城下町の町家で始まった、夫婦の新しい物語
「年を取ったら静かに暮らす」――そんな言葉が、必ずしもすべての人に当てはまるわけではありません。むしろ今、第二の人生を自分の手で描こうとするシニア世代が全国で増えています。今回の『人生の楽園』で紹介されるのは、まさにその代表ともいえる夫婦。舞台は新潟県上越市の高田城下町。江戸時代の町割りがそのまま残る、雁木通りの一角で、70代の夫婦が新たな夢を咲かせました。
主人公は、西脇美智子さん(73)と西脇直行さん(75)。結婚して半世紀を越えたふたりが選んだのは、“夫婦別々の店を、一つ屋根の下で開く”という道。妻は喫茶店「カフェ マリキータ(Cafe Marikita)」、夫は蕎麦店「手打ち蕎麦 のうぼ」。それぞれの夢を追いながら、互いに支え合う日々が始まりました。
この記事では、地域社会学の視点から、この夫婦の挑戦がどのように地域に新しい風を吹かせたのかを紐解いていきます。放送後には、店のメニューやお客さんの声、上越のまちの反応なども追記予定です。
城下町の町家でかなえた妻の夢「カフェ マリキータ」
学生のころから喫茶店が大好きだった西脇美智子さん。仕事や育児、介護といった人生の節目を経て、70代になってようやく「自分のための場所を持ちたい」と心に決めました。
その舞台に選んだのが、上越市高田の雁木通りに並ぶ古い町家。雪国ならではの木造建築を丁寧に改装し、明るい窓と木の梁が映える店内に、コーヒーの香りが広がります。
店名の「マリキータ」は、スペイン語で“てんとう虫”を意味します。小さくても人に幸せを運ぶ存在になれたら――そんな思いが込められているのです。
美智子さんは「ずっと心の中で育ててきた夢が、ようやく羽を広げた感じ」と笑顔で語ります。メニューには、手作りのレアチーズケーキや季節のブレンドコーヒーなど、地元の素材を使った優しい味が並びます。
さらに注目なのが、店内のカップやお皿の多くが美智子さん自身の手作りだということ。陶芸教室に通い、何度も失敗を重ねて焼き上げた器には、温もりと個性が宿ります。その器を手にした瞬間、訪れた人がほっと心をほどく――そんな時間を届ける場所です。
開店以来、常連客が増え、近所の人々が集う“地域の居場所”として親しまれています。休日には観光客がふらりと立ち寄り、「こんな落ち着く喫茶店、久しぶりに出会った」と話すことも。古い町家に再び人の声と笑顔が戻った瞬間でした。
夫の挑戦「手打ち蕎麦 のうぼ」で第二の人生を
「美智子が夢を叶えるなら、俺もやってみたい」――そう言って立ち上がったのが、夫の西脇直行さんです。長年会社勤めを続け、定年を迎えた彼の心に芽生えたのは、「自分の手で何かを作りたい」という想いでした。
そして選んだのが蕎麦打ち。学生時代から麺類が好きで、趣味で蕎麦を打っていた経験を生かし、店の奥に小さな蕎麦処「手打ち蕎麦 のうぼ」を構えました。
店名の“のうぼ”は上越地方の方言で“のんびり・ゆったり”を意味します。その言葉どおり、店の空気は穏やかで、直行さんの人柄がにじみ出ています。
そば粉は地元・上越産を中心に仕入れ、石臼で自ら挽くこだわり。冷たい水でしめた手打ちそばは、香り高く、のどごしが抜群です。常連客の中には、「このそばを食べると、どこか懐かしい気持ちになる」と通う人も。
また、出汁には佐渡の昆布と上越産のかつお節を使い、旨味を重ねています。素材を生かす丁寧な味わいが評判を呼び、口コミで少しずつ広がっているそうです。
開店当初は「お客さんが来るだろうか」と不安もあった直行さん。しかし、美智子さんの喫茶店で知り合った人が昼に蕎麦を食べに訪れたり、逆に蕎麦を食べに来たお客さんが食後のコーヒーを飲みに行ったり――そんな“夫婦の店めぐり”が自然に生まれ、今では町の小さな人気スポットに。
城下町に吹く新しい風 地域が支える「夫婦の店」
上越市高田の城下町は、雪国特有の雁木が連なる風情ある街並みで知られます。けれども近年、空き町家が増え、シャッターが閉まる通りも少なくありません。そんな中、西脇さん夫妻の店は「再生の象徴」として地域の人々に歓迎されました。
店ができたことで、通りを歩く人が増え、商店街にも活気が戻り始めています。さらに、近隣の住民が「店の前を掃除してくれる」「花を飾る」など、小さな協力の輪も広がっています。まちづくり団体も、「こうした個人発の挑戦が地域を変える原動力になる」と注目しています。
夫婦の店は、観光ガイドやSNSでも話題となり、上越を訪れる旅人が「町家の風情を楽しみながら、喫茶と蕎麦をはしごする」という新しい過ごし方を生み出しました。地域社会学の観点から見ると、こうした“暮らしと観光の融合”こそが、持続可能な地域活性の鍵なのです。
夫婦でつくる「別々だけど一緒」の時間
夫婦がそれぞれの店を持つことで、日々の生活に新しいリズムが生まれました。朝は二人で店の前を掃き、昼にはそれぞれの持ち場でお客さんを迎え、夜にはその日の出来事を語り合う。
「別々に働いていても、同じ家に灯がともっている。それがうれしい」と、美智子さんは言います。
直行さんも「忙しくても、彼女の笑顔を見ると力が出る」と笑います。お互いを思いやりながら、それぞれの“夢の空間”を育てていく姿は、まさに“別々だけど一緒”という理想のかたち。
店内には、二人の人生が重なり合う温度があります。カフェの奥から漂うコーヒーの香り、蕎麦を茹でる湯気の音。二つの空気がひとつの町家の中で交わるたびに、夫婦の歩んできた年月が優しく響くのです。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
・カフェ マリキータで夢を叶えた西脇美智子さんの挑戦と、その温もりある空間
・手打ち蕎麦 のうぼを開いた西脇直行さんの第二の人生と、職人のようなこだわり
・夫婦の店が上越市の町家文化を再生させ、地域に新しい活気をもたらしていること
この物語は、“年齢を超えて夢を叶える勇気”と“地域と共に生きる喜び”を教えてくれます。
人生の後半だからこそ、自分のペースで、自分らしく生きる。それが地域の灯をともす力になるのです。
上越の城下町に吹いたこの小さな風は、これからも多くの人の心を温めていくでしょう。
ソース:テレビ朝日『人生の楽園 城下町 妻の喫茶店と夫の蕎麦屋〜新潟・上越市』(2025年10月11日放送予定)
https://www.tv-asahi.co.jp/rakuen/
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