西岡秀華が奈良の里山で「馬と暮らす」までの物語
2026年9月10日放送のテレビ東京系『ナゼそこ?』では、都会で暮らしていた35歳の女性が奈良の山奥へ移り、3頭の馬と共同生活を送る姿が紹介されます。番組表では女性の実名は伏せられていますが、奈良県桜井市萱森で3頭の在来馬と暮らし、「宿と馬 miru.house」を運営する株式会社miru.代表・西岡秀華(にしおか・しゅうか)さんの公開情報と人物像が重なります。
西岡さんの現在だけを見ると、馬のいる里山暮らしを実現した人という印象ですが、その道は突然始まったものではありません。幼いころに出会った1冊の絵本、会社員として働きながら続けた乗馬と書、2018年の退職、そして奈良の山で「働く馬」と出会ったことが、現在の仕事へ一本につながっています。
この記事でわかること
- 西岡秀華さんがアパレル会社員を辞め、奈良の里山へ向かった経緯
- 『スーホの白い馬』から始まった馬との長いつながり
- 株式会社miru.と「宿と馬 miru.house」が生まれるまで
- 3頭の馬との暮らし、鹿革馬具、宿泊・乗馬・商品の現在
アパレル会社員から奈良の里山へ向かった大きな転機
出典:〈桜井市〉里山で実践する、人と馬の親密な暮らし/株式会社 miru. 西岡秀華さん | 奈良の地域情報誌「yomiっこ」「Narakko!」
西岡秀華さんは1990年生まれ。立命館大学文学部を卒業し、大学卒業後はアパレル企業に就職しました。会社員として働く一方、週末は乗馬クラブへ通い、子どものころから続けてきた書にも取り組んでいました。現在も書壇・翠心会に在籍し、「人馬一體」など馬にまつわる言葉を作品の題材にしています。
大きな転機は2018年でした。
株式会社miru.の公式サイトには、通勤途中に駅の改札を通った際、緑豊かな里山で馬と暮らしながら書に取り組む自分の姿が浮かんだという西岡さん自身の文章が掲載されています。その後、会社を辞め、有機農業の研修へ進みました。
退職は、単に都会を離れたかったからではありません。
西岡さんが求めていたのは、「馬がいる暮らし」と「書」を日常の中に置くことでした。会社員時代にも馬から離れていたわけではなく、乗馬と創作を続けながら、自分が本当に取り組みたい生活へ少しずつ近づいていたことが分かります。
そして有機農業を学ぶ中で参加したイベントが、人生をもう一段大きく動かします。山の中で在来馬が間伐材を運び、その木を木質ペレットとして利用する取り組みを目にしたのです。
馬を乗馬のためだけに飼うのではなく、森を手入れし、地域資源を循環させ、人の暮らしの中で再び役割を持ってもらう。その光景に、西岡さんは自分が思い描いていた「馬との暮らし」の形を見つけました。
2歳で出会った「スーホの白い馬」が現在までつながった

出典:馬3頭が、お出迎え 奈良県桜井市の古民家宿「miru.house(ミルハウス)」 午年も「馬との暮らし」発信|奈良新聞デジタル
西岡さんと馬との関係をたどると、原点はかなり幼いころまで戻ります。
奈良の地域情報誌「Narakko」の本人インタビューでは、2歳のころに読み聞かせてもらったモンゴル民話の絵本『スーホの白い馬』がきっかけだったと紹介されています。何度も触れるうちに暗唱できるほど好きになり、大学時代には物語の舞台であるモンゴルを実際に訪れました。
なお、株式会社miru.の公式プロフィールでは「4歳のときから馬が好き」と記されています。年齢の表記には違いがありますが、幼少期の『スーホの白い馬』が馬への関心の原点だったことは両方の資料に共通しています。
もう1つ、西岡さんの人生から切り離せないのが「書」です。
小学3年生ごろから習字を始め、その後も書を続けました。やがて「駅」や「人馬一體」など、馬と人との歴史を感じさせる文字へ関心が広がります。
馬を飼いたいという憧れだけではなく、言葉や歴史を通じても「人間と馬は昔から一緒に暮らしてきた」ということに目を向けてきたことが、現在の活動につながっています。
2026年3月には初個展「馬と書が織りなす物語。」も開催。宿の運営や会社経営だけではなく、書家としての活動も現在進行形です。
3頭の馬と暮らす桜井市萱森での生活
現在の拠点は、奈良県桜井市萱森です。
里山の中にある「宿と馬 miru.house」では、西岡さんと3頭の在来馬が暮らしています。確認できる3頭は、木曽馬の「たから」、北海道和種の白馬「シルク」、同じく北海道和種の「タップ」です。
ここで特徴的なのは、馬が単なる観光用の存在ではないことです。
西岡さんが影響を受けた活動では、馬が山から間伐材を運び、その木をペレットストーブの燃料に利用していました。さらに馬の堆肥を農業へ利用するなど、「山→馬→農業→暮らし」という循環を作っています。
桜井市の広報でも、西岡さんは「馬と書が好きな人」として紹介され、馬との暮らしそのものが現在のライフスタイルになっていることが伝えられています。
馬に乗ることだけが目的ではなく、馬がいることで里山の仕事や景観、人の暮らしまでつながっていく。都会で乗馬クラブへ通っていた時代から考えると、「週末に馬へ会いに行く生活」から「馬と同じ土地で暮らし、仕事を作る生活」へ変わったことになります。
株式会社miru.設立と「宿と馬 miru.house」誕生まで
西岡さんは、はたらく馬牧場の取り組みに参加した後、活動拠点だった桜井市萱森へ移住しました。
そこで馬の堆肥を利用した循環型農業や、山の間伐材を活用する木質ペレットストーブの普及に携わり、その取り組みを受け継ぐ形で2021年に株式会社miru.を設立します。
会社の事業はその後、馬具、環境、宿泊へと広がりました。
そして2024年11月、miru.発祥の地に「宿と馬 miru.house」をオープン。築70年ほどの日本家屋をリノベーションした宿で、無垢材の床、漆喰、断熱材、木質ペレットストーブなどを取り入れています。
宿のテーマは、馬を眺めるだけの観光施設ではなく、「馬がいる里山の暮らし」を体験してもらうことです。
庭や放牧地には馬がいて、宿泊者は縁側からその姿を眺められます。宿泊プランでは里山乗馬をオプションで追加することもでき、西岡さんが長年思い描いてきた暮らしを、訪れた人も短期間ながら体験できる場所になっています。
春日鞣しの鹿革を使った馬具開発
株式会社miru.のもう1つの柱が馬具です。
2022年、西岡さんは奈良県宇陀市に伝わる「春日鞣し」の鹿革を使った馬具開発に着手しました。
開発された代表的な製品が「放熱バンデージ」です。
水を含ませた鹿革製バンデージを運動後の馬の脚へ巻き、熱を逃がすという発想の馬具で、miru.は春日鞣し鹿革の特性を馬のケアへ応用しています。2024年にはウマ科学会の学術集会で放熱効果の測定結果も発表しています。
この鹿革は馬具だけに使われているわけではありません。
公式オンラインショップでは、コラーゲンタオル、鹿革枕カバーなど人向けの商品も販売されています。ほかにも、馬と耕した里山で育てた棚田米などが並びます。
ペレットストーブ、馬具、宿、農産物。
一見すると別々の事業に見えますが、すべてに共通しているのは「奈良の里山にあるものを生かして、仕事と暮らしをつなぐ」という考え方です。
人生を変えた「謎の師匠」とはたらく馬牧場
西岡さんの2018年以降を語るうえで欠かせないのが、一般社団法人はたらく馬牧場との出会いです。
有機農業の研修中に紹介されたイベントで、西岡さんは在来馬が山道から間伐材を運ぶ姿を目にしました。
その間伐材を木質ペレットへ変え、地域のエネルギーとして使う。馬が自然の中で働き、その仕事が里山保全と経済活動につながっていることを知った西岡さんは、その考え方を自身の活動の基盤にしていきます。
はたらく馬牧場は奈良県桜井市萱森に拠点を置き、代表理事・牧場長を松川一人さんが務めています。また、元JRA調教師の角居勝彦さんも理事として活動しています。
2023年の同法人イベントでは、松川一人さん、角居勝彦さん、西岡秀華さんらがそろって講師として名を連ねています。
西岡さんの人生を大きく変えた「働く馬」との出会いが、この牧場を軸に生まれたことは確認できます。一方、番組予告にある「謎の師匠」が特定の誰を指すのかについては、番組や本人による実名の告知は確認されていません。
そこで人物を無理に1人へ当てはめるより、西岡さんがここで「馬と暮らしながら里山を守り、それを仕事にする」という具体的な道を見つけたことのほうが重要です。
宿泊・乗馬・商品購入につながる現在の活動
西岡さんの現在の活動は、実際に訪れたり購入したりすることができます。
「宿と馬 miru.house」は奈良県桜井市萱森1255にあり、1日1組を基本とする一棟貸しの宿です。公式予約ページではチェックイン15:00〜16:00、チェックアウト10:00までと案内されています。素泊まりプランは食事なしで、調理器具や基本的な設備を利用しながら滞在できます。
2026年8月に紹介された料金では、2名利用時の一棟貸し宿泊が55,000円〜、里山乗馬体験が1名8,800円〜とされています。宿泊日やプランによって料金は変わるため、予約時は公式予約画面に表示される金額が基準になります。
オンラインでは、株式会社miru.の公式ショップから商品を購入できます。2026年9月時点では、棚田米5kgが7,000円、コラーゲンタオルが33,000円、鹿革枕カバーが44,000円で掲載されています。
会社員を辞めて里山へ移ったところで西岡さんの物語が終わったのではなく、現在は「暮らす」「泊まる」「馬に乗る」「商品を作る」「書を表現する」という複数の形へ広がっているのが特徴です。
実用情報
施設名:宿と馬 miru.house
所在地:奈良県桜井市萱森1255
形態:1日1組の一棟貸し
チェックイン:15:00〜16:00
チェックアウト:10:00まで
食事:素泊まりプランは食事なし
乗馬:里山乗馬をオプションで追加可能
宿泊料金の紹介例:2名55,000円〜
里山乗馬の紹介例:1名8,800円〜
予約:公式予約サイトから受付
商品購入:miru.公式オンラインショップから受付
まとめ
西岡秀華さんの奈良での暮らしは、「都会を離れて馬を飼い始めた」という一言だけでは収まりません。
幼いころに『スーホの白い馬』と出会い、大学時代にはモンゴルを訪れ、会社員時代も乗馬と書を続けました。そして2018年にアパレル企業を退職し、有機農業を学ぶ中で「働く馬」と出会ったことが決定的な転機になります。
2021年には株式会社miru.を設立し、2022年に春日鞣し鹿革の馬具開発、2024年には「宿と馬 miru.house」を開業しました。現在は3頭の在来馬と暮らしながら、宿泊、乗馬、馬具、里山の商品、書の創作まで活動を広げています。
子どものころに憧れた「馬と人が一緒に暮らす世界」が、何十年もたって奈良の里山で仕事と生活そのものになった――。西岡さんの歩みをたどると、3頭の馬がいる現在までの道筋がきれいにつながって見えてきます。



コメント