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畑幸壯は川尻筆4代目!父・畑義幸から継ぐ文進堂と皇室献上の職人技

職人・伝統技術

4代目・畑幸壯が受け継ぐ川尻筆と文進堂

広島で皇室にも献上された伝統品を受け継ぐ職人一家。広島県呉市川尻町には、約100年にわたり家族で筆を作り続ける文進堂 畑製筆所があります。3代目・畑義幸さんから4代目・畑幸壯さんへ受け継がれた川尻筆の技、羊毛筆への挑戦、皇室との縁、化粧筆への進化、購入方法や筆づくり体験まで詳しく見ていきます。

この記事でわかること

  • 4代目・畑幸壯さんが受け継ぐ文進堂と川尻筆
  • 父・畑義幸さんが築いた羊毛筆の技術と実績
  • 皇室への毛筆献上や親子2代の伝統工芸士としての歩み
  • 川尻筆の値段・通販・筆づくり体験の利用方法

4代目が継ぐ文進堂と川尻筆の現在

(出典:文進堂 畑製筆所)

畑幸壯(はた こうそう)さんは、広島県呉市川尻町にある「文進堂 畑製筆所」の4代目で、川尻筆の伝統工芸士です。

文進堂の歴史は、1920年に初代・畑侑さんが内職として筆づくりを始めたことにさかのぼります。1930年に独立して文進堂畑製筆所を創業し、2代目・滿壽視さん、3代目・義幸さん、そして4代目・幸壯さんへと技術が受け継がれてきました。現在も広島県呉市川尻町で毛筆の製造と販売を続けています。

川尻筆は、現在の呉市川尻町で江戸時代末期から作られてきた筆です。さまざまな獣毛を組み合わせる「練り混ぜ」など、熟練を必要とする伝統技法が特徴で、2004年には国の伝統的工芸品に指定されました。

幸壯さんは1987年9月11日生まれ。幼い頃から父・義幸さんが筆を作る姿を見て育ち、2010年に家業へ入りました。

そして2024年2月25日付で川尻筆伝統工芸士に認定されています。父・義幸さんも川尻筆の伝統工芸士第1号であり、文進堂は親子2代で伝統工芸士として筆づくりを続ける製筆所になりました。

文進堂が特徴的なのは、単に昔ながらの筆を同じように作り続けているわけではないことです。

幸壯さんは、伝統技術を正確に受け継ぎながら、海外での実演や化粧筆の開発など、新しい使われ方にも挑戦しています。

「守る」だけではなく、川尻筆を次の時代に必要とされる道具へ進化させようとしているところに、4代目としての仕事の大きな特徴があります。

父・畑義幸から受け継いだ一子相伝の技

(出典:文進堂 畑製筆所「叙勲(瑞宝単光章)を賜りました」)

幸壯さんの師匠にあたるのが、父で3代目の畑義幸さんです。

文進堂では、原毛の選別から完成までを職人自身が手掛けます。広島市が認定する「ザ・広島ブランド」の川尻筆「義巧」も、義幸さんが受け継いだ一子相伝の技術によって70を超える工程を一貫制作し、その技が幸壯さんへ継承されています。

幸壯さんが職人になって最初から挑戦したのも、父が技術を確立した羊毛筆でした。

羊毛筆は、ヤギの毛を使う柔らかな筆です。ただ柔らかいだけではなく、毛の選別や組み合わせによって弾力や粘り、墨の含み方が変わります。

難易度の高い羊毛筆を最初から選んだ理由について幸壯さんは、難しい筆に挑むことで、筆づくりの考え方そのものを良い意味で変えたいという考えを示しています。基礎については父から徹底して教え込まれました。

親から家業を譲られるだけなら「4代目」にはなれます。しかし、同じ品質の筆を自分の手で作れるかどうかは別の話です。

特に文進堂では、機械で数値化しにくい毛の状態を、目、指先、経験で判断します。そのため、技術だけでなく「どの毛を選ぶか」という感覚まで世代を超えて継ぐ必要があります。

幸壯さんは子どもの頃から父に毛を見せられ、どちらの毛が良いのかを考えることで目利きを鍛えられてきました。

父が集めた希少な原毛を、将来は父以上の技術で筆に仕立てることも幸壯さんの目標の1つになっています。

8歳から筆づくりを学んだ3代目の職人人生

3代目・義幸さんの筆職人人生は、かなり早く始まっています。

義幸さんは1951年2月3日生まれ。8歳頃から学校が終わると、父で2代目の滿壽視さんのもとで筆づくりと田畑の仕事を手伝っていました。

中学校卒業後は高校へ通いながら本格的に修業し、高校を卒業する頃には、当時の筆づくりに必要だった全工程を身につけていたとしています。

それでも義幸さんは、既にできる仕事を続けるだけでは満足しませんでした。

より良い筆を作りたい、難しい毛を扱いたい、父を超えたいと考え、挑戦したのが羊毛筆です。

当時、羊毛筆は扱いが難しく、高品質なものを安定して作れる職人も限られていました。

義幸さんは毛1本ごとの特徴を見ながら研究を重ね、数百パターンに及ぶ毛の組み合わせのノウハウを築いていきました。

文進堂が保有する原毛には、1970年頃に中国・揚子江付近で入手した野生の雄ヤギの毛もあります。

広島市の「ザ・広島ブランド」に認定された「義巧」には、この希少な原毛が使われています。柔らかさだけでなく弾力があり、かすれや粘りといった書の表現につながることが特徴です。

4代目が受け継いでいるのは完成した技術だけではありません。

「もっと良い筆を作る」という3代目の姿勢そのものが、文進堂の家業継承で最も重要な部分といえます。

皇室への毛筆献上と職人一家の大きな実績

文進堂の歴史で大きな節目となったのが、皇室との縁です。

1978年、常陸宮・同妃両殿下が広島県を訪れた際、3代目・畑義幸さんが毛筆を献上しました。

1989年には、当時の天皇・皇后両陛下の広島県行幸啓に際し、義幸さんが筆づくりを実演しています。

義幸さんは2005年に川尻筆伝統工芸士第1号に認定。

2011年には伝統的工芸品産業功労賞の経済産業大臣賞を受賞し、2019年には瑞宝単光章を受章しました。同年には伝統文化ポーラ賞の地域賞にも選ばれています。

こうした実績を見ると、文進堂の「皇室に献上された筆」という言葉の背景には、長年積み重ねてきた職人技があります。

4代目の幸壯さんもその実績をそのまま受け取っているだけではありません。

2019年にはフランス・パリで筆づくりを実演。その後、パリの老舗画材店から注文を受け、約200本を納品した実績もあります。

国内の伝統工芸でありながら、使い手が国内だけに限られていないところも、現在の文進堂を知るうえで大切なポイントです。

70を超える工程と難しい羊毛筆への挑戦

文進堂の筆づくりは、完成までに70を超える工程があります。

大量生産の工場のように工程ごとに担当者を分けるのではなく、文進堂では職人1人が一貫して筆を作ることを大切にしています。

羊毛筆では、まず原毛を細かく選別します。

同じヤギの毛でも艶、毛先、形、弾力は異なります。最高級の羊毛では、顎の下から胸周辺の毛などをさらに細かく分け、その中から必要な毛を選びます。

その後も、

原毛の選別、毛組み、煮沸、綿抜き、火のし、灰もみ、先寄せ、寸切り、さらえ、毛混ぜ、練り混ぜ、芯立て

といった工程が続きます。

中でも「毛組み」は完成する筆の性格を決める、いわば設計図を作る工程です。

どの毛を、どの程度、どう組み合わせれば理想の線が出るのかを職人が判断します。

「先寄せ」では毛先を0コンマ数ミリ単位で整えます。寄せ板と寄せ鋼がぶつかる音を聞けば、その職人の技量まで分かるとされるほど繊細な仕事です。

さらに、羊毛筆で使われる古いヤギの毛は、長期間寝かせることでしなやかさや柔らかさが増す一方、扱いも難しくなります。

4代目の幸壯さんにとって、父が保管してきた希少な原毛をどう生かすのかは、技術継承の先にある新しい挑戦でもあります。

伝統技法から化粧筆へ広がった新しい仕事

(出典:Galerie Hata Bunshindou)

幸壯さんの仕事で興味深いのが、川尻筆の技術を化粧筆へ広げたことです。

2011年、幸壯さんはメイクアップアーティストと組み、川尻筆の伝統技術を使った化粧筆の制作に取り組みました。翌2012年には、川尻の筆職人として初めて化粧筆を手掛けた取り組みとして紹介されています。

書道筆と化粧筆は用途こそ違いますが、肌や紙に触れる穂先をどのように作るかという点では、長年培ってきた毛の選別・毛組みの技術を生かせます。

2022年には、川尻筆の伝統的な製法を使った化粧筆「AkebonoⅡ」が全国伝統的工芸品公募展に入選。

さらに2024年度の同公募展では、幸壯さんが制作した化粧筆**「調和 ~Harmony~」**が入選しています。

伝統工芸というと、「昔と同じものを作り続けること」を想像しがちです。

しかし幸壯さんの場合、父から受け継いだ川尻筆の技を土台にしながら、化粧筆や海外展開へ用途を広げています。

父を超えたいと羊毛筆を研究した3代目と、伝統を別分野へ広げようとする4代目。

方法は違っても、受け継いだ技をそのまま止めないという部分は親子で共通しています。

川尻筆の値段・通販・筆づくり体験

文進堂の川尻筆は、実際に購入できます。

代表的な商品として広島市の「ザ・広島ブランド」に認定されている**川尻筆「義巧」**があり、サイズによって価格が異なります。

  • 8mm×60mm:38,500円
  • 9mm×60mm:44,000円
  • 10mm×60mm:52,800円
  • 11mm×70mm:71,500円
  • 11mm×75mm:77,000円
  • 16mm×93mm:209,000円

一見すると高価ですが、原毛の選別から仕上げまで70を超える工程を職人が一貫して行い、希少な原毛を使っていることを考えると、一般的な学童用の書道筆とはまったく違う位置付けの商品です。

文進堂にはオンラインショップもあり、書道筆だけでなく化粧筆や大型筆なども扱っています。筆は毛の種類やサイズによって書き味が大きく変わるため、本格的な書道用を選ぶ場合は用途に合わせて選ぶことが重要です。

さらに川尻町の製筆所では、伝統工芸士・畑幸壯さんから直接教わる筆づくり体験も用意されています。

基本体験プランは20,000円で1グループ約1時間、2人から参加できます。川尻筆の工程のうち5工程を体験できます。

アレンジ体験プランは30,000円で約1時間30分。基本プラン以外の体験可能な工程を組み合わせられます。対象年齢は6歳以上で、13歳未満は保護者の同伴が必要です。予約締め切りは体験日の1週間前17時までとなっています。

製筆所の所在地は広島県呉市川尻町原山1-5-35です。来訪時は予約が必要と案内されています。

完成した筆を見るだけでは分かりにくい、毛を選ぶ難しさや0コンマ数ミリを調整する感覚を実際に体験できるため、川尻筆をより深く知りたい人には興味深い選択肢です。

3代目が8歳から身につけ、数十年かけて磨いてきた技術。それを4代目が受け継ぎ、化粧筆や海外へと広げています。

文進堂の歴史を見ると、家業を継ぐということは、昔の仕事をそのまま繰り返すことではありません。変えてはいけない技術を守りながら、次の使い手につながる仕事へ変えていくことが、畑幸壯さんが担う4代目の役割になっています。

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