の3作品から選びやすいです。
『プルースト効果の実験と結果』
佐々木さんの原点を知りたい人向け。新人賞受賞作「ひどい句点」を収録したデビュー作です。
『料理なんて愛なんて』
「こうあるべき」という価値観と、自分自身の本音とのズレを描いた長編。日常生活に近いテーマから入りたい人には読みやすい作品です。
『じゃないほうの歌いかた』
成功者ではない人々の人生を描いた連作小説。今回の受賞をきっかけに佐々木さんを知ったなら、まずこの作品から入るのが自然でしょう。単行本は216ページで、2025年8月27日に発売されています。
「受賞した最新作から読むか、デビュー作から読むか」は迷うところですが、順番に読む必要はありません。
個人的には、今回初めて佐々木愛さんを知ったなら、まず『じゃないほうの歌いかた』を読んで作風が合うか確かめ、気に入ったら過去作品へ戻る方法が入りやすいと思います。
佐々木愛が描き続けている「何者かになれない人」
佐々木愛さんの作品を並べてみると、共通して見えてくるものがあります。
それは、理想通りに生きられない人への視線です。
恋愛がうまくいかない。
料理が好きになれない。
夢がかなわない。
主役になれない。
「こうなった方が幸せ」と言われる方向へ、うまく進めない。
そんな人物たちが何度も登場します。
最新作『じゃないほうの歌いかた』も、その流れの延長線上にあります。
華々しい成功だけを描くのではなく、「じゃないほう」にいる人にも、その人にしかない人生がある。
第2回北上次郎「面白小説」大賞の受賞によって佐々木愛さんを初めて知った人にとっても、なぜこの作品が『じゃないほうの歌いかた』というタイトルなのかを考えながら読むと、作品の見え方が変わってきそうです。
2016年の新人賞受賞から約10年。
佐々木愛さんは突然現れた新人作家ではなく、作品を少しずつ積み重ねながら評価を広げてきた小説家です。
今回の2冠をきっかけに、最新作だけでなくデビュー作や『料理なんて愛なんて』まで手に取る人が増えるのか、今後の活動にも注目したいところです。
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