カラス博士・塚原直樹さんが「鳴き声」で養鶏場を守る
2026年10月3日放送のNHK総合「所さん!事件ですよ TKGが海外で大人気!? ニッポンの卵が大進化」では、卵価格高騰の大きな要因となっている鳥インフルエンザと、養鶏場周辺に現れるカラスに注目します。
カラスを20年以上研究し、その鳴き声を利用した被害対策を実用化しているのが、株式会社CrowLab代表の塚原直樹さんです。塚原さんたちは、カラスが鳥インフルエンザの感染経路の一部を担っている可能性について研究すると同時に、警戒時の鳴き声を使ってカラスを移動させる「だまくらカラス」を養鶏場などへ導入しています。なお、カラスが感染経路になっていること自体は確定した結論ではなく、研究が続いている段階です。
この記事でわかること
- 塚原直樹さんが開発した「だまくらカラス」の仕組み
- カラスの鳴き声だけで追い払える理由
- 塚原さんがカラス研究へ進んだ経歴
- カラスと鳥インフルエンザの関係を調べている理由
「だまくらカラス」はカラス自身の警戒音を聞かせる撃退法
塚原直樹さんが代表を務めるCrowLabの代表的なサービスが、音声ライセンス「だまくらカラス」です。
使うのは爆発音や人間が作った電子音ではありません。
カラス自身が警戒するときなどに発する鳴き声をスピーカーから流します。
その音を聞いたカラスに「ここは危険な場所だ」と認識させ、
- 別の場所へ移動させる
- 餌を食べるのをやめさせる
- 建物や設備へのいたずらをやめさせる
- 畜産施設への侵入を減らす
といった行動変化を起こさせる仕組みです。
CrowLabによると、この技術は国立大学で20年以上続けてきたカラスの音声コミュニケーション研究を基礎にしています。
単純に「カラスが嫌う音」を鳴らす装置ではないところが大きな特徴です。
カラス同士が実際に使っているコミュニケーションを逆に利用し、カラス自身に危険だと判断させています。
最大のポイントは「カラスはいずれ慣れる」と最初から考えていること
カラス対策では、CDを吊るす、かかしを置く、大きな音を鳴らすといった方法がよく知られています。
問題は、非常に警戒心が強い一方で学習能力も高いカラスが、「これは危険ではない」と覚えてしまうことです。
CrowLabも、物理的に侵入を遮断する方法以外では、カラスはいずれ対策に慣れると説明しています。
そこで「だまくらカラス」では、1種類の鳴き声を延々と流し続けません。
20年以上にわたって集めてきた音声を組み合わせ、場所や季節、カラスの反応に合わせて音声パターンを変えます。慣れが見られれば、新しい音声へ交換します。
さらに重要なのが、流すタイミングです。
カラスにとって不自然な場面で警戒音が聞こえれば、やがて「偽物だ」と学習する可能性があります。そのためスピーカーの場所や音量、再生時間まで現場ごとに調整します。
名前の通り、力ずくで追い払うのではなく、カラスを自然な形で「だます」ことが技術の中心なのです。
養鶏場ではカラスが約7割減った導入例もある
この技術は、市街地のフン害や果樹園だけでなく、畜産現場でも使われています。
CrowLabが紹介している採卵養鶏場の事例では、愛鶏園の4か所の養鶏場の堆肥舎に導入され、カラスが慣れた様子もなく、約7割減ったという利用者の声が掲載されています。
畜産施設にカラスが集まる理由の一つは、餌を得られるからです。
飼料、堆肥、周辺にいる小動物など、カラスにとって利用できる食物が存在する場所では、繰り返し飛来する可能性があります。
そこで単に1羽ずつ追い払うのではなく、「この場所へ来ても安心して餌を取れない」と学習させ、行動そのものを変えることが重要になります。
CrowLabは2024年12月には全国養鶏経営者会議のセミナーで「鳥インフルエンザ対策のためのカラス対策」をテーマに講演しており、養鶏現場での利用が重要な研究分野になっています。
塚原直樹さんは「カラスの鳴き声」で博士号を取得した研究者
塚原直樹さんは1979年、群馬県生まれ。
宇都宮大学農学部を卒業し、同大学大学院農学研究科を経て、東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程を修了しました。
博士号の研究テーマもカラスです。
長年取り組んできた中心テーマは、カラスの音声コミュニケーションでした。
「カラスは鳴き声によって何を伝えているのか」
「特定の鳴き声を聞いたカラスはどう行動するのか」
といった研究を積み重ねてきました。
2008年に博士(農学)を取得し、その後も大学で研究を継続。2017年12月には株式会社CrowLabを設立しました。宇都宮大学から認定された大学発ベンチャーで、現在はカラス被害対策のコンサルティングやサービス開発を行っています。
研究から会社設立へ進んだ理由は「現場の被害を実際に減らすため」
カラスの行動を研究して知識を得るだけなら、大学内で研究を続ける道もあります。
しかし塚原さんは、その研究成果を実際の社会問題の解決へつなげる道へ進みました。
カラスによる被害は非常に幅広く、
- ゴミ集積所を荒らす
- 果樹を食べる
- 畜舎へ侵入する
- 建物や設備へ集まる
- 市街地で大量のフンを落とす
など、場所によって内容がまったく違います。
そのため「この商品を置けばどこでも解決」という方法ではなく、カラスがなぜその場所に来ているのかを調べ、行動に合わせて対策する必要があります。
塚原さんが研究してきた音声コミュニケーションは、そこで大きな武器になりました。
鳴き声を使ってカラスを移動させるという大学での研究成果が、実際の街や農場で使われる技術へ変わったのです。
カラスは鳥インフルエンザの感染経路になっているのか
今回の「所さん!事件ですよ」で特に気になるのが、鳥インフルエンザとカラスの関係です。
ここで大切なのは、「鳥インフルエンザはカラスが養鶏場へ運んでいる」と確定しているわけではないことです。
総合研究大学院大学の統合進化科学研究センターでは、2023年度に「食性から鳥インフルエンザの感染経路におけるカラスの役割を明らかにする」という研究が実施されました。
研究代表者は五條堀淳さんで、塚原さんも共同研究者として参加しています。
研究が注目したのは、鳥インフルエンザに感染した野鳥をカラスが食べ、その後カラスが養鶏場周辺へ移動することで、感染経路の一つになる可能性です。
しかし、報告書でも感染経路そのものはまだ不明とされています。
つまり現在は、
「渡り鳥が日本へウイルスを持ち込む」
というところから、
「その後、どのような経路で鶏舎のニワトリまで到達するのか」
を詳しく解明しようとしている段階です。
カラスのフンから「何を食べたか」をDNAで調べる
塚原さんたちの研究方法も興味深いものです。
カラスのフンを採取し、含まれているDNAを調べることで、そのカラスが何を食べていたのかを追跡しようとしています。
研究では、あらかじめ豚肉、柿、リンゴ、ミカンなどを食べさせたカラスのフンを調査しました。
その結果、豚肉を食べたカラスのフンからは、豚肉由来とみられるDNA断片の増幅が確認されました。
この技術をさらに発展させれば、野外のカラスがどんな動物を食べ、どのように移動しているのかを追う手掛かりになります。
例えば鳥インフルエンザに感染した野鳥をカラスが利用している実態が分かれば、養鶏場の防疫対策も変わる可能性があります。
「渡り鳥だけを見る」のではなく、その死骸や餌場を利用する周辺の野生動物まで含めて感染経路を考える必要が出てくるからです。
家庭でカラスを追い払うなら「怖がらせ続ければいい」わけではない
塚原さんの研究から分かるのは、家庭のカラス対策でも「何か怖そうなものを置けば終わり」ではないということです。
特に同じ仕掛けを長期間置き続けると、カラスが安全だと学習する可能性があります。
またCrowLabでは、実際にサービスで使用している警戒音などを誤った方法で繰り返し再生すると、音そのものへの慣れを進める恐れがあるとして、被害現場で無断利用しないよう注意を呼びかけています。
ゴミ集積所の場合は、まずカラスがゴミへ到達できない状態を作ることが基本です。
ネットを正しく掛けるなど物理的な対策と、餌になるものを利用させない環境づくりを組み合わせることが重要になります。
まとめ
塚原直樹さんは、カラスの鳴き声を20年以上研究し、その成果を実社会の被害対策へつなげてきた研究者です。
代表を務めるCrowLabの「だまくらカラス」は、爆発音などで驚かせるのではなく、カラス自身の警戒時の鳴き声を使い、「この場所は危険だ」と判断させて移動を促します。
しかもカラスはいずれ音に慣れることを前提に、音声パターンを交換しながら対策するというのが大きな特徴です。
さらに塚原さんは、鳥インフルエンザの感染経路にカラスがどのような役割を持つのかという研究にも参加しています。
現時点でカラスが養鶏場への感染源だと断定できる段階ではありません。しかし、野鳥からニワトリへウイルスが到達するまでの「途中の経路」を解明することは、鳥インフルエンザによる大量殺処分や卵不足を防ぐうえでも重要なテーマです。
「所さん!事件ですよ」で描かれる卵価格高騰の背景には、卵を産む鶏だけでなく、養鶏場の外を飛び回るカラスの生態まで研究する人たちの取り組みがあります。
参考リンク
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