「横浜の名建築をめぐる旅」
2025年6月3日放送の『よじごじDays』(テレビ東京)では、「歴史と文化を求め横浜の美しき名建築へ」と題して、MCの上地雄輔さんと倉野麻里さん、ゲストの久保田磨希さんが横浜の美しい名建築を巡りました。建物のデザインや歴史、隠されたエピソード、さらに発祥グルメまで、見どころ満載の旅が展開されました。放送された全エピソードをわかりやすくまとめてご紹介します。
横浜港大さん橋の斬新デザインに注目
旅のはじまりは、2002年に完成した「横浜港大さん橋国際客船ターミナル」からでした。この施設は、世界中の大型クルーズ船を迎える玄関口として知られていますが、何よりも注目すべきはその建築デザインの独自性です。建設当時、Windows95が発売されパソコンが家庭に広まり始めた時期に、いち早くコンピュータによる3D設計を導入したことが大きな話題となりました。
建物全体が、直線ではなく曲線のみで構成された流れるようなフォルムで作られており、従来の港湾施設とは一線を画すスタイルです。屋根は芝生が敷かれた全面ウッドデッキの屋上広場となっており、市民や観光客が自由に散策できる開放的な空間になっています。空と海を近くに感じることができ、晴れた日には多くの人が散歩や撮影を楽しんでいます。
また、屋上からは横浜の象徴「横浜三塔」をすべて望むことができます。
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キング:神奈川県庁本庁舎
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ジャック:横浜市開港記念会館
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クイーン:横浜税関
この三塔を一度に見渡せる場所は限られており、大さん橋はその数少ないスポットのひとつです。港側に視線を向ければ、停泊中の客船やベイブリッジ、さらにみなとみらいのビル群が視界いっぱいに広がり、横浜らしいパノラマ風景を堪能できます。
設計を担当したのはロンドンを拠点とするエフ・オー・アーキテクツで、彼らの代表作のひとつにも数えられています。この建物は曲面同士が連続してつながる構造をもつことから、当時の建築トレンドにも強い影響を与えました。
こうして、横浜港大さん橋は単なるターミナルにとどまらず、建築の魅力と市民の憩いを兼ね備えた空間として今も多くの人に親しまれています。港の歴史と未来をつなぐ象徴として、訪れる価値のある場所です。
和洋折衷の格式高い「キング」神奈川県庁本庁舎
次に紹介されたのは、「キング」の愛称で親しまれる神奈川県庁本庁舎です。1928年に竣工したこの建物は、関東大震災で前の庁舎が焼失したことをきっかけに建てられました。特徴的なのは、日本らしい和風の屋根を持ちながら、西洋のビル構造を取り入れた「帝冠様式」という独特な建築スタイルです。この様式は当時のモダンさと伝統の融合を象徴するものとして、多くの公的建築に取り入れられました。
内部には、折上格天井を持つ旧議場があり、日本建築の美しさを感じさせてくれます。現在は会議室として使用されていますが、細部の意匠には当時のままの面影が残されています。照明には、直線と立体を組み合わせたアール・デコ調の装飾が使われ、レトロで上品な雰囲気を演出しています。
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装飾塔には平安時代の仏教美術に使われた想像上の花がデザイン
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当時のまま残るオリジナルシャンデリアが天井を彩る
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設計は小尾嘉郎によるもので、旧帝国ホテルにも影響を受けている
さらに、特別な儀式に使われてきたのが正庁という部屋です。ここでは三大節(元日、紀元節、天長節)の拝賀式などが行われた格式ある空間であり、現在でも県の表彰式など重要な行事に用いられています。こうした歴史的な部屋が今も使われていることからも、この庁舎の重みが伝わってきます。
屋上からは、赤レンガ倉庫や横浜税関(クイーンの塔)などを一望でき、横浜の港町としての歴史や風景を一度に感じられるビュースポットにもなっています。建物そのものが生きた文化財として活用されており、横浜のシンボルとして多くの人々に愛されています。
横浜クラシックホテルの代表格「ホテルニューグランド」
1927年に開業したホテルニューグランドは、横浜のクラシックホテルとして長い歴史を持ち、今も変わらぬ気品と格式を保っています。港町・横浜の玄関口である山下公園に隣接し、多くの著名人が滞在したことで知られています。外観にはアール・デコやルネッサンス様式の要素が取り入れられ、建物全体が優美で格調高い雰囲気に包まれています。
中に入ると、重厚な空間が広がり、ひときわ目を引くのが大階段の上に掲げられた「天女奏楽之図」です。これは、京都の老舗織物メーカー川島織物が手がけたもので、天女たちが奏でる幻想的な世界を繊細な織りで表現しています。階段の周囲には、開業当時から大切に使われてきたアンティークの椅子が並び、来訪者を迎えます。
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キングスチェアは勝利の女神ニケをモチーフにした椅子
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顔をなでると幸運が訪れるといわれ、来館者にも人気
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装飾細部には洋の美と日本の粋が融合している
館内のフェニックスルームは、開業当初メインダイニングとして使われた部屋で、桃山様式を取り入れた豪華絢爛な空間です。漆喰の壁や格子天井、金箔を用いた装飾などが施され、まるで美術館にいるかのような感覚を味わうことができます。現在も特別なイベントや披露宴などに使用されており、過去と現在をつなぐ空間として大切に受け継がれています。
このホテルは、単なる宿泊施設にとどまらず、横浜の近代建築と文化の象徴として多くの人に愛され続けています。歴史を感じながら贅沢な時間を過ごせる場所として、訪れる価値のある名建築です。
名物料理の発祥も紹介!ドリアとナポリタン
ホテルニューグランドの魅力は建築や内装だけではありません。日本の洋食文化に大きな影響を与えた名物料理の“発祥地”としても知られています。番組内ではクイズ形式で紹介され、ホテル発祥の米料理として出題されたのが「ドリア」でした。
このドリアを考案したのは、初代料理長のサリー・ワイル氏。体調を崩した外国人宿泊客のために、バターライスにホワイトソースとチーズをかけてオーブンで焼き上げたのが始まりとされています。やがてこの料理は「シーフードドリア」などのバリエーションとともに全国に広まり、今では日本の洋食を代表する一品となっています。
さらにこのホテルからは、他にも名物料理が誕生しています。
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スパゲッティナポリタン
トマトケチャップを使った甘めの味付けで、日本の家庭料理としても定着。進駐軍の食材を参考に考案され、冷蔵庫にある材料でも作れる気軽さが魅力です。 -
プリン・ア・ラ・モード
アメリカ文化の影響を受けたデザートで、フルーツやクリームを添えて華やかに盛り付けられた洋風プリン。美しさと味の両方が楽しめる一皿です。
これらの料理はいずれも、横浜が異国文化の玄関口であったからこそ生まれた食の融合であり、ホテルニューグランドが果たしてきた文化的役割を物語っています。建物の中に歴史が刻まれているだけでなく、レストランの味にもその歴史が息づいていることが、訪れる人の心を惹きつけてやまない理由のひとつです。
東京駅に似た赤レンガの「ジャック」横浜市開港記念会館
続いて紹介されたのは、「ジャック」の愛称で親しまれる横浜市開港記念会館です。1917年に完成したこの建物は、横浜の開港50周年を記念して建てられたもので、赤レンガ造りの外観と高さ約36mの時計塔が目を引きます。設計を担当したのは福田重義で、彼は東京駅の設計者・辰野金吾に建築を学んだ人物でもあります。そのため、開港記念会館のデザインには東京駅を彷彿とさせる部分が随所に見られます。
1923年の関東大震災では内部が全焼しましたが、赤レンガの外壁だけは奇跡的に残り、わずか4年後には完成当時の姿を取り戻すことができました。これは地元関係者たちの粘り強い復興への努力の証でもあり、今もなお人々に語り継がれています。
館内には、細部にまでこだわった装飾が残されており、特に印象的なのが黒船をモチーフにしたステンドグラスです。これは、商工会議所の玄関から続く階段の先に設置されており、訪れた人々を鮮やかな光で迎えてくれます。また、かつての旧貴賓室には、木象嵌(もくぞうがん)による鳳凰の装飾が施されており、当時の職人技術の高さを今に伝えています。
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入口が2つあるのは、建物内を用途ごとに分けて使用していたため
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ステンドグラスは「宇野澤ステンド硝子工場」の作品
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東京帝国大学で学んだ福田重義による設計で、レンガの積み方にも工夫がある
この建物は、芸術性と公共性を兼ね備えた横浜の歴史建築の象徴とも言える存在です。現在も横浜市民の重要なイベントに使用されており、文化財としての価値とともに、生きた建築物として人々に親しまれ続けています。ジャックの塔を目印に、横浜の歴史を感じる旅には欠かせないスポットです。
「クイーン」横浜税関のイスラム様式建築
旅の最後に訪れたのは、「クイーン」の愛称で知られる横浜税関本関です。1934年に完成したこの建物は、当時としては非常に珍しい「イスラム様式」を取り入れたデザインが特徴です。曲線を生かしたアーチやタイル装飾、ドームの形状が異国情緒を漂わせ、横浜の国際性を象徴する建物として長く親しまれてきました。
塔のデザインは、帽子をかぶった貴婦人のように見えることから「クイーン」と呼ばれるようになったと伝えられています。その愛称は市民にも広く浸透し、三塔のひとつとして知られるようになりました。
建築当初、この塔の高さは47mでしたが、当時の税関長が「国の建物が県の建物より低いとは何事か」と発言したことから、塔の高さを急遽51mにまで引き上げる決定がなされたというエピソードも紹介されました。結果として、周囲の建物よりも高くそびえる現在の姿となり、今では横浜港のランドマークの一つです。
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塔の最上部は見張り台として使われ、海からの船を監視していた
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海側から見ると建物全体が左右対称(シンメトリー)にデザインされている
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GHQの接収時期に設計資料が一部散逸したといわれている
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旧税関長室は、戦後の一時期にマッカーサー元帥が執務室として使用していたという記録もある
また、2025年6月7日にはこの本館庁舎が一般公開され、普段は立ち入ることができない7階テラスや旧税関長室が特別に見学できる予定です。麻薬探知犬によるデモンストレーションや税関音楽隊による演奏会も開催されるとのことで、建物の魅力とともに横浜税関の役割を楽しく学べるイベントとなっています。
歴史と誇りを感じるこの建物は、横浜の文化的景観を形づくる大切な一部として、今も静かに港を見守り続けています。
横浜税関の内部も特別公開予定
番組の最後では、6月7日に横浜税関本館が一般公開されることも案内されました。普段は非公開の旧税関長室(マッカーサー元帥が執務したとされる部屋)や、横浜港を一望できる7階テラスが公開されるほか、麻薬探知犬のデモンストレーションや税関音楽隊の演奏など、さまざまなイベントが開催される予定です。
横浜の名建築は、見た目の美しさだけでなく、そこに刻まれた歴史と人々の物語が今もなお息づいています。今回の放送を通して、建築を通じた横浜の魅力を再発見できる内容でした。観光の際には、ぜひ実際に訪れてその空気を感じてみてください。
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