13本ではなく25本の絃で箏の可能性を広げる演奏家
一般的な箏の13本に対し、25本の絃を備える「二十五絃箏」。『芸能きわみ堂(鈴木福プレゼンツ 追究!箏の新たな魅力)(2026年8月28日)』に登場する中井智弥さんは、この比較的新しい和楽器を軸に活動する演奏家・作曲家です。伝統的な箏曲だけでなく、歌舞伎「刀剣乱舞」、舞台作品、自作曲へと表現を広げ、2026年には芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞しました。
この記事でわかること
- 中井智弥さんが二十五絃箏を選んだきっかけ
- 普通の箏と二十五絃箏の違い
- 歌舞伎「刀剣乱舞」との関わり
- 芸術選奨受賞と2026年の活動
中井智弥は二十五絃箏を追求する演奏家・作曲家
(出典:中井智弥 公式WEB)
中井智弥さんは、箏・三絃・二十五絃箏を演奏する箏曲家であり、作曲家です。
三重県津市出身。6歳で箏を始め、12歳から三絃を学び、東京藝術大学音楽学部邦楽科へ進みました。
古典的な箏や地歌三絃を学びながら、活動の大きな柱としてきたのが二十五絃箏です。
一般的な箏より広い音域を持つこの楽器を使い、日本の古典文学、能、神話などから着想した作品も数多く発表しています。
演奏するだけでなく、自ら作曲し、二十五絃箏で演奏できる音楽そのものを広げてきたことが、中井さんの大きな特徴です。
普通の箏は13本、二十五絃箏は25本ある
一般的に使われている箏は13本の絃を持っています。
一方、中井さんが演奏する二十五絃箏は、その名の通り25本の絃を備えています。
単純に絃の数が増えただけではありません。
低音から高音まで使える範囲が広がることで、1台の楽器から出せる音の表現も大きく広がりました。
二十五絃箏は箏曲家の野坂操壽さんが開発に取り組み、1991年に完成した楽器です。
長い歴史を持つ十三絃箏と比べれば比較的新しく、現在も演奏家や作曲家によって新しい奏法や楽曲が生み出されています。
見た目は伝統的な箏に近くても、実際には現代の音楽表現を広げるために生まれた新しい和楽器という面を持っています。
東京藝術大学卒業時に二十五絃箏と出会った
中井さんが箏を始めたのは6歳の頃です。
母親が通っていた三味線の稽古場で箏を勧められ、生の音に触れたことから演奏を続けるようになりました。
その後、東京藝術大学で邦楽を本格的に学びます。
大きな転機となったのが、大学卒業の頃に出会った二十五絃箏でした。
それまで学んできた箏とは違い、広い音域を使って現代的な音楽まで表現できることに大きな可能性を感じたといいます。
古典を捨てて新しい方向へ進んだわけではありません。
むしろ古典をしっかり学んだからこそ、「箏でまだ表現できることがある」と感じたことが、二十五絃箏を追求する出発点になりました。
師匠・野坂操壽の言葉が作曲家への転機になった
中井さんが二十五絃箏を学んだ相手が、この楽器を生み出した野坂操壽さんです。
二十五絃箏に憧れて師事した中井さんでしたが、やがて演奏だけでなく作曲にも取り組むようになります。
きっかけの1つとなったのが、師から自分自身の音楽を見つけることを促されたことでした。
二十五絃箏は1991年に完成した比較的新しい楽器のため、十三絃箏ほど長い年月をかけて積み重ねられた曲がありません。
そこで中井さんは、自分で演奏する曲を自分自身で作るようになりました。
日本神話や古典文学、能などから題材を取り、自ら物語を読み解いて楽曲へ変えていきます。
演奏家であると同時に作曲家でもあることが、現在の活動につながる重要な転機となりました。
歌舞伎「刀剣乱舞」の音楽を担当
(出典:中井智弥 公式WEB)
中井さんの活動を知るうえで外せない仕事の1つが、**歌舞伎「刀剣乱舞」**です。
2023年に上演された新作歌舞伎「刀剣乱舞〜月刀剣縁桐〜」で音楽を担当し、自ら舞台にも出演しました。
さらに2025年の「刀剣乱舞〜東鑑雪魔縁〜」でも音楽を担当しています。
ゲームを原作とする「刀剣乱舞」の世界と、日本の伝統芸能である歌舞伎。
そこに箏や二十五絃箏の音が加わることで、昔ながらの邦楽だけではない新しい舞台音楽が生まれました。
二十五絃箏は低い音も使えるため、静かな場面だけでなく、物語が大きく動く場面でも存在感を出すことができます。
伝統的な和楽器でありながら、現代作品とも自然につながれることを示した仕事の1つです。
歌舞伎だけでなく能・文学・神話も音楽にする
中井さんの作品には、日本の古典文学や神話を題材にしたものが数多くあります。
2025年には「源氏物語」を題材とした詩楽劇**「めいぼくげんじ物語〜夢浮橋〜」**で楽曲制作と出演を担当しました。
日本舞踊家や俳優など、異なる分野の表現者と組みながら作品を作る活動も続けています。
古典作品をそのまま再現するのではなく、自分で読み解き、二十五絃箏や現代の舞台表現に合わせて再構築している点が特徴です。
箏という楽器を入口にしながら、文学や演劇、舞踊まで活動が広がっています。
2026年に芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞
中井さんの活動が大きく評価されたのが、2026年の芸術選奨文部科学大臣新人賞です。
令和7年度・第76回芸術選奨の音楽部門で受賞しました。
評価対象となったのは「中井智弥 箏・二十五絃箏リサイタル2025」などの活動です。
箏、三絃、二十五絃箏、さらに作曲まで取り組みながら、古典を大切にしつつ新しい表現を生み出してきた点が高く評価されました。
歌舞伎「刀剣乱舞」での活動や、異なるジャンルの演奏家との共演も、中井さんの音楽を特徴づけています。
二十五絃箏という珍しい楽器を演奏しているだけではなく、その楽器を使って新しい作品を生み出し続けていることが受賞につながっています。
海外でも二十五絃箏を演奏してきた
中井さんの活動は日本国内だけではありません。
これまでメキシコ、チリ、ドミニカ共和国、タイ、ベトナム、エストニア、インド、フランス、イタリア、スペインなどでも演奏してきました。
2015年には芸歴30周年を記念し、日本だけでなくアメリカやヨーロッパ各地でもリサイタルを開催しています。
さらにフィンランドの民族楽器「カンテレ」の奏者と共演するなど、海外の伝統楽器との組み合わせにも取り組んできました。
箏を海外で紹介するだけではなく、他国の音楽家と音を重ねることで、新しい作品へ発展させているところも特徴です。
2026年もリサイタルで新しい音を追求
2026年10月12日には東京で、**「中井智弥 箏・二十五絃箏リサイタル2026〜Deep Emotion〜」**が予定されています。
東京でのリサイタルは13回目となります。
自作曲を中心に、箏や十七絃、弦楽四重奏などを組み合わせた演奏が予定されています。
6歳で出会った箏。
東京藝術大学で学んだ古典。
卒業時に出会った二十五絃箏。
師匠の言葉から始まった作曲。
そして歌舞伎「刀剣乱舞」や海外公演、芸術選奨受賞へ。
中井智弥さんの歩みを見ると、伝統を守るだけではなく、伝統を土台に新しいものを作ることを続けてきたことが分かります。
25本の絃を持つ二十五絃箏は、その活動を象徴する楽器です。


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