宍道湖を守る運動に立ち上がった井原信夫と、現在シジミ漁を続ける孫・井原志樹
2026年10月10日放送のNHK「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」では、国の淡水化事業によって存続の危機に立たされた宍道湖のヤマトシジミと、湖を守ろうと立ち上がった漁師や市民たちの歴史が描かれます。
その時代に宍道湖のシジミを守るため行動した漁師の1人が、当時の宍道湖蜆組合会長・井原信夫さんです。さらに現在は孫の井原志樹さんが宍道湖でシジミ漁を続けています。祖父が守ろうとした湖で、孫が漁師として次の世代へつないでいる家族です。
この記事でわかること
- 井原信夫さんと宍道湖淡水化問題との関わり
- 『美味しんぼ』に井原信夫さんをモデルにした人物が登場した経緯
- 孫・井原志樹さんが現在も宍道湖でシジミ漁を続けていること
- 宍道湖シジミが世代を超えて守られてきた背景
井原信夫は宍道湖を守るため立ち上がったシジミ漁師の1人

井原信夫さんは、宍道湖蜆組合の会長を務めた人物です。
昭和30年代以降、宍道湖では国による中海干拓・淡水化事業が進められていました。淡水と海水が混じる汽水湖である宍道湖を淡水化すれば、汽水域に生息するヤマトシジミは繁殖できなくなります。
そんな中、故郷の湖とシジミを守ろうと立ち上がった漁師たちの中に井原信夫さんがいました。
テレビ朝日の「食彩の王国」でも、現在シジミ漁を営む井原志樹さんを紹介する中で、祖父・信夫さんについて「故郷の宝を守るため立ち上がった地元漁師の1人」と紹介しています。
淡水化反対運動はやがて漁業者だけではなく地域住民を巻き込む大きな運動となりました。
宍道湖のシジミ漁業者たちは、補償金を受け取って事業への協力を約束していた状況から方針を転換。蜆組合では1人100万円の補償金返還を決議し、1984年にはシジミ漁に関する約2億5千万円の小切手を持って農林水産大臣へ返還を申し出ています。
その後も銀座でのシジミ無料配布、1万人規模の集会、250隻による漁船パレードなどへ運動は広がりました。
『美味しんぼ』に登場した組合長のモデルが井原信夫だった
井原信夫さんには、もう1つ興味深いエピソードがあります。
人気漫画『美味しんぼ』に、井原信夫さんをモデルとした人物が登場しています。
小学館の『美味しんぼ』14巻には、「椀方試験・前編、後編」というシジミのすまし汁を扱ったエピソードが収録されています。1988年3月30日に発売された巻です。
作中では宍道湖のシジミが取り上げられ、湖の自然環境について語る漁業組合長が登場します。
山陰中央新報の取材に対して、宍道湖漁業協同組合は、この人物のモデルとなったのが実際に漫画の取材を受けた当時の宍道湖蜆組合会長・井原信夫さんだったことを明らかにしています。
つまり井原信夫さんは、宍道湖の漁業現場だけでなく、漫画を通じても全国へ宍道湖とシジミの存在を伝えた人物でした。
淡水化反対運動が大きく動いたのも1980年代です。
『美味しんぼ』14巻が発売された1988年は、まさに宍道湖淡水化の試行延期が決定された年でもあります。
井原信夫が守った湖で孫・井原志樹がシジミ漁を続ける
そして現在、井原家ではその仕事が次の世代へ受け継がれています。
井原信夫さんの孫にあたる井原志樹さんは、現在も宍道湖のシジミ漁師として活動しています。
宍道湖漁業協同組合が運営する「宍道湖しじみ公式」でも、現役漁師「しじみびと」の1人として井原志樹さんが掲載されています。
井原志樹さんの漁では、長い竿の先に「ジョレン」と呼ばれる漁具を付け、湖底からシジミを採ります。
テレビ朝日の取材では約8mの竿を使った漁が紹介され、漁を終えた後にはシジミを1つずつ選別する作業にも取り組んでいます。
祖父・信夫さんが淡水化から守ろうとした宍道湖で、その孫が実際にシジミを採って生活していることになります。
これは単に「家業を継いだ」というだけではありません。
もし宍道湖が淡水化されていれば、ヤマトシジミが現在と同じように漁獲される環境そのものが残らなかったからです。
井原志樹は宍道湖シジミの魅力を伝える活動にも参加
井原志樹さんはシジミを採るだけでなく、その食べ方や宍道湖の特徴を伝える活動にも関わっています。
宍道湖漁業協同組合の公式サイトでは、井原さん自身がシジミの砂抜き方法を紹介しています。
宍道湖は汽水湖のため、シジミを砂抜きするときには真水ではなく約1%の塩水を使用。1Lの水に塩10gを入れ、遮光して約6時間置く方法が紹介されています。
- 水1L
- 塩10g
- 塩分濃度約1%
- ザルとボウルを使用
- 光を遮る
- 約6時間砂抜き
祖父の世代が「宍道湖そのものを残す」ために動き、孫の世代は漁を続けながら「宍道湖シジミの価値を伝える」役割も担っています。
守る対象が、湖から資源、食文化へと広がっていることが分かります。
現在の宍道湖シジミ漁には資源を守る厳しいルールがある
宍道湖のシジミ漁は、自由に好きなだけ採れる漁ではありません。
現在も漁師たちは、将来もシジミ漁を続けられるよう自主的な資源管理を行っています。
宍道湖しじみ公式によると、現在の操業時間は午前中3時間が基本で、手掻き漁は4時間。水曜、土曜、日曜を休漁日とするルールも設けられています。
ジョレンの網目も11mm以上とされ、小さなシジミを取り過ぎない仕組みがつくられてきました。
淡水化を止めて湖を残したから終わりではありません。
残ったシジミ資源をどう次世代へ渡すのか。
井原信夫さんたちの時代から続く「将来の宍道湖を考える」という姿勢は、現在の漁にもつながっています。
まとめ
井原信夫さんは、宍道湖蜆組合会長を務め、淡水化によって失われようとしていた宍道湖のシジミを守るため立ち上がった漁師の1人でした。
さらに『美味しんぼ』では、実際に取材を受けた井原信夫さんをモデルにした組合長が登場し、宍道湖のシジミと自然環境が全国へ紹介されました。
そして現在、孫の井原志樹さんが宍道湖でシジミ漁を続けています。
祖父が守った湖で孫がジョレンを握る。
2026年10月10日の「新プロジェクトX」で描かれる淡水化反対運動を知るうえで、井原家に受け継がれてきたシジミ漁の歴史も見逃せない物語です。
参考リンク
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コメント
新プロジェクトXをみました
あの組合長さんのモデルになった人のことを詳しく知れて良かったです
組合長さん以外にも多くの方々が活躍されたことは初めて知りました
ご本人が取材を受けてあの漫画が描かれたこともこの記事で知れて良かったです
黄色いシジミのすまし汁を一度は飲んでみたいです⤴
コメントありがとうございます!
番組をご覧になったうえで、記事もじっくり読んでいただけて、とてもうれしいです。
一つの物語の背景には、本当にたくさんの方々の努力や思いがあるんですよね。そうした部分も知っていただけたなら、記事を書いた甲斐がありました。
黄色いシジミのすまし汁、私も一度味わってみたいです!
これからも、テレビで紹介された人や物語をさらに深く知っていただけるような記事を書いていきたいと思います。
コメント、本当にありがとうございました!