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サイープは何者?自然に消える巨大地上絵の描き方・生分解性塗料・富士の3000㎡作品【24時間テレビで話題】

人物

自然に消える巨大地上絵で世界をつなぐサイープのアート

草原や砂浜いっぱいに描かれ、空から見ると初めて全体像が現れる巨大な人物や手。『24時間テレビ49(わたしの家族の話〜あなたは誰を想う?〜)(2026年8月30日)』では、世界各地で巨大地上絵を制作するSAYPE(サイープ)が石川県珠洲市で新たな作品に挑みます。自然に還る塗料、世界をつなぐ「Beyond Walls」、2023年の日本作品まで、その独特な表現の意味をたどります。

この記事でわかること

  • サイープが世界的地上絵アーティストになった歩み
  • 巨大作品を地面へ描く独自の制作方法
  • チョークと炭を使った生分解性塗料の特徴
  • 富士から珠洲へつながる日本での作品とメッセージ

サイープは自然の上に巨大作品を描く世界的アーティスト

World in progress | SAYPE

(出典:SAYPE公式サイト「World in progress II」)

SAYPE(サイープ)は、芝生、土、砂、雪などをキャンバスにして巨大な地上絵を描くアーティストです。

本名はGuillaume Legros(ギヨーム・ルグロ)。1989年にフランス・ベルフォールで生まれ、10代からグラフィティを始めました。「SAYPE」という名前は「Say Peace」をもとにしたもので、初期の活動から平和や社会へのメッセージを作品に込めてきました。

意外なのは、最初から専業アーティストだったわけではないことです。

看護師の資格を取得し、約7年間、医療の仕事と作品制作を並行していました。人の生や苦しみに近い場所で働いた経験も、その後の作品で「人間」「助け合い」「未来」といったテーマを扱う背景になっています。

やがてサイープは、ギャラリーの中だけでは届く人が限られると考え、より多くの人の目を引く巨大なランドアートへ向かいました。

現在ではパリ、ニューヨーク、ジュネーブ、イスタンブール、ケープタウン、ナイロビ、東京など世界各地で作品を制作しています。

巨大地上絵はスプレーと緻密な位置合わせで描かれる

SAYPE | Home

(出典:SAYPE公式サイト)

サイープの作品は、完成写真を見ると大きな紙に絵を描くように作られているようにも見えます。

ところが実際の制作現場では、地上に立っている本人には作品全体をほとんど見ることができません。

広い土地へ基準となるポイントを配置し、事前に作った構図を巨大なサイズへ拡大。塗料を噴射するスプレー機器を使いながら、少しずつ濃淡や輪郭を描いていきます。

過去の巨大作品では、地面に大量の目印を置き、写真から割り出した位置を頼りに制作してきました。上空から確認すると、地上では線や模様にしか見えなかった部分が、リアルな手や人物へと変わります。

つまりサイープは、完成した絵を見ながら描いているわけではありません。

数千㎡という巨大な空間を頭の中で組み立てながら、地上の小さな位置情報を頼りに巨大な1枚の絵を完成させるのです。

このスケール感こそ、作品を見る人が最初に驚かされるポイントです。

チョークと炭を中心にした生分解性塗料を使う

サイープの作品でもう1つ重要なのが、使用する塗料です。

巨大な絵を草原に描けば、「植物や土への影響は大丈夫なのか」と気になります。

そこでサイープが使っているのが、チョークや炭などを中心に作られた環境に配慮した塗料です。作品によっては100%生分解性の塗料として紹介されています。

一般的なペンキで芝生を覆い、そのまま残す方法ではありません。

雨や風、植物の成長、人が歩くことなどによって徐々に作品は薄くなり、最終的には姿を消していきます。

サイープにとって、この「消えること」は欠点ではありません。

むしろ自然の中へ巨大作品を置きながら、土地に永久的な痕跡を残さないことが作品の一部になっています。

数千㎡もの巨大作品なのに、最後には自然へ場所を返す。

大きさと儚さが同時に存在することが、サイープ作品の大きな特徴です。

Beyond Wallsは握り合う手で世界をつなぐプロジェクト

SAYPE | Beyonds Walls: Paris 2019

(出典:SAYPE公式サイト「Beyond Walls Paris 2019」)

サイープを代表する活動が「Beyond Walls」です。

2019年、パリのエッフェル塔近くで始まりました。

描かれるモチーフは、互いにつながる巨大な手と腕。

人種や国籍、文化、国境など、人を隔てるさまざまな「壁」を越え、手を取り合う姿を世界中につなげていくプロジェクトです。

第1弾となったパリ作品は約15000㎡。

その後、アンドラ、ジュネーブ、ベルリン、コートジボワール、トルコ、南アフリカ、ブラジルなどへと続きました。

場所ごとに別の作品を描いているようで、上空から見るとすべてが「巨大な人間の鎖」の一部という考え方です。

2024年にはエジプト・ギザのピラミッド周辺でも作品を制作。2026年には米国ミネアポリスが22番目のステップとして加わっています。

作品単体を見るだけでなく、

パリの手の先に別の国の手があり、その先に日本の手がある

と考えると、「Beyond Walls」という名前の意味がより分かりやすくなります。

2023年には富士を望む場所に3000㎡の地上絵を制作

SAYPE | Beyonds Walls : Japan 2023

(出典:SAYPE公式サイト「Beyond Walls Japan 2023」)

サイープは今回初めて日本へ来たアーティストではありません。

2023年には「Beyond Walls」の日本ツアーを行い、沖縄、長崎、富士、東京の4カ所で巨大地上絵を制作しました。

その中でも非常に象徴的なのが富士で制作した約3000㎡の作品です。

広い芝生に、互いの腕をつかむ巨大な手を描き、その先には富士山がそびえます。

サイープは富士山を、日本を象徴すると同時に長い時間そこに存在し続ける「永続性」を感じさせる場所として捉えました。

そこへ、時間とともに消えていく作品を置く。

変わらず存在しているように見える富士山と、わずかな期間で姿を消す巨大な手を並べることで、人間が地球で過ごす時間や、その中で何を残すのかを問いかけています。

日本ツアーにはさらに意味の異なる場所が選ばれました。

沖縄では平和祈念公園に3250㎡、長崎では1875㎡、東京では800㎡の作品を制作しています。

特に沖縄と長崎では、戦争の記憶が残る土地で「人が手をつなぐ」というモチーフを描きました。

単に有名な観光地を巡ったのではなく、その土地が持つ歴史と作品の意味を重ねて場所を選んでいることが分かります。

珠洲市で巨大地上絵を描く背景にはアートの街の再生がある

2026年にサイープが再び日本で作品を手掛ける舞台は、石川県珠洲市です。

珠洲は「奥能登国際芸術祭」が開かれてきた、現代アートと地域を結びつけてきた街です。

一方で、能登半島地震によって大きな被害を受けました。

今回の巨大地上絵には、もう一度アートの街・珠洲市へ多くの人に来てもらいたいという地域の思いが込められています。

制作には岩田剛典さん、イモトアヤコさんだけでなく、能登の人々や子どもたちも参加します。

地上絵が完成した後には、人々が作る人文字と巨大地上絵を組み合わせたパフォーマンスも計画されています。

ここでサイープの作品が選ばれたことには意味があります。

「Beyond Walls」で一貫して描いてきたのは、誰か1人が前へ進む姿ではなく、人と人が手を取り合う姿です。

被災後の珠洲で、外から来たアーティストだけが作品を残すのではなく、地域の人たちと一緒に作る。

その制作過程まで含めて、サイープが長く描いてきた「つながり」というテーマと重なっています。

時間とともに消えるからこそ作品の記憶が残る

通常、芸術作品はできるだけ長く保存することが大切だと考えられます。

美術館では温度や湿度を管理し、何百年先にも作品を残そうとします。

サイープの地上絵は、その考え方とは反対です。

最初から消えていくことを前提に作られています。

芝生が伸び、雨が降り、人が歩けば、やがて巨大な絵は見えなくなります。作品によって条件は異なりますが、過去の芝生作品では数週間から1か月程度で薄れていくものもありました。

しかし、消えれば作品がなくなるわけではありません。

巨大な作品を見た記憶や、その場所で人々が一緒に作った経験は残ります。

サイープ自身の活動には、自然へ永久的な痕跡を残すのではなく、人の考え方に痕跡を残したいという考えがあります。

これは珠洲で制作する作品とも相性のいい考え方です。

巨大地上絵そのものはいつか消えても、地域の人たちが一緒に作った出来事や、「また珠洲へ行ってみたい」と感じた人の記憶は残ります。

数千㎡という途方もなく大きな作品を作りながら、最後は自然に返していく。

残らない絵だからこそ、何を残すのかを考えさせる。

そこに、世界中でサイープの巨大地上絵が作られ続けている理由があります。

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