和裁に魅せられたスペイン人が日本で見た“奇跡の技”
このページでは『世界!ニッポン行きたい人応援団(2026年2月2日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
スペインから海を越えてやって来たアルバさんは、8年間追い続けてきた和裁の本場に初めてふれました。沖縄の大地が育む芭蕉布、播州職人が鍛える握り鋏、そして京都丹後の反物から生まれる一着の着物。それぞれの現場で出会う人の温かさと“手の技”に導かれながら、彼女の夢は確かな形へと結ばれていきます。
和裁に恋したスペイン人生物学者アルバさんの物語
番組の主人公は、スペイン・バルセロナ郊外で暮らす生物学者アルバさん。彼女は、環境問題を研究するかたわら、8年間も独学と教室で和裁に打ち込んできた情熱的な“着物ラバー”です。
きっかけは、日本映画『たそがれ清兵衛』。武士の日常を描く映像の中で揺れる着物の裾や、体に吸い付くように馴染むシルエットに衝撃を受け、「この構造を知りたい」と和裁の世界に飛び込みました。
バルセロナでは、日本文化イベントの会場でリサイクル着物を手に入れ、それをほどいては和裁で縫い直す…というサステナブルなスタイルを続けてきたアルバさん。環境問題を専門とする彼女にとって、布を無駄にせず長く活かす日本の仕立ては、まさに理想の循環型の文化として映っています。
そんな彼女を今回招いた番組世界!ニッポン行きたい人応援団は、世界中の“ニッポン行きたい人”を本当に日本に招待し、憧れの職人や土地とつなぐ人気バラエティ。ファッションブランドDiorも注目するほど精密な和裁技術を学びたいというアルバさんの願いを叶えるため、沖縄・兵庫・茨城という3つの聖地を巡る旅が始まります。
沖縄・うるま市で体感する幻の織物 芭蕉布こもれび工房
旅の最初の舞台は、沖縄本島中部のうるま市。アルバさんが訪ねたのは、糸づくりから織りまで一貫して行う芭蕉布こもれび工房です。工房は具志川の畑に糸芭蕉を育て、糸作り・染色・織り・バッグなどの製品づくりまで、すべて自分たちの手で担う“芭蕉布の総合工房”。見学やワークショップも行う、芭蕉布体験の拠点になっています。
芭蕉布は、バナナの仲間・糸芭蕉の繊維から作られる沖縄を代表する織物。糸芭蕉の栽培から糸取り、染色、織りに至るまで、すべて人の手による作業で進む、極めて稀有な工芸です。琉球王国時代には王族や士族の衣装として重宝され、日本や清への献上品にもなった歴史を持ちます。現在は沖縄県大宜味村喜如嘉の喜如嘉の芭蕉布が重要無形文化財に指定されており、1反を織るために約200本もの糸芭蕉が必要という、手間と時間の塊のような布です。
番組では、畑で育った糸芭蕉を実際に刈り取り、外皮を剥ぎ、白い茎を露出させる場面からスタート。着物に使えるのは繊維のごく一部のみで、1着の着物に必要な糸芭蕉は約200本という説明に、アルバさんも圧倒されます。
その後、収穫した茎を煮て柔らかくし、竹で作られた道具「エービ」を使って不純物をこそげ落とし、1mほどの白い繊維に整える工程を体験。さらに、0.1mmほどの細さの繊維を1本ずつ結んでつなぐ“糸づくりのクライマックス”にも挑戦します。約2万回以上の結び目を重ねることで、最終的には20kmもの糸が生まれるというスケールに、アルバさんは言葉を失います。
夜には、地元の人たちが開いてくれた歓迎会へ。フーチャンプルー、トビイカのイカ墨肝炒め、カリカリ食感が楽しいもずくの天ぷら、インパクト抜群の鶏の骨汁など、沖縄ならではの料理が食卓を埋め尽くします。海と大地の恵みが詰まった郷土料理にふれながら、アルバさんは“布も料理も自然と共にある文化”として沖縄を肌で感じていきます。
最後に、工房からは芭蕉布の糸や作品のプレゼント。アルバさんは、スペインへ帰ってからも沖縄の糸と向き合い続けることを固く心に誓います。
兵庫・小野市 寺﨑刃物の総火造り握り鋏に宿る職人魂
次の目的地は、播州刃物で知られる兵庫県小野市。ここでアルバさんを迎えたのが、伝統的な総火造りで握り鋏を作り続ける鍛冶職人・寺﨑研志さんが営む寺﨑刃物です。
握り鋏は、和裁や刺し子、和裁士の細かな縫い仕事に欠かせない小さな鋏。寺﨑さんの鋏は、日本刀と同じような鋼を刃先に用い、持ち手のコシ(バネ)を一つひとつ鍛造で作り出すのが特徴です。型を使わず、火に入れた鉄をハンマーで叩き延ばす「総火造り」の技法を継承する職人は、世界でも数人と言われています。
番組では、真っ赤に熱した鉄をリズミカルに叩いていく工程が映し出されます。何度も火に入れては叩き、少しずつ握りの形とバネの厚みを整えることで、「軽く握るだけでスッと布を切れる」理想のコシを生み出していきます。
その後、刃先の研磨や、180℃ほどの油での焼き入れ・焼き戻しによって金属内部の組織を安定させ、長く使っても切れ味が落ちにくい構造を完成させます。最終工程ではU字に曲げたバネ部分と刃の重なりを微調整し、根本がわずかに重なる“理想の噛み合わせ”を追い込みます。この最終調整がうまくいかないと、いままでの工程がすべて無駄になるという緊張感の中で、寺﨑さんの経験と感覚が光ります。
完成した握り鋏は、一般的な量産品より高価でありながら、常に入荷待ちが出るほどの人気。和裁士やテキスタイル作家からは「50年以上使っても切れ味が衰えない」と評価されており、まさに“生涯の相棒”として迎えられています。
アルバさんも、自分の和裁人生の節目としてこの握り鋏を授かります。大切に保管したいと話す彼女に対し、寺﨑さんは「鋏のためにも、たくさん糸を切ってあげてください」と言葉をかけます。この一言に、道具を“使い続けることで完成するもの”として捉える日本の職人哲学が凝縮されていました。
茨城・古河市 匠きもの学院で挑む反物からの着物づくり
旅のクライマックスは、茨城県古河市にある匠きもの学院。ここは、和裁・着付け・染色など着物に関する総合的なプロを育てる学校で、母体である「きものの匠」は百貨店や老舗呉服店の仕事を数多く請け負うプロ集団として知られています。
アルバさんを迎えた校長の佐藤孝子さんは、長年にわたり和裁教育に取り組み、古河の地で和裁専門学校や短期大学校を立ち上げた人物。全国和裁技能コンクールや技能五輪の入賞者を多数輩出し、自身も和裁界を牽引してきた存在です。
今回アルバさんが願っていたのは、「いつか反物から一着の着物を仕立ててみたい」という夢。その思いを聞いた佐藤校長は、遠くスペインからやって来た彼女のために、京都丹後産のちりめん反物を用意します。モチーフは、奈良・正倉院の宝物にも描かれてきた草花文様。しっとりとした縮緬の質感と上品な柄行きは、まさに“王道の日本のきもの”という一枚です。
まず取り組むのは、約13mある反物を8つのパーツに裁断する工程。和裁では、柄の出方を計算しながら裁断位置を決めていきます。前身頃・後ろ身頃・衿・おくみなど、どのパーツにどの柄を配置するかで、着たときの印象が劇的に変わるからです。ここがまさに、和裁士のセンスと経験が問われる場面。
続いて、反物の糸目に沿ってまっすぐ裁つ技が披露されます。生地は経糸と緯糸の織りで構成されており、和裁ではその“糸と糸のわずかな隙間”を狙ってハサミを入れていきます。わずか0.01mm単位の世界で線を追い続けることで、糸のほつれが起きにくい完璧な断面が生まれます。この神業のような裁断を目の当たりにし、アルバさんは「構造の美しさがここにある」と感動を隠せません。
縫いの指導を担当するのは、全国技能五輪銀賞に輝いた現役の和裁士。針を動かすのではなく、生地のほうを上下させてすくっていく独特の手の動きがポイントです。両手の親指で生地をピンと張りながら、一定のリズムで針先に布を送り込むようにすると、手縫いとは思えないほど均一な縫い目になります。
最初は縫い目が揃わなかったアルバさんも、アドバイスを受けながら少しずつ感覚をつかみ、2時間かけて背縫い部分を縫い上げます。その後は時間との戦い。帰国までの日数が限られる中、先生たちも一緒に手を動かし、すべてを手縫いで仕上げていきます。
一着の着物がつないだ日本とスペインの未来
ついに完成したのは、京都丹後ちりめんで仕立てた一着の着物。アルバさんが教室に姿を現すと、匠きもの学院の先生たちは口々に出来栄えを称賛します。裾さばきの美しさ、柄の出方、衿元のライン…そのどれもが、初めて反物から仕立てたとは思えない完成度でした。
旅の終わりに、アルバさんはこうした出会いを自分の国に持ち帰ります。沖縄で触れた芭蕉布のサステナブルなものづくり、播州で学んだ握り鋏の総火造り、古河で経験した和裁教育の現場。これらすべてが、彼女の“環境に寄り添う生き方”と響き合い、スペインでの研究やものづくりへとつながっていきます。
番組世界!ニッポン行きたい人応援団は今回も、単なる観光案内ではなく、「技術」「文化」「人の思い」が一本の糸のようにつながる物語を見せてくれました。生物学者として環境問題に取り組むアルバさんが、日本の和裁と芭蕉布、そして握り鋏の世界にふれたこの旅は、国境を越えて“布を大切にする心”を広げていく第一歩になったと断言できます。


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