ムカデ1匹との暮らしから始まった「足もとの楽園」
2026年9月23日放送のNHK総合『へんてこ生物アカデミー 第12弾』に登場したのが、「ぺんどら」の名前で活動する自然写真家・佐野誠さんです。番組では、ダニやトビムシなど普通なら見過ごしてしまう微小な生き物を撮影する“プロへんショナル”として紹介され、佐野さんが生き物を見る目を大きく変えることになった1匹のムカデとの出会いも明かされました。
この記事でわかること
- 佐野誠さんが苦手だったムカデを飼い始めたきっかけ
- 番組で紹介されたアカイボトビムシ属の一種
- 粘菌がミクロ撮影の転機になった理由
- 佐野さんの経歴や撮影方法、写真集
ぺんどら(佐野誠)は苦手だったムカデを飼って生き物の見方が変わった
公式動画:トビムシ Springtails|ぺんどら YouTube
佐野誠さんが現在の活動につながる大きな転機を迎えたのは、約10年前。きっかけは、ムカデ好きの後輩から勧められ、1匹のムカデを飼い始めたことでした。
もともと佐野さん自身はムカデが苦手でした。しかし、同じ空間で暮らしながら毎日その動きを観察していくうちに、少しずつ印象が変化。やがてムカデがかわいく見えるまでになったことが、番組で紹介されています。
現在使っている「ぺんどら」という名前も、オオムカデ属の学名「Scolopendra」に由来します。
佐野さん自身も、ムカデ好きの後輩をきっかけにムカデの魅力へ気付き、そこからより多くの生き物へ興味が広がったと記しています。「嫌われやすい生き物でも、よく観察すると見え方が変わる」という経験が、その後の活動の土台になりました。
番組のイチオシはアカイボトビムシ属の一種
番組で佐野さんのイチオシとして紹介されたのが、「アカイボトビムシ属の一種」です。
トビムシは、土や落ち葉、朽ち木などの身近な環境に暮らす非常に小さな生き物。アカイボトビムシ属の一種は鮮やかな赤色をした仲間で、落ち葉や朽ち木の下などに生息しています。
佐野さんのYouTube動画を見ると、トビムシはただ小さく動き回るだけではありません。
- 跳躍器を使って飛ぶ
- 危険を感じると一瞬で逃げる
- 種類によっては求愛行動をする
- キノコや粘菌、花粉、胞子などを食べる
- 逆にダニやザトウムシなどに捕食される
数ミリにも満たない世界にも、「食べる」「逃げる」「求愛する」「食べられる」という生き物同士の関係があります。佐野さんが撮影しているのは、小ささそのものよりも、肉眼では気付きにくいこうした暮らしの瞬間です。
粘菌との出会いが1〜2mmの世界を撮る転機になった
ムカデとの出会いによって生き物を見る意識が変わった佐野さんですが、現在のような「ミクロの世界」を撮影する直接的な転機になったのは粘菌でした。
粘菌に興味を持ち、近くの山へ探しに行くようになった佐野さんは、粘菌そのものだけでなく、その周囲にトビムシやダニなどのさらに小さな生き物が暮らしていることに気付きます。
中でも目を引いたのが、粘菌を食べる赤いイボトビムシの仲間でした。
数ミリしかない粘菌が密集する場所を、小さなトビムシがゆっくり歩きながら食べていく。人間の目では倒木や落ち葉の一角にしか見えない場所が、トビムシの大きさまで視点を下げると、巨大な植物が立ち並ぶ森のような風景へ変わります。
佐野さんはこの光景に引き込まれ、粘菌を探し続けるうちに、ゴマ粒やケシ粒ほどの生き物を見つける目も身につけていきました。それまで難しいと考えていた「現地で自由に暮らす微小生物」を主役にした撮影へ進む大きな転機となります。
佐野誠は1983年生まれ、環境科学を学んだ自然写真家
ぺんどらこと佐野誠さんは、1983年生まれ。愛知県と静岡県で育ち、現在は山梨県を拠点に活動しています。
大学院では環境科学を学び、カエルの食性に関する研究で修士号を取得しました。そこで見てきた「生き物同士のつながり」をテーマに、大小さまざまな生き物の生態写真を撮るようになります。
現在は自然写真家の活動だけでなく、環境調査の仕事にも携わっています。
- 本名:佐野誠
- 活動名:ぺんどら
- 生年:1983年
- 出身・育ち:愛知県、静岡県
- 現在の拠点:山梨県
- 専攻:大学院で環境科学
- 研究テーマ:カエルの食性
- 主な被写体:トビムシ、ダニなどの土壌動物、粘菌
- 活動:自然写真、動画撮影、環境調査、書籍・テレビなどへの写真・映像提供
日本自然保護協会でも、佐野さんは「主にトビムシなどの土壌動物と粘菌を被写体に小さな生きものの撮影を行う写真家」と紹介されています。
撮影は落ち葉をめくってゴマ粒ほどの生き物を探すところから始まる
佐野さんがよく撮影するのは、山梨県の自宅周辺にある山林です。
ただし、特別な原生林へ行かなければ撮れないわけではありません。都市公園や道路脇の苔など、土や植物がある場所にはさまざまな小さな生き物が暮らしており、身近な場所も撮影フィールドになります。
撮影方法は非常に地道です。
地面に腰を下ろし、石や落ち葉をめくりながら、ゴマ粒やケシ粒ほどの生き物をひたすら探します。見つけた後は、カメラを拡大できる虫眼鏡のように使い、ピントを固定した状態でカメラそのものをわずかに前後左右へ動かして焦点を合わせます。
そこで生き物が面白い動きを見せた瞬間にシャッターを切るのです。
そして佐野さんが大切にしているのが、撮影のために動かした石や落ち葉を、終了後になるべく元の場所へ戻すこと。同じ場所で生き物たちと再び出会うための大切な作法だとしています。
小さな生き物を珍しい被写体として切り取るのではなく、その生き物が実際に暮らしている環境ごと観察する姿勢が、佐野さんの写真の大きな特徴です。
写真集『足もとの楽園 ちっちゃな生き物たち』に約10年の世界を収録
佐野さんが長年撮り続けてきたミクロの世界は、2024年3月に写真集としてまとまりました。
書名は『足もとの楽園 ちっちゃな生き物たち』です。
- 著者:ぺんどら
- 出版社:さくら舎
- 発売日:2024年3月7日
- 判型:A5判
- ISBN:978-4-86581-416-3
- 本体価格:1,800円
本には粘菌、菌類、苔、地上や地下、水辺などを舞台に、トビムシやダニ、ヤスデ、カニムシ、ザトウムシなどが暮らす様子が収められています。佐野さんが約10年間撮りためた写真をまとめたもので、写真は334点に及びます。
タイトルの「足もとの楽園」は、佐野さんの撮影世界をそのまま表す言葉でもあります。
遠くの秘境へ行かなくても、森の落ち葉を一枚めくる。苔へ顔を近づける。朽ち木をじっくり眺める。それだけで、人間とはまったく違う大きさで生きる生物たちの世界があります。
まとめ
『へんてこ生物アカデミー』で紹介されたぺんどらこと佐野誠さんは、トビムシやダニ、粘菌など、肉眼では見過ごしてしまう小さな生き物を追い続ける自然写真家です。
その出発点には、もともと苦手だったムカデを後輩に勧められて飼い、一緒に暮らしながら観察した経験がありました。嫌っていた生き物でも、近くで見続ければ印象が変わる。その経験は「Scolopendra」に由来する「ぺんどら」という活動名にも残っています。
さらに粘菌を探して山へ入ったことで、その周囲を歩くイボトビムシやダニの存在に気付き、1〜2mmほどの生き物たちが実際の環境で暮らす姿を撮る現在のスタイルへつながりました。
番組でイチオシとして登場したアカイボトビムシ属の一種も、単に形が珍しい生物としてではなく、「見ようとしなければ存在にすら気付かない世界」の象徴的な存在です。
足もとの落ち葉や苔の中にも、食べ、逃げ、出会い、ほかの生き物と関わりながら生きている世界がある。佐野さんの写真は、普段の風景を見る距離をほんの少し変えるだけで、身近な自然がまったく違って見えることを伝えています。
参考リンク
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