年末の京都を電車で味わう、心が動く2時間の旅
このページでは『ぶらり途中下車の旅(2025年12月27日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。今回の舞台は京都。嵐電・烏丸線・京阪電車を乗り継ぎながら、年末の空気が漂う街で、人の思い、手仕事の温度、食の奥深さに出会っていきます。松下由樹、風間トオル、塚田僚一が歩いた道を追うことで、観光地とは少し違う京都の表情が見えてきます。
だるまに込められた願いから始まる旅
旅のスタートは上京区の法輪寺です。
法輪寺は「達磨寺」とも呼ばれ、境内に足を踏み入れると、視界いっぱいに広がるおよそ8000体のだるまが強い印象を残します。赤や白、大小さまざまなだるまが静かに並ぶ光景は、京都の街中にありながら、少し別の時間に入ったような感覚になります。
住職の話によると、これらのだるまは一度に集められたものではなく、奉納されたり、人と人との縁によって少しずつ集まってきたものだそうです。その積み重ねが、今の姿につながっています。
法輪寺は江戸時代の1727年創建という長い歴史を持つ寺で、時代の流れを静かに見守ってきました。
特に印象的なのは、終戦直後からの取り組みです。戦後の混乱の中で、「日本がだるまのように、何度倒れても再び立ち上がってほしい」という願いを込め、境内のあちこちにだるまを祀るようになったといいます。その思いは今も変わらず、訪れる人それぞれの気持ちと自然に重なります。
年末という節目の時期にこの場所から旅が始まることで、これから先へ進む力を静かにもらえるような、そんな始まりでした。
駅へ向かう途中で立ち寄ったのが京やさい佐伯です。
北野白梅町駅の近くにある八百屋で、店先にはその時季ならではの京野菜が並びます。松下由樹は店の人におすすめを聞きながら、野菜の特徴や使い方について話を聞いていました。
観光向けではなく、地元の暮らしに根ざした野菜が並ぶ様子から、京都の日常が感じられます。畑や季節とつながる野菜の話を聞くうちに、京都の暮らしはまず食から始まっているのだと、自然と伝わってきます。
寺の静けさと、八百屋の生活感。その対比が、この日の旅をより印象深いものにしていました。
嵐電北野線100年、途中下車が生む物語
この日の旅は嵐電北野線から始まります。
1925年開通の路線で、2025年は100周年という大きな節目の年にあたります。京都の住宅街や寺町のすぐ脇を走る路面電車は、観光のためだけでなく、地元の人の毎日の足として長く使われてきました。
そんな歴史を重ねてきた嵐電に揺られながら、北野白梅町駅から乗車します。
途中で下車したのは等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅。
学生の往来と落ち着いた街並みが混ざり合うこの場所で、松下由樹が向かったのがデザインハウス風 アトリエ&ショップです。
ここは、図案を考えるアトリエと販売スペースが一体になった空間。
作品づくりの出発点から完成品までが、同じ場所でつながっています。使われている素材は、マニラアサという植物から作る紙の糸。その糸を特殊な機械で編み込み、一枚の生地に仕立てていきます。
生地はそのまま使われるのではなく、バッグの形に成形され、最後は一点ずつ手作業でペイントされます。色の重なりや筆の動きには同じものがなく、まったく同じ仕上がりのバッグは存在しません。
素材選び、編み、形づくり、色付けという工程を、複数の人の手が受け継ぎながら完成させていく流れが、この場所では自然に行われています。
制作の様子を間近で見ることで、バッグは単なる商品ではなく、時間と手間が積み重なった存在として感じられます。
何気なく手に取るものでも、その背景を知ると物の価値が少し違って見えてくる。嵐電の途中下車だからこそ出会えた、そんな場所でした。
和菓子と寺町、暮らしに溶け込む甘さ
嵐電に乗って向かったのは妙心寺駅です。
駅周辺は観光地というより住宅街の雰囲気が強く、静かな通りの中に溶け込むように佇んでいるのが御室和菓子 いと達です。
この店では生菓子が評判で、なかでも紹介されたのが飲めるほど柔らかいわらび餅。
器に入ったわらび餅は、箸で持ち上げるというより、すくうように口へ運ぶほどのやわらかさで、口に入れるとすっと形が消えていきます。素材の持ち味を生かした甘さが印象に残ります。
店内に入ってまず目を引くのが、今風で洗練された内装です。
実はこの空間を手がけたのは店主の妻で、和菓子店らしい落ち着きと、現代的な感覚が自然に組み合わさっています。伝統的なお菓子でありながら、気負わず立ち寄れる空気があり、住宅街に根づく和菓子屋としての存在感が伝わってきます。
続いて下車したのは太秦広隆寺駅。
松下由樹が向かったのは、広隆寺のほど近くにある旧徳力彦之助邸です。
この建物は昭和10年ごろに建てられたもので、住宅・工房・店舗を兼ねたつくりになっています。外観からは想像しにくいのですが、内部には驚くような物語が詰まっています。
使われているのは、タイタニック号より5年前に造られた豪華客船の部材。当時の技術と意匠が、そのままこの建物の一部として生かされています。
特に印象的なのが暖炉です。
この暖炉もまた、客船で実際に使われていたもので、時代を超えて静かに存在しています。単なる装飾ではなく、海を渡ってきた歴史そのものが、建物の中に息づいているようです。
現在、旧徳力彦之助邸は金唐革の工房として使われています。
室内には金唐革の財布や革製品が並び、伝統技法を今に伝える場となっています。商品だけでなく、建物そのものが語り部となり、訪れる人に時間の重なりを感じさせます。
和菓子のやさしい甘さから、豪華客船の記憶を宿す建物まで。
嵐電での途中下車は、京都の街に隠れている異なる時代の物語を、自然な流れでつないでいきました。
西院から四条大宮、甘さと道具の寄り道
西院駅で風間トオルが合流し、2人が向かったのがSHUKA/種菓です。
ここは1926年創業の甘納豆屋が手がける店で、長年受け継がれてきた豆菓子の技を、今の感覚で楽しめる場所として紹介されました。
店内には、さまざまな種類の甘納豆が並び、素材や仕上げの違いを比べながら味わえるのが特徴です。
風間トオルは甘納豆の食べ比べを選び、松下由樹は甘納豆を使ったジェラートを注文しました。
このジェラートは、牛乳や卵を使わず、豆乳やアーモンドミルクをベースに作られています。豆そのものの風味が生きていて、口当たりは軽く、それでいて満足感があります。
甘さは控えめで、素材の味が前に出てくるため、甘いものが得意でない人でも自然に食べ進められる印象です。
長い歴史を持つ甘納豆が、新しい形で楽しまれていることが、店全体から伝わってきました。
続いて向かったのは四条大宮駅。
ここで立ち寄ったのがイワタコマチヤです。
町家を活用したこの空間の1階には、100種類を超えるカトラリーやフライパンが並びます。
見た目だけでなく、実際の使いやすさを考えて選ばれた道具ばかりで、料理をする人の目線が感じられます。
隣にあるフライパン専門店では、実際にフライパンを試すことができるのも特徴です。重さや持ち手の感触、火の通り方などを確かめながら選べるため、道具選びそのものが体験になります。
2階に上がると、そこはうちわと扇子の専門店。
季節や使う場面を思い浮かべながら、一つ一つの形や絵柄を見る時間が流れます。料理の道具から、風を送る道具へと視点が移り、暮らしに寄り添う道具の幅広さを感じさせます。
甘さを味わう時間から、手に取って選ぶ時間へ。
西院から四条大宮にかけての寄り道は、京都の日常に根づいた楽しみ方を、静かに教えてくれる流れでした。
伝統文化と夜の京都、旅の深まり
烏丸線に乗り、向かったのは烏丸御池駅です。
ここで訪れたのが、木版刷の老舗出版社・芸艸堂。京都の中心部にありながら、時間がゆっくり積み重なった空気を感じる場所です。
案内してもらったのは、普段は非公開の蔵。
中には、江戸時代末期からの版木が数万枚も大切に保存されており、その量と重みは圧倒的です。木の板一枚一枚に刻まれた線や文字は、当時の職人の息づかいがそのまま残っているように感じられます。
蔵には、葛飾北斎の作品に関わる版木も含まれており、単なる資料ではなく、今も使われ続けている「現役の道具」であることが特徴です。
芸艸堂では、印刷から製本までを昔ながらの技法で行い、失われがちな木版文化を、現在のかたちでよみがえらせています。本が完成するまでの工程すべてに、人の手が関わっていることが強く伝わってきます。
2階では水引教室が開かれていました。
細い水引が立体的な形へと変わっていく様子から、祝い事や季節行事と結びついてきた和の文化が、今も日常の中で受け継がれていることが感じられます。過去の技と現在の感性が、同じ空間で自然に共存していました。
その後、三条大橋へ移動し、ここで塚田僚一が合流します。
3人で向かったのはごはんとお酒 Jinsuke。落ち着いた雰囲気の店内で、季節のおまかせコースを味わいます。
料理の中でも特に印象的だったのが、名物のハマグリしゃぶしゃぶです。
鍋にさっとくぐらせることで、ハマグリの旨みが一気に広がり、素材そのものの力が前に出てきます。余計な味付けに頼らず、素材の良さを引き出す仕事ぶりが、料理の一皿一皿から伝わってきました。
長い歴史を刻む版木の世界から、今この瞬間の旬を味わう食の時間へ。
烏丸御池から三条大橋までの流れは、京都という街が持つ奥行きを、静かに、しかしはっきりと感じさせるひとときでした。
七条と東福寺、かわいさと技の締めくくり
七条では、ラバーダック専門店Ducksを訪れました。
店内に一歩入ると、棚いっぱいに並ぶのは世界各国のラバーダック。色や形、表情もさまざまで、見ているだけで自然と気持ちがほぐれていきます。
この店は、ラバーダックだけを集めた専門店という珍しさもあり、子ども向けのおもちゃという枠を超えた存在感があります。
塚田僚一はその中から、富士山ダックをはじめとした数点を購入。京都という土地で、日本らしさを感じるモチーフを選ぶ流れも印象的でした。
高瀬川や鴨川が近い七条の街並みと、カラフルなアヒルたちの組み合わせが、旅の空気をやわらかくしてくれます。
その後、京阪電車に乗って東福寺駅へ移動。
向かったのは、清水焼の工房洸春窯です。
工房では、いっちん技法を使った制作の様子を間近で見せてもらいました。
いっちんとは、柔らかい土や化粧土を絞り出すようにして文様を描く技法で、線の太さや盛り上がりに作り手の感覚がそのまま表れます。
実際に器が形づくられていく過程を見ることで、完成品だけでは分からない手の動きや集中の時間が伝わってきました。
土に触れ、形が生まれ、焼き上げられていく。
その一連の流れを目にすることで、器が日常に並ぶまでの背景が、より身近なものとして感じられます。
旅の締めくくりは、再び七条に戻っての食事です。
訪れたのは、うなぎ料理専門店わらじや。
ここで味わったのが名物のうなべ。
うなぎを筒状に切って丁寧に焼き、中骨をしっかり処理したうえで、かつおと昆布のだしを合わせたおすいものです。脂の強さは抑えられ、だしの旨みとうなぎの風味が静かに広がります。
さらに、うなべとうぞふすい、まむし御膳 特上も登場。
うなぎを重ねてきた老舗ならではの仕事が、一品一品から感じられます。派手さではなく、積み重ねてきた時間が味に表れていました。
かわいらしい雑貨から、土と向き合う工房、そして老舗のうなぎ料理へ。
七条周辺での流れは、京都の懐の深さをそのまま映すような締めくくりとなり、年末の旅にふさわしい余韻を残しました。
まとめ
ぶらり途中下車の旅 年末京都2時間SPは、京都の街を電車でつなぎ、人の思い、手仕事、食文化を丁寧に拾い上げた回でした。だるまに込められた願いから始まり、甘さや道具、伝統文化、夜の一杯へと進む流れは、年末にふさわしい静かな高まりがあります。観光地としての京都ではなく、暮らしの延長にある京都を感じられる2時間でした。


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