【人生の楽園】福島・飯舘村の奇跡!カボチャ『いいたて雪っ娘』が生んだ“までい”の宿『古今呂の宿 福とみ』の物語|2025年10月25日

人生の楽園

故郷を愛し続ける女性の挑戦 “夫婦の夢”を今に伝える宿

福島県の山あいにある飯舘村。豊かな森と田畑に囲まれたこの村に、今、多くの人が集う温かな宿があります。『古今呂の宿 福とみ』――それを営むのが、渡邊とみ子さん(71)。夫の福男さんと共に長年思い描いてきた「農家民宿を開く」という夢を、夫の死を乗り越えて実現させました。
夫の福男さんは、大工として地域の建物を多く手掛けた職人。民宿づくりも自ら設計し、「人が集まり、笑顔が広がる場所にしたい」と語っていたといいます。ところが2018年、病に倒れ帰らぬ人となりました。深い悲しみの中で、とみ子さんは「彼の夢を完成させなければ」と再び立ち上がります。
慣れない大工仕事に挑みながら、壁を塗り、床を磨き、庭の草を抜く。ひとつひとつ、夫と共に歩んだ日々を思い出しながら手を動かしたそうです。そうして昨年、ようやく宿は完成。「ここまで来られたのは夫のおかげ。空の上で見守ってくれていると思う」と笑顔で語る姿が印象的です。

震災と避難を越えて守り抜いた“村の宝”『いいたて雪っ娘』

とみ子さんのもうひとつの顔は、地域特産カボチャ『いいたて雪っ娘』の生産者。このカボチャは白い皮に濃厚な甘みが特徴で、スイーツにも向く“幻のかぼちゃ”と呼ばれます。
しかし、2011年の東日本大震災と原発事故で飯舘村は全村避難。田畑は荒れ、雪っ娘の栽培も途絶えかけました。それでも彼女はあきらめませんでした。避難先の福島市でわずかな土地を借り、夫とともに栽培を続け、「いつか村に戻れる日を信じて」種を守り続けました。
2017年に避難指示が解除されると、再び飯舘の畑に立ち、「この土地の味を絶やさない」と雪っ娘を植えました。今では地域ブランドとして確立し、県外からも注文が入るほどの人気です。

『古今呂の宿 福とみ』に広がる“ふるさとの食卓”

宿で味わえるのは、雪っ娘を中心にした心温まる料理の数々。『雪っ娘グラタン』『かぼちゃスープ』『かぼちゃ蒸しパン』など、地元の野菜や山菜をふんだんに使ったメニューが並びます。大皿に盛られた料理はどれも手づくりで、食卓を囲むとまるで親戚の家に来たような安心感があります。
料理には「までい」の心が込められています。“までい”とは飯舘の言葉で「丁寧に、手間を惜しまず」という意味。渡邊さんは「急がず、焦らず、手をかけることが一番の調味料」と話します。宿を訪れた人は、食事のあたたかさだけでなく、料理を通して感じる“人のぬくもり”に癒やされるのです。

農業体験と語らいが生む、忘れられない時間

宿泊者は、畑での収穫体験や、地元野菜を使った料理教室にも参加できます。春には山菜摘み、夏には雪っ娘の収穫、秋には干し柿づくり、冬は囲炉裏を囲んで語り合う――季節ごとに異なる体験が楽しめます。
「都会から来たお客さんが“また帰ってきたくなる”と言ってくれるのがうれしい」ととみ子さん。宿は“泊まる場所”ではなく、“人がつながる場所”として息づいています。地元の人々も時折集まり、昔話や料理の知恵を語り合う光景が見られるそうです。

農家の知恵を次世代へ “6次産業化”でつなぐ未来

渡邊さんの活動は、単なる宿経営にとどまりません。栽培・加工・販売・体験・宿泊を一体化した6次産業化のモデルケースとして注目されています。雪っ娘を使った加工品――『雪っ娘プリン』『雪っ娘パウンドケーキ』などは人気商品。自家製の甘みと素朴な味わいで、リピーターが増えています。
また、動物による被害を防ぐために電気柵や空砲を設置し、品質管理では糖度や水分量の測定まで行う徹底ぶり。「基準に満たないものは出荷しない」ときっぱり語る姿に、プロの誇りが感じられます。

飯舘村に息づく“までい”の精神

「までいに生きる」という言葉が、彼女の人生そのものを表しています。震災・避難・夫の死――幾多の試練を越えても、笑顔で前に進む渡邊さんの姿は、飯舘村の復興の象徴ともいえる存在です。
「この村の自然や食文化を次の世代に伝えたい」「ここでしか味わえないものを届けたい」。その想いが、『古今呂の宿 福とみ』を支える原動力になっています。

まとめ

渡邊とみ子さんは、亡き夫との夢を叶え、飯舘村で農家民宿『古今呂の宿 福とみ』を開業。
・地域特産のカボチャ『いいたて雪っ娘』を中心に、郷土の味と“までい”の心を伝える。
・震災・避難・夫の死を越えて、「あきらめなければ夢は叶う」という信念を今も体現している。
・宿は“泊まる場所”ではなく、“人と人がつながる場所”。農業体験と郷土料理で、訪れる人に故郷のぬくもりを届けている。

夫婦の夢が実ったこの宿には、福男さんの想いも、村の人々の願いも息づいています。小さな山里の宿から広がる“までいな暮らし”は、きっとこれからも多くの人の心を温め続けるでしょう。

出典:
・復興庁「風評の払拭に向けて」 https://www.reconstruction.go.jp/fukko-pr/2018/fukushimanoima/shiru/reports/report-64/
・飯舘村公式サイト https://www.vill.iitate.fukushima.jp/shokutokurashi/140/
・NPO法人あぶくま地域づくりネットワーク https://www.npo-abukuma.org/20240328003-2/
・までい工房美彩恋人 https://madei-koubou.jp/

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