金融スタートアップのCOOから「小杉湯原宿」の番頭になった関根江里子
2026年9月25日放送のNHK Eテレ『おとな時間研究所 2つの銭湯物語』に登場する関根江里子さんは、金融系スタートアップの取締役COOというキャリアを離れ、銭湯の世界へ飛び込んだ人物です。
2024年4月には、東急プラザ原宿「ハラカド」の地下1階に「小杉湯原宿」を開業。流行のサウナや高価格帯のスパではなく、原宿の真ん中で誰もが日常的に通える“街の銭湯”をつくることにこだわりました。現在は株式会社小杉湯の副社長、株式会社ゆあそびの代表取締役として、銭湯文化を事業として次世代へ残す取り組みを進めています。
この記事でわかること
- 関根江里子さんがペイミーCOOから銭湯へ転身した経緯
- 父親と通った銭湯が現在の仕事につながった理由
- 小杉湯原宿を「街の銭湯」にした仕組み
- 小杉湯原宿の料金・営業時間・場所
関根江里子はペイミーCOOから銭湯経営へ転身

関根江里子さんは1995年、上海生まれ、東京育ちです。
大学卒業後に働き始め、2020年に給与即日払いサービスなどを手掛けていた金融系スタートアップ「ペイミー」に入社しました。カスタマーサクセスなどの事業責任者を経て、同年末には取締役COOに就任しています。
20代半ばで会社経営を担う立場になりましたが、その後の進路として選んだのは、さらに大きな企業や金融業界ではありませんでした。
2022年、関根さんは銭湯経営を目指して独立します。
高円寺で1933年から続く老舗銭湯「小杉湯」と出会い、原宿への新店舗プロジェクトに参加。株式会社小杉湯へ入り、銭湯運営や新規事業に携わるようになりました。
金融スタートアップの経営陣から、浴槽や床を洗い、毎日お湯を沸かす銭湯の仕事へ。
一見すると大きな方向転換ですが、関根さんにとっては幼い頃から続いてきた経験とつながる選択でした。
父親と通った銭湯が人生の転機につながった
関根さんにとって、銭湯は大人になってから見つけた趣味ではありません。
幼い頃、父親と日常的に銭湯へ通っていました。
関根さんの父親は、関根さんが生まれた時には60歳。清掃の仕事をしながら家族を支えていました。仕事着姿の父親と一緒にいることで周囲から違った目を向けられる経験があった一方、銭湯では父親の職業や服装に関係なく、ごく普通の親子として過ごすことができたと振り返っています。
その記憶が再びよみがえったのが、ペイミーで経営に携わっていた時期でした。
取締役会の帰りに立ち寄った東京・初台の銭湯で、急速に変化するスタートアップの世界とは対照的に、何年も変わっていないような空間に身を置きます。
そこで思い出したのが、父親と銭湯へ通った子ども時代でした。
成果や肩書、服装、年齢などで人を判断するのではなく、さまざまな人が同じ湯船に入る。関根さんにとって銭湯は、社会の中で人がそのまま受け入れられる場所として再び見えるようになりました。
この体験から、関根さんは金融の世界を離れ、銭湯を仕事にする道へ進んでいきます。
2024年に原宿の地下へ「小杉湯原宿」を開業
大きな挑戦となったのが、小杉湯原宿です。
2024年4月17日、神宮前交差点に開業した東急プラザ原宿「ハラカド」の地下1階に、小杉湯として初めての2号店が誕生しました。
高円寺の小杉湯は昔から住宅街にある銭湯です。
一方、原宿はファッションや広告、観光の中心地。しかも店舗は大規模商業施設の地下にあります。
そこで関根さんたちが目指したのは、人気観光施設としての温浴施設ではなく、あくまで「原宿の街の銭湯」でした。
原宿では約20年前を最後に銭湯がなくなっていました。
小杉湯原宿は地下にあるため、高円寺の小杉湯と同じ「一般公衆浴場」ではなく、法令上はスーパー銭湯などと同じ「その他公衆浴場」に分類されています。
それでも入浴料金は550円。
商業施設の地下にある温浴施設だから料金を高くするのではなく、日常的に利用できる銭湯として運営するため、東京の一般的な銭湯と同水準の料金設定を続けています。
原宿でもサウナを作らなかった理由
小杉湯原宿には、現在の温浴施設で集客の柱になりやすいサウナがありません。
これは設備上の事情だけではなく、意図的な選択です。
原宿という場所でサウナを設ければ、若い世代を中心に利用者を集めやすくなります。しかし特定の趣味や世代に利用者が偏れば、別の人にとって入りづらい場所になる可能性があります。
関根さんたちが目指したのは、年齢や生活スタイルを問わず、誰でも入りやすい銭湯でした。
高円寺の小杉湯から受け継いだ名物の「ミルク風呂」をはじめ、熱い湯と水風呂を行き来する温冷交互浴を楽しめる構成になっています。
流行する設備を次々と付け足すのではなく、毎日お湯を沸かして人を待つ。
その「変わらなさ」そのものを価値にしようとしているのが、小杉湯原宿の特徴です。
開業前から原宿へ住み、町内会にも参加した
「街の銭湯」を名乗るために行ったのは、施設づくりだけではありません。
関根さんたちは開業前から原宿の地域へ入り、スタッフの多くが周辺へ移住しました。
町内会の行事や地域活動にも参加し、銭湯が完成してから地元との関係をつくるのではなく、店をつくる段階から原宿という街の一員になることを目指しました。
開業直後には、誰でも自由に入浴できる営業ではなく、地域住民を中心に利用してもらう期間も設けています。
その後、2024年8月1日からはすべての営業時間で誰でも利用できる営業へ移行しました。現在は原宿に住む人だけでなく、仕事前後の人、観光客、夜行バスなどで東京へ来た人まで幅広く利用しています。
2026年には1日平均500人を超える利用者が訪れる施設へ成長しています。
「小杉湯原宿」を事業として残すため株式会社ゆあそびを設立
関根さんの挑戦は、小杉湯原宿を開業して終わったわけではありません。
2024年10月には、小杉湯原宿の運営を中心に担う株式会社「ゆあそび」を設立し、代表取締役に就任しました。現在は株式会社小杉湯の副社長も務めています。
高円寺の小杉湯は、長年にわたって家族が守ってきた「家業」としての歴史があります。
一方、小杉湯原宿では、新しい場所に銭湯をつくり、採算を確保しながら将来へ残していく「事業」としての仕組みが必要になります。
原宿の一等地で550円の入浴料を維持するため、企業との連携も活用しています。
ただし単に広告スペースとして貸し出すのではなく、花王の石けんのように、企業が長年守ってきた文化や原点と銭湯の考え方が重なる取り組みを重視しています。
銭湯そのものだけで利益を最大化するのではなく、銭湯があることで企業や地域、人がつながり、その全体で場所を持続させていく仕組みです。
関根さんは2025年、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」にも選出されました。
金融スタートアップで培った経営経験は、捨てられたのではなく、今度は「銭湯を未来へ残す」という仕事に使われています。
小杉湯原宿の料金・営業時間・アクセス
小杉湯原宿は、東急プラザ原宿「ハラカド」の地下1階にあります。
- 施設名:小杉湯原宿
- 所在地:東京都渋谷区神宮前6-31-21 東急プラザ原宿「ハラカド」B1F
- 入浴料金:550円
- 営業時間:7:00~23:00
- 定休日:木曜日
- 東京メトロ「明治神宮前〈原宿〉駅」4・7番出口から徒歩1分
- JR「原宿駅」から徒歩4分
- 電話番号:03-6712-5026
- 2024年8月1日以降:全時間帯で誰でも利用可能
営業時間とアクセスは2026年9月現在、東急プラザ原宿「ハラカド」の公式案内でも確認できます。
まとめ
関根江里子さんの経歴で印象的なのは、金融系スタートアップのCOOから銭湯へ移ったという肩書の変化だけではありません。
幼い頃に父親と通った銭湯、経営者として働く中で再び出会った銭湯、そして「こういう場所を社会に残したい」と考えたことが、現在の仕事につながっています。
2024年には、約20年間銭湯がなくなっていた原宿に小杉湯原宿を開業しました。
サウナを設けず、原宿の一等地でも550円という銭湯価格を守り、開業前から地域へ入り込んで「街の銭湯」をつくる。さらに株式会社ゆあそびを立ち上げ、文化として守るだけでなく、事業として続けられる形を模索しています。
金融業界で経営を経験した関根さんが次に取り組んだのは、新しいものを次々生み出す仕事ではなく、毎日変わらずお湯を沸かし続ける場所を未来へ残す仕事でした。
参考リンク



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