穴や傷を消す「かけつぎ」を60年以上磨いてきた職人
『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!(お宝ザクザク!?開かずの金庫&神ワザ!かけつぎ職人に密着)(2026年8月21日)』で取り上げられるのが、江見屋かけつぎ専門店の創業者・松本孝夫さんです。高校卒業後から技術を磨き、頭に入れた生地の織り方は100種類以上。穴が開いた千鳥格子のパンツや、長年大切にしてきたコートまで直す「かけつぎ」は、服そのものだけでなく持ち主の思い出を残す仕事でもあります。
この記事でわかること
- 松本孝夫さんがかけつぎ職人になった経緯
- 100種類を超える織り方を身につけた修業
- 穴や傷を目立たなくするかけつぎの特徴
- 江見屋へ依頼するときの料金・納期・方法
松本孝夫は江見屋を創業したかけつぎ職人
松本孝夫さんは、1962年に名古屋で江見屋かけつぎ専門店を創業したかけつぎ職人です。
もともと神戸のかけつぎ店に生まれ、高校卒業後に名古屋で修業。その後、独立して専門店を立ち上げました。店名の「江見屋」は、母方の姓「江見」にちなんで付けられています。
かけつぎ一筋で磨いてきた技術は高く評価され、2007年には名古屋市技能功労者、2011年には愛知県優秀技能者として表彰されました。2015年には「かけつぎ」の職人として長期密着を受けるなど、その仕事は広く知られるようになります。
現在の代表取締役は松本好孝さん。会社では会長と社長も職人として腕を振るい、12人の従業員と外注スタッフ5人が衣類修理を手がけています。創業者個人の技術から始まった店が、職人集団へ受け継がれている点も大きな特徴です。
高校卒業後から始まった職人としての修業
かけつぎは、破れた部分を縫い合わせるだけの修理ではありません。
松本さんが職人として身につけていったのは、元の生地そのものを再現する技術でした。
生地には縦糸と横糸があり、その組み合わせや順番によって模様や質感が作られています。同じようなスーツ生地に見えても、実際の織り方はそれぞれ異なります。
高校卒業後から続いた修業では、目で見ただけで生地の構造を判断し、元と同じ状態へ近づけていく力を磨いていきました。
この仕事では、単に手先が器用なだけでは足りません。
「どの糸がどこを通っているのか」「どの順番で織られているのか」を理解し、それを手作業で再現する必要があります。
長い修業によって培われた観察力と記憶、そして針を扱う技術が、後の高度な修復につながっています。
100種類を超える生地の織りを覚えた技術探究
職人人生を象徴するエピソードが、100種類を超える織り方を頭に入れたことです。
創業した1960年代は、綿や絹、ウールなどが中心でした。しかし、その後は化学繊維など新しい素材が次々に登場します。
松本さんは新しい生地に出会うたび、その生地をいったんほぐしました。
そして、1本1本の糸がどう組み合わされているのかを確認し、織り方を紙に描き写してから自分で再現する。この作業を、手が覚えるまで繰り返したといいます。
その積み重ねによって、覚えた織り方は100種類を超えました。
長年経験を積んだ後は、作業のたびに資料を確認しなくても、手が自然に動くほどになっています。
ここに、同じ「服の修理」でも一般的なお直しとは違う難しさがあります。
穴を塞ぐことだけがゴールではなく、生地の織り方まで元の状態へ近づける。そのためには、新しい素材が登場するたびに学び直す必要があったのです。
傷や穴を見えなくする「かけつぎ」の仕組み
「かけつぎ」は地域によって「かけはぎ」と呼ばれることもある、衣類の穴や傷を目立たなくする修復技術です。
特徴は、穴を単純に縫い閉じないことです。
修復する場所と同じ生地を使い、そこから糸を取り出して元の織り方を再現します。
共布が手元になくても、衣類の見えない場所などから使える生地を取れる場合があります。そのため「購入時についていた共布をなくしたから直せない」とは限りません。
作業後にどこまで目立たなくなるかは、生地の素材、柄、傷の場所、日焼けや色あせなどによって変わります。
特に生地自体が長年の使用で変色している場合、新しい部分との色差まで完全に消すことは難しくなります。
だからこそ、実物を見て傷の状態と生地を確認してから、加工方法と仕上がりを判断することが重要になります。
千鳥格子など難しい生地を直せる職人技
難易度が一気に高くなるのが、柄のある服です。
無地なら色と織りを合わせることが中心ですが、千鳥格子などの生地では、柄の位置まで合わせなければ修理部分が目立ってしまいます。
2026年8月21日に紹介される修復の1つも、穴が開いた千鳥格子のパンツです。ほかの業者でも難しい複雑な柄に対し、かけつぎ職人が修復へ挑みます。
江見屋には、海外ブランドの衣類や着物、他店で対応できなかったニットなどが持ち込まれることもあります。
依頼品は通常期でも1日に50~60着、衣替えの時期には1日100着を超えることがあり、年間では1万5000着以上にのぼります。
これだけの依頼が集まる背景には、「直す」だけでなく修理した場所をできるだけ分からなくすることを目指してきた専門技術があります。
思い出の服を捨てずに残せる修理の価値
かけつぎの料金は、一般的な縫製修理と比べると高くなる場合があります。
それでも依頼する人がいるのは、服の価値が購入価格だけでは決まらないからです。
家族から贈られた服、人生の節目に買ったスーツ、長年着続けてきたコートなど、同じものを買い直しても代わりにならない一着があります。
江見屋も、持ち主にとって大切な思いが詰まった服を、穴が開いたという理由だけで諦めてほしくないという考えを掲げています。
紹介される修復にも、息子との思い出が詰まった25年前のコートが登場します。
このケースでは、単に古いコートを直すのではなく、「なぜこの服を残したいのか」という持ち主側の物語も重なります。
新品を買う方が安い場合でも、その一着でなければ意味がない。
かけつぎが長く残ってきた理由は、技術だけでなく、こうした服と人との関係まで修復できる仕事だからともいえます。
全国から年間1万着以上の依頼が集まる専門店
1962年に始まった専門店は、現在では名古屋本店と福岡店を構えています。
名古屋本店は名古屋市東区出来町にあり、市営バス「徳川園新出来」から徒歩圏内。福岡店は福岡市早良区室見にあり、地下鉄空港線・室見駅から徒歩2分ほどです。
遠方の場合は、店舗まで行かなくても配送で依頼できます。
そのため、地域の衣類修理店というより、全国から難しい修理が集まる専門店という位置づけになっています。
長い歴史の中で弟子も育ち、過去に修業した職人が各地でかけつぎの仕事を続けています。
外国製ブランドや扱いの難しい衣類まで持ち込まれることからも、「近所のお直し店で直せなかった服を最後に相談する場所」として利用されていることが分かります。
かけつぎを依頼する方法と料金・納期のポイント
依頼前に最も気になるのが、料金です。
加工料金は、生地の種類・傷の場所・傷の大きさによって決まります。
目安としては、次のようになっています。
- 0.5cm程度の虫食い:5,500円程度(税別)
- 1cm以下のタバコの焦げ穴:6,500~7,500円程度(税別)
- 3cm×2cm程度のポケット破れ:13,000円程度(税別・ポケット作り直し込み)
- 最低加工料金:5,500円(税込)~
- ニット・セーター類:4,400円(税込)~
ただし、同じ1cmの穴でも料金が同じになるとは限りません。
シルク、和服、礼服、縫い目に近い場所、裏地を外す必要がある場所などは、追加作業が発生することがあります。まず実物を見てもらって見積もりを取るのが基本です。
店頭へ持ち込む場合、見積もりだけの相談も可能で、来店予約は原則不要です。
遠方からは、注文フォームと衣類を店舗へ送って依頼できます。届いた後に本見積もりが提示され、料金を確認してから加工へ進む仕組みです。
納期は通常、店に品物が到着してから約1週間が1つの目安です。
ただし、5月・6月・11月・12月などの繁忙期や、手間のかかる織り込み、多数の虫穴などでは2~3週間以上かかることがあります。大切な服を結婚式や式典などで着る予定がある場合は、日にちに余裕を持って相談した方が安心です。
かけつぎは決して安い修理ではありません。
それでも、買い直せない一着や思い出の服を残せるなら、金額だけでは測れない価値があります。
松本さんが高校卒業後から積み重ねてきた技術は、100種類を超える織りの知識となり、現在は複数の職人へ受け継がれています。服の穴を消すことから始まり、その服をもう一度着られる時間まで取り戻す。そこに、60年以上続いてきたかけつぎ専門店ならではの仕事があります。


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