ドライアイスを雲にまいて集中豪雨を「弱めて分散する」研究
2026年10月7日放送の『ホンマでっか!?TV』では、大雨による被害を減らすための最新研究として、ドライアイスなどを雲へ投入する「クラウドシーディング」が取り上げられます。
豪雨災害評論家として出演する東北大学大学院工学研究科の平賀優介助教らは、2014年8月の広島豪雨をスーパーコンピューター上に再現。発達する積乱雲へ大量の「雲の種」を投入する数値実験を行い、条件によって集中豪雨域の3時間雨量を平均11.5%、最大32%減少させる結果を示しました。現段階では実際の線状降水帯へドライアイスを散布して豪雨を止めた技術ではなく、数値シミュレーションによる研究成果です。
この記事でわかること
- 平賀優介助教らが研究するクラウドシーディングの仕組み
- 豪雨が最大32%減少した数値実験の条件
- ドライアイスを大量にまくと雨が弱まる理由
- 実用化へ向けて残されている課題
平賀優介助教らの数値実験では3時間雨量が最大32%減少

出典:東北大学「線状降水帯による集中豪雨を人為的に分散」研究画像
研究の中心となったのは、東北大学大学院工学研究科土木工学専攻の平賀優介助教です。
平賀助教らの研究グループは、2014年8月に広島県で発生した豪雨を気象モデル「WRF」で再現し、発達中の積乱雲に大量の氷晶核を与えた場合、雨の降り方がどう変化するかを調べました。
特に大きな変化が確認されたのは、高度約7.2~8.6km。気温がおよそマイナス22~マイナス12℃となる雲の中層から上層へ介入したケースでした。
最も大きな効果を示した条件は、高度7.2km付近の24km×24kmという広い範囲へシーディングを行ったケースです。
この条件では、もともと豪雨となっていた地域の3時間積算雨量が平均で16.3mm、割合にして11.5%減少。地点別では最大45.4mm、32%の減少が確認されました。
重要なのは、「雨そのものを消した」のではないことです。
雨が集中していた地域では降水量が減少する一方、風下側では雨が増えました。1か所へ集中していた大量の雨を、より広い範囲へ分散させる方向に変化したのです。
ドライアイスを大量にまく「オーバーシーディング」とは
クラウドシーディング自体は、新しく生まれた考え方ではありません。
雲の中へ人工的に粒子を投入し、雨や雪の生成過程へ働きかける技術で、これまでは水不足地域などで降水を増やす目的の研究や実施が中心でした。
今回の研究は、その考え方を逆方向に利用しています。
雲へ非常に大量の氷のもとを与える「オーバーシーディング」です。
積乱雲の内部には、水滴や氷の粒になるための水分があります。
ここへ大量の氷晶核を加えると、非常に多くの小さな氷粒が同時に作られます。限られた水分を大量の粒が取り合うため、それぞれの粒が大きな雨粒へ成長しにくくなります。
小さいまま残った粒はすぐには地上へ落下せず、上空の風によって風下へ運ばれます。
その結果、同じ場所へ一気に落ちていた雨を時間的・空間的に分散し、局地的な豪雨を弱めるのがオーバーシーディングの基本的な仕組みです。
なぜ「ドライアイス」が雲の種になるのか
シーディングに使える物質のひとつがドライアイスです。
研究論文では、ドライアイス1gから約10兆個に相当する氷晶が生成され得るという既往研究をもとに必要量を試算しています。
ドライアイスは非常に低温のため、雲の中へ投入すると周囲の過冷却された水滴を急速に凍らせ、多数の細かな氷粒を作る働きがあります。
その氷粒を意図的に増やしすぎることで、巨大な雨粒へ成長する前に水分を細かく分散させようという発想です。
単純に「ドライアイスで雨雲を消す」というものではありません。
雲そのものをなくすのではなく、雲内部の水や氷の成長過程へ介入し、強い雨が1か所へ集中する状態を変えることが狙いです。
実用化には数千kg規模のドライアイスが必要になる試算も
実際に豪雨へ使用する場合、どれほどのドライアイスが必要になるのでしょうか。
平賀助教らは、最も効果の大きかった24km×24km、高度7.2kmの条件をもとに概算しています。
1回の介入で必要となるドライアイスは約18kg。
仮に1分ごとに3時間連続して投入すると、
- 1回:約18kg
- 3時間で180回
- 合計:約3240kg
という規模になります。
もちろん、これは実際の散布計画ではありません。
論文でも、ドライアイスを保管する設備、航空機への積載、豪雨を発生させる積乱雲への接近、上空で正確に散布する方法などを含め、現実の運用可能性を今後検討する必要があるとしています。
数千kgものドライアイスを猛烈に発達する積乱雲へ安全かつ狙った位置に投入するには、気象学だけでなく航空機や散布装置の技術も必要になります。
風下の雨を増やす問題も解決しなければならない
もう1つ重要なのが、雨を完全に消滅させる技術ではないという点です。
今回の数値実験では、豪雨域で雨が減る一方、その雨の一部が風下側へ移動しました。
24km×24kmの範囲にシーディングしたケースでは、広い解析領域の一部で風下側の雨量が増える結果も出ています。研究グループは、豪雨域の危険な降雨を抑える効果と、風下で降水量が増える影響のバランスが、実用化における重要な検討課題だとしています。
どこかの雨を減らした結果、別の地域で災害を起こしてしまっては意味がありません。
そのため実際に利用するには、雨雲の進路や風向き、地形、下流域の災害リスクまで含め、高精度に予測する仕組みが不可欠になります。
平賀優介助教は「豪雨そのもの」を研究する土木工学の研究者
平賀優介助教は、東北大学大学院工学研究科土木工学専攻に所属しています。
研究キーワードには「想定最大規模降雨」「気候変動」を掲げ、豪雨を数値モデルで再現し、気候変動によって極端な降雨がどのように変化するかなどを研究してきました。
今回のクラウドシーディング研究も、単純に雨を降らせる実験ではありません。
これまで「予測して避難する」「ダムや堤防で受け止める」という方法が中心だった豪雨災害に対し、雨が降る過程そのものへ人間が介入するという新しい方向の研究です。
2026年3月11日には、研究成果が国際学術誌『Natural Hazards and Earth System Sciences』に掲載されました。
日本では2050年を見据えた「豪雨制御」の研究が進んでいる
クラウドシーディングの研究は、単独で進められているものではありません。
日本では内閣府のムーンショット型研究開発制度「目標8」のもと、2050年までに台風や豪雨を制御し、極端風水害による被害を減らすことを目指す研究が進められています。
その中の「豪雨と共に生きる気象制御」プロジェクトでは、シーディングによって降水の集中を抑える技術の開発が進行しています。
研究課題では、ドライアイスを使うための制御用デバイスを開発し、将来的な豪雨抑制効果の実証につなげる計画も示されています。
2026年9月にも、ドライアイスの昇華や落下を考慮した「動的Pinpoint Seeding」の数値実験など、新たな研究成果が発表されています。
まとめ
東北大学の平賀優介助教らが進めているクラウドシーディング研究では、線状降水帯を再現した数値実験で、豪雨域の3時間雨量を平均11.5%、地点によって最大32%減少させる結果が得られました。
仕組みは、ドライアイスなどによって大量の小さな氷粒を作り、雨粒の成長を抑え、集中していた雨を風下へ分散させる「オーバーシーディング」です。
一方で、この成果はまだ数値実験の段階です。大量のドライアイスを安全に散布する技術や、風下で増える雨の影響、気象予測との連携など、実用化までには検証すべき課題が残されています。
雨を受け止めるだけではなく、集中豪雨になる前に雨の降り方そのものを変える。豪雨対策が大きく変わる可能性を持った研究です。
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