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【NNNドキュメント’26】クマが人里に降りる理由と秋田県クマ対策が語る境界線崩壊と緊急銃猟制度|2026年2月2日

NNNドキュメント

境界線が消えた夜、クマと人はどこへ向かうのか

このページではNNNドキュメント’26 クマージェンシー2 〜ヒトとクマ 境界線崩壊〜(2026年2月2日)の内容を分かりやすくまとめています。
山と街を隔てていたはずの境界が揺らぎ、全国でクマの姿が日常の風景に入り込むようになりました。突然あらわれる影、残された足跡、傷つく人々。その裏には、知られざる理由と積み重なった“成功体験”がありました。
境界線を越えてしまったクマたちと、人の生活を守ろうとする現場の奮闘を追いながら、私たちの暮らしと自然との距離を改めて問いかける導入です。

クマージェンシー2が描く「境界線崩壊」という異常事態

番組のタイトルにもなっているクマージェンシー2は、「クマ(熊)」と「エマージェンシー(緊急事態)」を重ねた造語です。2025年、日本各地でクマの目撃と被害が連日のように報じられ、これまで「山の生き物」と考えられてきたクマが、住宅街や学校の近く、公園や道路にまで姿を見せるようになりました。まさに、人とクマのあいだにあったはずの境界線が崩れた1年でした。

番組は、まず京都の清水寺で「今年の漢字」が“熊”と発表されたニュースから始まります。本来は「金」や「災」など社会を象徴する一文字が選ばれる企画ですが、あえて“熊”が選ばれたのは、クマ問題が一過性のニュースではなく、ニッポン全体の暮らし方・生態系・地域社会を揺るがすテーマになっているからです。

環境省のまとめでは、クマによる人身被害は全国で過去最多の水準に達し、2023年には200人を大きく超える被害者が出ました。番組テロップでも触れていたように、被害者数は236人という過去最悪の数字に達し、死亡例も各地で報告されています。背景には、山のエサとなるブナの実やドングリの凶作、温暖化や里山の手入れ不足、そして人里に近い場所へ出ても“うまく逃げおおせた”というクマ側の成功体験の積み重ねがあるとされています。

番組全体を通して描かれるのは、「クマが悪い」「人間が悪い」と単純に言い切れない現実です。農地を放棄したことで生まれた藪が、クマの隠れ場所になっている地域もあれば、冬眠に入れないほど痩せたクマが人里にエサを求めて降りてくるケースもあります。人とクマの境界線を誰が、どこに、どう引き直していくのか――その問いが、作品全体の太いテーマになっています。

秋田県のツキノワグマ最前線と専門職員・近藤の闘い

クマ被害が全国でも突出して多いのが秋田県です。県内の多くの地域には本州のクマであるツキノワグマが生息し、2020年以降は目撃件数も人身被害も急増しました。こうした事態を受けて秋田県は、全国に先駆けて「ツキノワグマ被害対策支援センター」を県庁内に設置し、クマの専門知識を持つ職員を採用しました。その一人が、番組にも登場する近藤麻実さんです。

近藤さんは、もともとヒグマ研究の第一線で20年以上活動してきた研究者で、2020年に秋田県生活環境部自然保護課に着任しました。大学時代に「野生動物と人がどう折り合いをつけていくか」を学ぶワイルドライフ・マネジメントに出会い、「これは自分の天職だ」と感じたと語っています。現場では、住宅地にクマが出たという通報を受けると、すぐに出動し、足跡やフン、毛などを採取してDNA解析に回し、どの個体がどのルートで出没したのかを徹底的に追跡しています。

番組の中でも、秋田県大館市や東成瀬村の山沿いの集落で、クマが番犬や家畜の鳥を襲った現場を近藤さんが検証する姿が描かれました。放棄された畑や、草刈りが行き届かなくなった里山は、クマにとって身を隠しながら人里に近づける「緩衝地帯」になっています。大館市の住民が「畑を放棄したら、そこはすぐに動物の生息地になってしまう」と危機感を語っていたように、地域の暮らし方そのものがクマとの距離を左右しているのです。

近藤さんが強調していたのは、「クマに成功体験を与えないこと」です。一度でも「人里に降りたら簡単にエサが手に入った」「山よりも楽に食べ物が見つかった」と学んだクマは、その行動を繰り返します。秋田県が導入した緊急銃猟制度は、市街地や住宅街であっても、人的被害の危険が高い場合には迅速に発砲できるようにした仕組みで、現場の判断で早めに危険な個体を排除することを狙っています。

ただし、近藤さんの仕事は「撃つか撃たないか」を決めるだけではありません。住民に向けた講習会でクマの生態を説明し、クマが嫌う電気柵の張り方や生ゴミの管理、柿の木の処理など、地域ぐるみの対策を丁寧に伝えることも重要な役割です。「クマをよく知ることが、一番の防御になる」というメッセージが、秋田県庁の特集ページにも繰り返し書かれています。

北海道猟友会ハンター池上と“違法駆除”裁判が突きつけたもの

一方、ヒグマの本場である北海道では、クマとの闘いがさらに過酷です。推定1万2000頭ともいわれるヒグマが道内各地に生息し、札幌市や旭川市といった大都市圏の近くでも出没が相次いでいます。2025年にはクマの目撃件数が5000件を超え、福島町や苫前町などでは住宅の庭先で人が襲われ死亡する事故まで起きました。

番組で大きく取り上げられたのが、北海道猟友会 砂川支部の支部長・池上治男さんです。池上さんは、自治体の依頼を受けて2018年に住宅地近くでヒグマをライフル銃で駆除したにもかかわらず、「市街地での発砲は危険だった」として公安委員会から猟銃の所持許可を取り消されました。これに対して池上さんは処分の取り消しを求めて提訴し、一審・二審で「処分は違法」と全面勝訴を勝ち取ります。それでも道公安委員会は判決を不服として争いを続け、最高裁での弁論が開かれる事態にまで発展しました。

番組は、この裁判を通して「現場で命がけでクマと向き合うハンター」と「発砲リスクを過度に恐れる行政」とのギャップを浮かび上がらせます。北海道では、ヒグマが人を襲ったあとも山に逃げ込んだままの事例が複数あり、捜索に当たるハンターは常に自分の命も危険にさらしながら行動しています。一方で、もし市街地で誤射が起きれば取り返しがつかないのも事実です。このジレンマのなかで、池上さんは「自分だってクマは大好きだ。でも、守らなければならない命が目の前にある」と語ります。

札幌市の円山動物園では、園外に野生のクマが繰り返し侵入し、そのたびに動物園や周辺の公園が閉鎖されました。2023年には公園に2頭の子グマが居座り、親を駆除されたとみられるその個体は町のなかをさまよい続け、最終的に市街地で緊急銃猟制度が適用されて射殺されました。クマを守るための動物園と、人の命を守るための駆除。その線引きが、かつてないほど難しくなっている現実が浮き彫りになります。

アイヌ儀礼とマタギ文化が語る「クマと生きてきた日本」

番組の中盤では、クマを単なる“害獣”としてではなく、長いあいだ共に生きてきた相手として見つめ直すパートが印象的でした。北海道の先住民族であるアイヌの伝統儀礼イオマンテは、クマの肉や毛皮、骨を「神からの贈り物」として受け取り、魂をカムイの世界へ送り返す儀式です。秋田県阿仁地域に伝わるケボカイも、仕留めたクマの霊をなだめ、山の神に感謝を捧げる魂送りの儀式として知られています。

岩手県釜石市の北に位置する大槌町は、古くからマタギの里として知られ、山の恵みを受けながらクマやシカと向き合ってきました。番組に登場した松橋時幸さんは、マタギの家系に生まれた16代目で、「令和の時代にふさわしいマタギ像」を模索しながら修行を続けています。大槌町では、有害駆除されたシカの肉を地域の資源として活用する「ジビエ」の取り組みが進んでおり、単なる駆除ではなく“命を余さずいただく”方向へ舵を切っています。

松橋さんは、クマ猟の解禁日にカメラを身につけて山に入り、その一部始終を撮影しました。雪深い山の中で、仲間とともにクマの足跡を追い、気配を読み、最後の一発に命を懸ける。その後には必ず、感謝を込めた儀礼が続きます。番組では、松橋さんが地元で開いたクマ鍋体験会の様子も紹介されました。有害駆除されたクマの多くが廃棄されてしまう現状の中で、「クマ肉の本当の美味しさを知ってほしい」「命をいただく重さを知ってほしい」という思いから企画された会です。

このパートが伝えていたのは、クマと人の関係を「被害」「駆除」だけで語ってしまうと、多くの歴史や知恵が見えなくなるということです。クマを敬いながらも恐れ、必要なときには命を奪い、その代わりに山と向き合い続ける――。そうした営みが途切れたときにこそ、境界線の崩壊が加速したのではないか、という問いが静かに投げかけられていました。

旭山動物園とベア・マウンテンが示す「共存」の現場

番組の終盤では、クマとの新しい付き合い方を模索する施設として、北海道旭川市の旭山動物園と、十勝・新得町のサホロリゾート内にあるベア・マウンテンが紹介されました。旭山動物園は、日本でも屈指の人気動物園で、動物本来の行動を引き出す「行動展示」で知られています。ここには、かつて池上さんが山で保護した子グマが預けられており、池上さんは定期的に様子を見に訪れています。元園長の坂東元さんは、「駆除対象であるクマでも、北海道を象徴する大事な生き物。その素晴らしさを伝えるためにも受け入れた」と語っています。

一方、北海道上川郡新得町の狩勝高原に位置するベア・マウンテンは、日本初の“ヒグマのサファリパーク”として2005年にオープンしました。ガラス1枚を隔ててヒグマを間近に観察できる「ベアポイント」や、金網付きの専用バスで園内を巡るツアーが人気で、自然に近い環境で暮らすヒグマの姿を安全に見ることができます。また、日本で数少ない「冬眠施設」を備えたクマ施設としても知られ、冬季には「ヒグマの冬ごもり観察ツアー」が行われています。

こうした施設は、一見すると観光地ですが、その役割は単なる“見世物”にとどまりません。来園者は、クマの体の大きさや動きの素早さ、爪の鋭さを目の当たりにし、「もしこんな生き物が住宅街に現れたら……」という現実をリアルに想像できます。同時に、山で暮らすクマにとって人里のエサがどれほど魅力的か、そして一度その味を覚えてしまったクマを山に帰すのがいかに難しいかも学べます。

番組のラストは、「壊れてしまった境界線の、その先で――まもなくクマたちが目を覚ます」というナレーションで締めくくられていました。冬眠明けのシーズンを前に、私たち一人ひとりがクマのことを正しく知り、地域でできる対策を積み重ねていかなければ、クマージェンシーは終わらない。その現実を静かに、しかし強く突き付けるエンディングでした。

こちらの記事は『NNNドキュメント’26 クマージェンシー2 〜ヒトとクマ 境界線崩壊〜(2026年2月2日)』をもとに内容をまとめていますが、編集の都合上一部放送内容と異なる場合があります。

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