ララLIFEで椎名桔平が挑んだ、たった一杯のコーヒー
スタジオに呼び込まれた俳優の椎名桔平。
この日のテーマは、「コーヒーを一杯飲む」ことでした。
ただし、ただ飲むだけではありません。豆を選び、自分の手で焙煎し、挽いて、淹れて、味わう。
忙しすぎて休みがほとんどないという彼が、あえて時間のかかる手仕事に向き合う、その過程を追った回でした。
番組の冒頭で語られたのは、椎名さんとコーヒーの深い縁です。
実家は「洋酒喫茶 大鳳」という店で、昼はコーヒー、夜はお酒が出る憩いの場。
子どものころから身近にあったコーヒーは、家族の空気と重なる特別な存在だと話します。
この回のテーマであるコーヒー焙煎は、そんなルーツをたどり直す旅でもありました。
実家の洋酒喫茶とカフェバー時代 椎名桔平とコーヒーの原点
オープニングトークの中で、椎名さんは若い頃のアルバイト経験にも触れます。
学生時代、東京・表参道で一世を風靡したカフェバー「キーウエスト・クラブ」で働いていたこと。
当時のカフェバー文化のにぎわいの中で、カウンター越しにお客さんと会話しながらドリンクを出していたこと。
こうしたエピソードを聞くと、俳優としての“舞台”は、じつは喫茶店やバーのカウンターにもあったのだと感じます。
人の表情を間近で見て、声のトーンを聞き、空気を読む――そんな感覚は、俳優の仕事とも通じるからです。
今では撮影現場や舞台で多忙を極める椎名さん。
だからこそ、コーヒーの香りに包まれる時間は、少しだけ昔の自分に戻れる、ささやかな避難場所なのかもしれません。
世界チャンピオンバリスタ・粕谷哲とPHILOCOFFEAの物語
椎名さんに焙煎を教えてくれたのは、千葉・船橋を拠点に活動するバリスタ、粕谷哲さん。
二〇一六年に行われたハンドドリップの世界大会「ワールド・ブリュワーズ・カップ」で、アジア人として初めて世界チャンピオンになった人物です。
粕谷さんのコーヒー人生の起点は、思いがけない出来事でした。
二〇一三年、突然の体調不良から一型糖尿病と診断され、入院生活に。
「糖尿病でも飲めるものは何か」と検索したとき、たどり着いたのが「ブラックコーヒー」だったといいます。
病室で初めて自分で淹れた一杯は、決して完璧な味ではなかったはずです。
それでも、自分の手で豆を挽き、お湯を注ぎ、香りを感じる行為そのものが、病気と向き合う日々に小さな光をもたらしました。
その後、粕谷さんは世界大会で頂点に立ち、二〇一七年にスペシャルティコーヒー専門店「PHILOCOFFEA」を立ち上げます。
本社兼焙煎所「PHILOCOFFEA ROASTERY&LABORATORY」は船橋市海神町南にあり、ここから全国のファンへコーヒー豆が発送されています。
さらに、シャポー船橋や表参道、習志野、本町の「PHILOCOFFEA 201」など、複数の店舗を展開。
どの店も落ち着いた内装と、透明感のある味わいのコーヒーで知られ、船橋を“コーヒータウン”にしようという活動の中心的な存在になっています。
この日、椎名さんが焙煎に挑んだ場所も、焙煎所を兼ねた施設でした。
ララNOTE Step1 エルサルバドル産の豆と最新焙煎機「ローリング」
番組独自の「ララNOTE」は、日常を少し豊かにするための手順書のような存在です。
Step1 のテーマは、「相性ぴったりのコーヒー豆を選ぶこと」。
テーブルには三種類の生豆が並びました。
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エクアドル産の豆:青りんごのように爽やかで、軽やかな印象。
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エチオピア産の豆:さくらんぼを思わせる甘酸っぱさで、「ナチュラルプロセス」という精製方法により、果実感の強い香り。
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エルサルバドル産の豆:ナッツのように香ばしく、しっかりしたコク。
濃い味が好きだという椎名さんが選んだのは、エルサルバドル産の豆でした。
どっしりとした深煎りが似合いそうなこの豆は、本人の“役者としての骨太さ”にも重なるように見えます。
生豆が保管されているのは、温度と湿度が厳密に管理された倉庫。
スペシャルティグレードの豆は、ちょっとした環境の差で香りが変わってしまうため、ワインのセラーのような扱いが必要です。
プロの焙煎では、「ローリング」と呼ばれる熱風式焙煎機が活躍します。
数値で温度や時間を管理することで、一度レシピが決まれば、誰でも同じ品質で焼けるのが特徴。
この大型機の価格は、一二〇〇万〜一三〇〇万円ほどと言われ、まさに工場レベルの設備です。
粕谷さんはコンビニチェーンのファミリーマートのコーヒーも監修しており、「世界一おいしいコンビニコーヒー」を目指しているという話も紹介されました。
ララNOTE Step2 フライパンひとつで行う家庭焙煎のポイント
Step2 では、一気に“家で真似できる世界”に寄せていきます。
テーマは「焙煎はフライパンひとつで」。
使うのは直径一六センチほどの小さなフライパン。
コーヒー一〜二杯分に必要な豆はおよそ二五グラムで、焙煎する過程で水分などが抜け、約二〇%の重量が失われると説明されました。
火にかけたフライパンをゆっくりと回し続ける椎名さん。
舞台役者時代に通った下北沢の劇場「ザ・スズナリ」での思い出を語りながら、若い頃はなかなか良い役がもらえなかったと苦笑いを浮かべます。
焙煎という地味で根気のいる作業は、下積み時代の稽古にもどこか似ています。
豆の中の水分が膨張し、パチッとはじける音がした瞬間、粕谷さんが「これが一ハゼです」と解説。
一ハゼは浅煎りの合図、続いて二度目のパチパチとした音「二ハゼ」が始まると、深煎りの領域に入っていきます。
家庭でフライパン焙煎をするときのポイントは、大きく三つです。
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豆を入れすぎず、底に一層並ぶ程度に留めること。
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火加減は中火以下にし、常にフライパンを揺らしてムラを防ぐこと。
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ハゼの音に集中し、自分の好みのタイミングで火から下ろすこと。
番組では数字までは細かく指示されませんでしたが、一般的には一ハゼの少し手前から色づきが進み、二ハゼ直前〜直後あたりが、香ばしい深煎りの狙いどころと言われています。
煎りたて豆で淹れる至福の一杯 温度と分量の“世界一おいしい”レシピ
焼き上がった豆はしっかりと冷まし、ハンドミルで挽いていきます。
番組では、エルサルバドル産の「SL28」という品種を深煎りにした豆を、椎名さん自身がドリップしました。
深煎りコーヒーにおすすめのお湯の温度は、およそ八三度。
番組内でも、八三度前後の軟水を使うように紹介されました。
粉が二〇グラムに対してお湯は三〇〇ミリリットル。
最初に少量のお湯をそっと注ぎ、粉全体を湿らせてから三〇秒ほど蒸らすと、粉がふっくらと膨らみます。これが新鮮な豆の証拠です。
その後は数回に分けて、お湯を中心から「の」の字を描くように注いでいきます。
やがてサーバーの中に落ちていく琥珀色の液体は、焦がしたナッツのような香りと、柔らかな苦みをまとっていました。
一口飲んだ椎名さんは、静かに目を閉じ、しみじみと味わう表情を見せます。
派手なリアクションこそありませんが、「ああ、これはいい時間だな」と伝わってくるような顔でした。
ここで少しだけ、医学的な背景も添えられました。
コーヒーに多く含まれるポリフェノール「クロロゲン酸」は、糖の吸収をゆるやかにし、食後血糖の急激な上昇を抑える働きがあると報告されています。
もちろん、砂糖やシロップを大量に入れてしまえば別の飲み物になってしまいますが、「ブラックコーヒーを適量楽しむ」ことは、糖尿病の人にとっても、主治医と相談しながら取り入れられる選択肢のひとつだとされています。
糖尿病というハンデからコーヒーの世界に踏み出した粕谷さんが、そのことを静かに体現しているようにも感じられました。
エンディングで語られた映画『スペシャルズ』と、喫茶店に行きたくなる余韻
エンディングでは、椎名さんが出演する映画『スペシャルズ』の告知が行われました。
困難を抱えた人々と向き合う物語であり、まっすぐな優しさを描いた作品です。
一杯のコーヒーを通して見えてきた“人の時間”の大切さは、この映画のテーマにも通じています。
スタジオトークでは、三村マサカズが「喫茶店、行きたくなっちゃったね」とぽつり。
その一言に、画面のこちら側の気持ちもぴたりと重なります。
忙しい毎日の中で、わざわざ豆を選び、焙煎し、丁寧に淹れる――効率だけを考えれば“遠回り”な行為です。
それでも、香り立つ湯気を目で追いながら、手を止めて一口飲む時間には、確かに何かが宿っています。
この回のララLIFEは、その「何か」を思い出させてくれる、小さなドキュメンタリーでもありました。
最後に、番組では報道番組news23の告知も挟まれ、ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックのフィギュアスケートで活躍した選手たちの“本音”が紹介されると伝えられていました。
一杯のコーヒーと世界のスポーツシーン。
まったく違うようでいて、どちらも「限られた時間の中で、どれだけ自分を込められるか」という点では同じです。
そんな余韻を残しながら、今回のコーヒー焙煎回は幕を閉じました。
【マツコの知らない世界】喫茶店モーニングの魅力を一宮の愛知モーニングから岐阜の茶碗蒸し、高知のおにぎりまで紹介|2026年2月10日
自宅焙煎で出やすい失敗とその対処法
番組で描かれたフライパン焙煎の魅力に触れながら、ここでは筆者からの追加情報として、自宅焙煎で起きやすい失敗例と対処法を具体的に紹介します。家で挑戦するからこそ知っておきたいポイントを、分かりやすく整理します。
焦げる・煙が多い原因
もっとも多い失敗が、豆が焦げてしまうことです。原因の多くは火力が強すぎることです。家庭用コンロは火が一点に集中しやすく、豆の一部だけが急に高温になります。すると表面だけが先に黒くなり、煙が一気に増えます。煙が多いのは、水分が急激に抜け、豆の表面が焼き切れているサインです。フライパンは中火以下でじっくり温度を上げ、常に豆を動かすことが大切です。色がゆっくり変わる流れを見守ることが、焦げを防ぐ近道です。
味が薄い・香りが弱い原因
出来上がったのに味がぼんやりする場合は、焙煎が浅すぎる可能性があります。生豆の水分が十分に抜けず、香り成分が引き出されていない状態です。豆は加熱すると膨らみ、軽くはじける音が出ます。この変化が十分でないと、香りが立ちません。また、生豆の保存状態が悪いと風味は弱くなります。直射日光や湿気を避け、乾いた場所で保管することが基本です。色が均一に茶色へ変わるまで、慌てず時間をかけることが味を引き出すポイントです。
焙煎ムラが出る原因
豆の中に焦げたものと白っぽいものが混ざるのは、熱の当たり方が均一でないことが原因です。フライパンの中央と外側では温度差が出やすく、動かさないとムラになります。自宅焙煎では常にフライパンを揺らし、豆を転がし続けることが重要です。少量ずつ焙煎することで、全体に熱が行き渡りやすくなります。豆の動きが止まる時間をできるだけ作らないことが、きれいな焼き上がりにつながります。


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