伊藤親臣さんが「厄介な雪」を食と農業を支える資源へ変えてきた
2026年10月9日放送のテレビ東京「ガイアの夜明け」に登場する伊藤親臣(いとう・よしおみ)さんは、天然の雪を冷熱エネルギーとして利用する「利雪」の専門家です。雪室を使った食品貯蔵や施設の設計・監修に長年携わり、新潟の食品ブランド「越後雪室屋」の取り組みにも深く関わってきました。10月9日の放送では、さらに高齢化が進む地域の米農家を支える新たな取り組みが描かれます。
雪国では毎年大量に降り、除雪の負担にもなる雪。その雪を夏まで保存し、電気に頼りすぎず食品を冷やし、食材の品質向上や商品開発につなげてきたのが伊藤さんです。出発点は食品業界ではなく、大学で取り組んだ「雪冷房」の研究でした。
この記事でわかること
- 伊藤親臣さんの経歴と雪研究を始めたきっかけ
- 雪室が食品を保存・熟成できる仕組み
- 越後雪室屋が生まれた背景と商品
- 米農家を支える取り組みにつながる利雪技術
伊藤親臣さんは雪をエネルギーとして使う工学博士

伊藤親臣さんは1971年、愛知県名古屋市生まれ。雪国出身の研究者ではありません。
静岡大学工業短期大学部機械工学科を卒業後、室蘭工業大学工学部へ編入。大学院では雪の冷たさを利用する「雪冷房システム」を研究し、2008年には室蘭工業大学大学院工学研究科博士後期課程を修了して工学博士となりました。
伊藤さんの経歴で大きな転機になったのが2000年です。
新潟県安塚町、現在の上越市にある「雪だるま財団」に研究員として入り、雪を実際の暮らしへ生かす研究に本格的に取り組み始めました。
当時は雪を冷熱エネルギーとして利用する考え方が現在ほど一般的ではありませんでした。伊藤さんは雪を安定した冷熱源として利用するための熱交換技術などを研究し、学校の冷房や農産物の貯蔵施設など、研究室の外で使える仕組みへつなげていきます。
雪室は天然雪で冷やす「電気とは違う冷蔵庫」
雪室は、冬に積もった雪を施設内に蓄え、その冷気を利用して食品などを低温で保存する仕組みです。
上越地域では昔から「雪穴」と呼ばれる天然の冷蔵庫が使われ、魚や食料の保存などに利用されていました。現代の雪室は、その知恵を施設として安定して使えるよう発展させたものです。
越後雪室屋では、雪室内部について、
- 温度:約0℃
- 湿度:90%以上
- 電気冷蔵庫のような振動が少ない
- 光や乾燥による影響を受けにくい
という環境を特徴として紹介しています。
一般的な電気冷蔵庫は、設定温度を保つため冷却装置が作動と停止を繰り返します。一方、雪に囲まれた雪室は天然の冷気によって低温状態が安定しやすく、高い湿度も保たれます。
ここが、単に「雪の中へ食品を入れておく」という昔ながらの保存方法とは違うポイントです。
米や野菜は甘み、肉は熟成という価値につながる
雪室が注目される理由は、電気を使わず冷やせることだけではありません。
食品によっては、雪室で保存することで味や品質に変化が生まれます。
越後雪室屋では、
- 米・野菜:低温環境によって甘みの向上が期待できる
- 肉:ドリップを抑えながら熟成
- 酒・コーヒー:味わいをまろやかにする
- 魚:低温・高湿度環境で品質を保つ
といった特徴を生かして商品化しています。
ただし、どんな食品でも雪室へ入れれば自動的においしくなるわけではありません。
越後雪室屋では食材ごとに、使用する雪室、貯蔵する期間、容器、熟成させるタイミングなどを変え、何度も試験したうえで商品化しています。
「雪室」という言葉だけがブランドになっているのではなく、食品に合わせて貯蔵条件を調整する技術が重要になります。
越後雪室屋は2012年に始まった雪室食品の統一ブランド
現在、雪室食品を全国へ発信している代表的な存在が「越後雪室屋」です。
運営する「にいがた雪室ブランド事業協同組合」は2012年1月6日に設立されました。雪国に伝わる雪室を活用し、新潟の食材に新たな価値を加えて販売することを目的としています。
加盟企業には、コーヒー、米、肉、日本茶、水産物など、異なる分野の食品会社が参加しています。
代表的な商品には、
- 雪室珈琲
- 氷温熟成こしひかり
- 雪室熟成肉
- 雪室貯蔵の魚
- 雪室そば
- 雪室熟成生醤油
- 雪室熟成野菜
- 雪室ジェラート
などがあります。
単なる新潟土産のブランドではなく、「大量に降る雪そのものを地域資源へ転換する」という考え方が土台にあります。
雪室珈琲は全国へ広がった代表商品

越後雪室屋を象徴する商品が「雪室珈琲」です。
新潟市の鈴木コーヒーが手掛け、コーヒー豆を雪室で低温熟成させています。雪室熟成によって雑味や苦みの角を抑え、まろやかな味わいに仕上げる商品です。
雪室珈琲は「観光庁 世界にも通用する究極のお土産品」にノミネートされ、新潟市土産品コンクールでは金賞も受賞しています。
「雪で冷やす」という技術だけでは消費者には伝わりにくいものを、「雪室で熟成させたコーヒー」という商品に変えたことで、雪そのものが新潟らしさを表現するブランドになりました。
雪室米は収穫後のおいしさを長く保つ

米どころ新潟と雪室の相性も非常に重要です。
越後雪室屋では、玄米のまま雪室で保存する「氷温熟成こしひかり」を展開しています。
約700トンの天然雪を使った冷気で貯蔵庫を室温5℃以下、湿度80%に保ち、その後、凍る直前となるマイナス2℃の氷温帯で一定期間熟成。旨みや甘み、モチモチとした食感を引き出す仕組みです。
公式ラインナップには、
- 氷温熟成 魚沼こしひかり 2kg:5,000円(税抜)
- 氷温熟成 新潟こしひかり
- 氷温熟成 新潟こしひかりセット 2kg×2:9,400円(税抜)
- 氷温熟成 こしひかり食べ比べセット:9,700円(税抜)
などがあります。
米は収穫した瞬間がゴールではありません。
収穫後の温度や湿度管理によって品質が変化するため、雪室は「新潟で作った米」をさらに差別化して販売する手段にもなっています。
「雪を捨てる」から「雪をためて使う」へ
伊藤さんが長く取り組んできたのは、雪室食品だけではありません。
上越市安塚区では、学校の冷房にも雪が利用されています。
安塚中学校では2003年度に雪冷房を導入。太陽光発電と組み合わせ、雪冷房に必要な循環ポンプなどの電力を太陽光でまかなう自然エネルギー循環型システムが整備されました。
伊藤さんは学校だけでなく、農産物を保存する雪冷蔵倉庫など、各地の雪冷熱施設の設計・監修にも携わってきました。
雪国では毎年、除雪や雪下ろしに大きな労力と費用が必要です。
しかし考え方を変えれば、冬に自然に降ってくる雪は、夏に利用できる巨大な冷熱資源でもあります。
伊藤さんはかつて、捨てられていたマグロのトロが後に価値ある食材になったことを例に、使い方を見つければ雪にも新たな価値が生まれると語っています。
SnowBiz設立で雪の利用をさらに事業へ
伊藤さんは雪だるま財団で研究を続けた後、株式会社SnowBizを設立し、代表取締役に就任しました。
これまでには、
- 小中学校の雪冷房
- 農産物の雪冷蔵施設
- 食品の雪室貯蔵
- 雪冷熱施設の設計・監修
- 雪室を使った商品開発
など、研究から実用化まで幅広く関わっています。
その功績が評価され、2022年には「第7回 佐野藤三郎記念 食の新潟国際賞」の地域未来賞を受賞しました。
受賞理由には、雪冷熱エネルギーの実用化と多用途利用を進め、雪室貯蔵による食品の商品開発によって新潟県の食品産業に貢献したことが挙げられています。
現在は雪室を米農家の未来にもつなげる
10月9日の「ガイアの夜明け」で新たに焦点が当たるのが、米農家です。
番組公式情報では、伊藤さんが現在、高齢化する地域の米農家を支える新しい取り組みを始めていることが明らかにされています。
農村では生産者の高齢化が進む一方、米を単純に生産して販売するだけでは地域農業を維持することが難しくなっています。
そこで雪室という地域固有の資源を生かし、保存や熟成、ブランド化などを組み合わせて農産物へ新たな価値を加える考え方が重要になります。
伊藤さんがこれまで進めてきた利雪技術は、「雪を使って冷やす」だけの技術から、「雪がある地域だからこそ作れる商品や産業」へと役割を広げてきました。
雪国にとって避けることのできない雪を、農業や食品産業を支える資源へ変えていく。その延長線上に、地域の米農家を支える現在の挑戦があります。
雪室の見学・相談もできる
雪室推進プロジェクトでは、雪室の導入や商品開発、教育利用などに関する相談を受け付けています。
また、上越市の雪中貯蔵施設「ユキノハコ」は見学対象として案内されており、視察では伊藤親臣さんによる現地・リモート対応のコーディネートも可能とされています。
- 雪室推進プロジェクト事務局:株式会社北信越地域資源研究所
- 所在地:新潟県上越市大和5-1-5
- 電話:025-520-8777
- 対応内容:雪室導入、商品開発、視察、教育利用など
- 見学施設:上越市雪中貯蔵施設「ユキノハコ」
まとめ
伊藤親臣さんは、愛知県名古屋市出身の工学博士で、大学時代に雪冷房の研究を始めたことから雪の世界へ入りました。
2000年に新潟県上越地域へ移り、雪だるま財団で雪冷房や農産物貯蔵施設の研究・実用化を進め、その後は株式会社SnowBizを設立。雪室を食品保存、熟成、商品開発へ利用する取り組みを広げてきました。
その代表例が「越後雪室屋」です。
米、コーヒー、肉、野菜、酒など、新潟の食材を天然雪の低温・高湿度環境で保存・熟成し、「雪が多い」という地域の条件そのものを商品の価値へ変えています。
そして現在は、雪室で培ってきた技術と地域資源を、高齢化が進む米農家の未来へつなげようとしています。
雪を「克服するもの」から「使うもの」へ変える——伊藤さんが25年以上続けてきた研究は、雪国の食と農業を支える産業づくりへと広がっています。
参考リンク
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雪室珈琲 オリジナルブレンド
氷温熟成 魚沼こしひかり


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